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22.ファイアリザードの意志

 「リマロン、子分を連れて撤退しろ」


 状況は混沌としていた。

 主を失った猛禽たちは上空を激しく飛び回る。

 新たな侵略者たちは火を吹き草花を燃やす。

 こちらのモンスターは先ほどの戦闘で疲弊している。

 まともに交戦出来まい。


 「ボスは?」

 「ちょっとやることがある」

 「危ないよ」

 「大丈夫。すぐに戻る」


 不安げな顔でリマロンは渋々頷く。

 しかしその後行動は早く、装備などは全て捨ててあっという間にラビブリンたちを連れて撤退していった。


 侵略者はダンジョンの意志が率いていた。

 炎の魔物はスカイホークを無視して俺を追いかけてくる可能性がある。

 このまま撤退すれば、ラビブリンたちが危険だ。

 上空に浮かび上がると偽りの空に手をかざした。

 ならば追えない状況を作るまで。

 早速、【青空】が役に立つ。無論、召喚するのではない。


 分解。

 光差す青空が急に暗くなり何も見えなくなる。

 俺と空にいた魔物たちは突然現れた天井によって押し込められる。

 驚く程多くのソウルが体中に駆け巡る。

 感動もそこそこに敵を確認。

 狙い通り、火の魔物たちの真上に風の魔物たちが位置取りしている。

 どちらも急接近した敵に戸惑っていたが、戦闘が始まるまで大した時間はかからなかった。

 その隙に俺は急いで部屋から脱出した。


 迷宮スキルを持つ対象は破壊せずにソウルに変換できる。

 【青空】なんて漠然とした対象に発動した試しがないため少し不安だったがうまくいってよかった。

 

 「おかえり。ムチャするなんてらしくないじゃん」


 捲し立てるリマロンに俺は説明した。


 「このまま撤退しても時間が稼げない可能性があった。鷹と侵入者が確実に争う状況を作る必要があった」

 「ボスが死んだら私たちの負けなんだら、そーいう作戦はコブンを使ってよ」

 「その子分が戦えないための撤退だ。そもそも打ち合わせる時間がなかった。俺が動くしかないだろう」

 「ふーん、それにしてもボスって意外とキビンに動くんだね」


 それに、と俺は心の中で続ける。

 例えラビブリンたちが回復しても、あのモンスターの一団と正面から戦闘するのは少し怖い。

 ラビブリンたちの防御面を考えると格上のランク帯のモンスターの攻撃は受けきれまい。

 少し卑怯かもしれないが、強敵同士潰し合ってもらうことはこっちにとって都合がよかった。

 戦いはまだまだ続く。ちょっとでもソウルの消耗は抑えた方がいい。

 いずれにせよ、俺が対応すべき状況だった。


 「で、これからどうすんの?」

 「迎撃態勢を整えるぞ。この部屋は草が多い。燃やされたらこちらに不利だ」

 「じゃあ、まずは草むしりだね。 シャベル使う? それても土波でどばぁーってやっちゃう?」

 

 いや、俺には【チビキビ】がある、と俺は床に手をかざし地状を滑るように飛び回る。

 草が分解しソウルに変わる。しかし、全ては分解できず、結局床には草が生えたままだ。


 【ハイドラット】

 【ランクE】


 謎のモンスターだと思っていたハイドラットは植物だった。

 同じイネ科の植物だろうが、チビキビと比べて背が高く、葉の形も穂の形状も全然違う。

 冒険者時代には触れたことのないはじめての野草だ。名前も聞いたことがない。

 戦闘に気を取られていたことと宙を浮いて移動していることで2種類の植物が混じっていることに全く気付かなかった。


 「ひひっ、自信満々でそれはないよ。とりあえず、入り口前だけやっちゃうね」


 リマロンが土波を放つ。衝撃波が地面を巻き上げる。

 南口周辺の雑草は全て吹き飛んだ。

 気恥ずかしさで顔から火が出る思いだが、迅速なリカバーは素直に助かる。

 俺は【針砂利】を使い、草の消えた地面に敷き詰めた。

 その周りに【鉄鋼岩】を並べる。ポイズンスライムの部屋に敷いた防衛陣と似たものを作った。

 ただし、こちらには仕切りがないため、南口を囲むように半円状に作る必要があった。

 使用ソウルは大きかったが、スカイホークの部屋で回収した分を全て吐くほどではなかった。


 岩の上に見張りを立てて迎撃態勢が最低限整った。

 敵兵を待ちながら、現状の攻略状況の整理をしよう。


 ◆-□-?

 | 

 □ 

 | 

 ■

 | 

 □-?


 ◆:本拠地 ■:現在地 □:探索済み

 ?:未探索 ー:出入口


 部屋の数で考えるならば、12部屋中5部屋を探索した。

 最南の部屋は強敵同士で争っているので今は侵入できない。

 よって、こちらが自由にできるのは4部屋だ。

 それも東の防衛陣が突破されていない前提だ。

 防衛陣はしっかりと組んでいるが、この戦いは想定外の出来事が良く起こる。

 出来れば一度状況を確認したい。

 

 後方支援チームの1匹がやってきて、リマロンに耳打ちをする。

 どうやら東の防衛陣の情報が届いたようだ。

 指示がなくてもうまく機能しているようで少し安心する。


 「東のボーエージンの隣の部屋は、なんかイワイワしたヤツだって。たぶん前に倒したゴーレムだよね? でっかい虫と戦っててこっちには攻めてきてないみたい」


 ロックゴーレムか。

 ラビブリンは防衛だけでなく、敵情視察もやってくれているようだ。

 指示以外のことも積極的にやってくれるのは頼もしくもあり、怖くもある。

 俺は軍師ではない。足りない戦術を補ってくれるのはありがたい。

 ただ、ラビブリンは生きたロックゴーレムを見たことがないはず。

 別の亜種モンスターの可能性も十分にある。


 そこも頭に入れて行動すべきだろうが、正直余裕がない。

 ゴーレムが負けそうになったら加勢して、戦線維持に努めるようにリマロンを通して指示をすると伝令役の兎小鬼は本拠地へ戻っていった。

 今は耐えてもらうしかない。


 不意に訪れる体を圧縮されたような感覚。

 南の方からだ。

 おそらくスカイホークの部屋の支配領域が炎の魔物の意志に奪われたのだろう。

 痛みや不快感があるわけではないのが逆に怖かった。

 ダンジョンとして死ぬときはこんな感じなんだろうか。


 「ボス、どうしたの。怖い顔してる」

 「そろそろ敵が攻めてくるかもしれない。準備しろ」

 「あいあいさー」


 まだ戦えるラビブリンたちを総動員して守りを固める。

 敵が攻めてきたら、高所を生かして魔法で迎撃。

 可燃物も取り除いたし地の利はこっちだ。

 さぁ、いつでもこい。


 「ボスぅ、なかなか来ないよ?」


 南口は黒いオーラで中が見えない。

 他のダンジョンの支配領域が展開しているので部屋を落されたのは間違いないはず。

 なかなか攻めてこないのはあちらも中が見えないからか。

 こちらの罠を警戒しているのか。

 それともあっちも防衛体制を整えているのか。


 不気味なほど動きがない南口を見つめる事しかできなかった。

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