20.スカイホークの意志
敵視点のお話です。
僕はスカイホークの意志。
将来有望なダンジョンの卵さ。
どうして将来有望かって?
それは僕が生まれながらにしてランクBの迷宮スキルを持っていたからさ。
助言者が教えてくれたんだ。
生まれながらにランクBのスキルを持っているのは相当珍しいことだって。
それはつまり僕がダンジョンとして優れていた素質を持っているということなのさ。
実際、同じ部屋生まれのダンジョンにBどころかランクCのスキル持ちすらいなかった。
第一波は僕の圧勝だった。
【青空】と【スカイホーク】のコンボは最強なのさ。
攻撃圏外から狙いを定め、モンスターの間を縫って、ダンジョンの本体に突撃。はい、これで僕の勝ち。
僕の部屋に入った敵は優雅に空を舞う僕のモンスターの前に何もできずにやられていった。
サイズミンクの意志だけはそれなりに抵抗してきたけど、最終的に僕が勝った。
おかげでスキルも遺志も手に入ったしね。
【サイズミンク】はなかなか使い勝手が良いし、遺志を使って召喚したボスモンスターはなんとランクC+の【スカイイーグル】だった。
サイズミンクの意志君には感謝しているよ。有能な僕をもっと強くしてくれたんだから。
強力な力を手に入れた今、今回の戦いもそんなに苦労なく勝てるだろうと思っていた。
戦いが始まる前はね。
大二波が始まってすぐ西の部屋を取ったいいものの、その次の相手が厄介だった。
炎を操る魔物がいたんだ。
やつは地面を炎で覆ったのさ。
これじゃミンクたちで攻めに行けないじゃないか。
ホークたちでも厳しい。
僕のホークたちの強さの秘密は飛行能力によって有利な場所で戦えることさ。
だから天井のあるダンジョンでは本来の力を発揮できない。
床の炎を避けれても、天井のせいで熱や煙からは逃げられない。
こっちからは攻められない。でも、手詰まりは相手も同じ。
【青空】さえあれば一気に形成逆転さ。
炎が届かない上空から一方的に返り討ち。
その結果が、互いに有利な地形で陣を張って睨み合い。
そして起こるのが膠着状態。
いいだろう。君のことは僕のライバルとして認めよう。
好敵手の出現に僕の透明な胸は高まっていた。
でも、それがいけなかった。僕としたことが熱くなりすぎた。
意識をそこに奪われてた結果、せっかく追い詰めた獲物を横取りされてしまったのさ。
そう、僕の部屋には2つの扉があったのさ。
西に構っている間に、北の隣の部屋が落とされてしまったんだ。
早速、僕は北から攻めてきた盗人の情報収集を始めたのさ。
退却してきたサイズミンクはダメージを負っていた。
でも、不思議なことに外傷がなかったんだ。
不思議に思って、ボスモンスターのスカイイーグルから聞き取りをしてもらって、分かったことは以下の通りさ。
・盗人ダンジョンは飛ばない鳥、謎の草、大きな鬼か熊(?)のようなモンスターを召喚する。
・鳥が草を食べると爆音が発生する。
・爆音は直撃すれば即死だが風のバリアで軽減できる。
慌てて退却したらしく不確実な情報もあるけど、こっちはこっちで厄介な相手みたいだ。
でも、ライバル君と違ってこっちの相手はまだ勝ち筋が分かりやすい。
モンスターは統一感がない。スキルにシナジーを感じない。美しくない。
強力な爆音攻撃頼りの一発屋って印象さ。
相手の攻撃手段は音。それは回避不可避の危険な攻撃に思える。
確かに狭いダンジョンじゃ逃げ場がないかもね。
でも、僕のモンスターたちはみな風魔法のエキスパートさ。
音は風で散らせるし、天井のない僕のフィールドなら十分に距離もとれる。
実際、サイズミンクがこうして帰ってきている時点で初見で対応できたわけだしね。
即死級のダメージの回避は難しくないはずさ。
さらにこっちは上空から一方的に攻撃も可能。
サイズミンクの意志とやりあった時みたいに持久戦に持ち込めば、きっとまた僕の勝ちだね。
あれ、おかしいな。優秀なはずの僕なのに追い詰められていないかな。
いや、そんなはずはないのさ。確かに二面から攻められているけど、どちらの相手も攻めきれない。
痺れを切らして雑に突っ込んできたところに華麗なカウンターを決めてやるのさ。
お、北から攻めてくるみたいだね。盗人君、獲物を取られた恨みを込めて返り討ちにしてあげるよ。
そして決着まで大人しく待っててくれよ。炎のライバル君。
相手ダンジョンの編成は赤茶色の獣人と二足で立つ兎、いずれも事前情報にないモンスターだね。
情報と違うね。どうやら盗人ダンジョン君は、このダンジョンに狩られたみたいだね。横取りなんてするから足元をすくわれるのさ。
【ボスラビブリン(BOSS)】
【ランクC+】
【ラビブリン】 【アイアンシャベル】 【忌土】
【ランクD】 【ランクD】 【ランクD】
初めて敵のボスモンスターを見たよ。
僕のスカイイーグルと同ランク、強敵だね。
配下の兎はシャベルで武装し、茶色い塊を持ってきている。
相手ダンジョンは頭がいいね。遠距離攻撃の重要性を理解しているようだ。
その戦略でいままで一方的に狩ってきたんだろうね。
ただの土団子に見えるけど、なにか仕掛けがあるんだろう。僕は油断しないのさ。
僕はスカイイーグルの高度を上げるように指示を出す。
取り巻きのスカイホークも追従する。
僕のモンスターたちは魔法の風を纏っている。
土団子の投擲だろうが、魔法での攻撃だろうが、これだけ離れたら通らないよ。
おかげで地上の音が拾いにくいけど、問題ないはずさ。
まぁ、その前に地上のサイズミンクたちをどうにかしないと攻撃もままならないだろうけどね。
こっちは高みの見物さ。
小鬼がシャベルの腹に土団子を乗せ、振りかぶった勢いで投げてくる。
そんなスピードじゃサイズミンクには当たらないのさ。
ほら、外れた。…あれ。
今、外れたよね。どうしてサイズミンクは倒れたのかな。
相手の攻撃は当たってないのに、ミンクたちが次々倒れていく。
相手の黒いオーラが薄く床を覆っている。
不快だね。不可解だね。
どうして地上の僕のモンスターが一方的にやられているのさ。
いや、落ち着け。いままで僕はスカイホークで勝ってきた。
まだ相手の攻撃はここまで届いていない。
こっからカウンターを決めるのさ。
小鬼が土団子を投げてきた。
スカイホークが風の弾丸を飛ばして撃墜する。
当たった瞬間、大気の流れが変わるのを感じた。
土の中に草が入っていた。
その草の根から空気の揺らぎが生まれた。
優秀な僕の配下は風のバリアでその衝撃を完全に受け流した。
危なかった。爆音攻撃か。
事前情報を得てなければ届いていたかもしれない。いつもより風のバリアは厚めにしてたのさ。
きっと盗人ダンジョンからスキルを得たのだろうね。
別ダンジョンだと思ってたから想定外だったよ。いい攻撃だった。でも、届かないかったけど。
これで君の攻撃は完封さ。
さあ、ここからは持久戦だよ。
隙を見つけて上空からじわりじわりと攻めてあげるよ。
ちょっとずつ戦力を削って、最後に本体を貫いてやろう。
その後は爆音に警戒しつつ、隙を見て風魔法で着実にダメージを稼ぐ。
いつもより慎重ながらも、こちらの必勝パターンに入ったと思われた。
しかし……。
おかしい。僕は疑問を感じ始めていた。
相手は積極的に攻める様子がないからだ。
攻撃が通ると思っているならどんどん攻撃するだろうし、打つ手がなくなったら一旦退却するだろう。
それなりに戦闘は持続しているのに相手にそういった動きを感じない。何を狙っているんだろうね。
なんだ、この違和感。
僕はしっかり地上を観察する。
理解した。部屋の黒いオーラが増えている。
相手の狙いがよくわからないが、このままじゃまずいのは分かる。
戦いはこれだけじゃない。この後すぐにライバル君との戦いも待っている。
いや、時間をかけすぎるとライバル君も攻めてくるだろう。
2対1は流石につらい。ここは限界までモンスターを召喚して力技で一気に押し切ろう。
多少モンスターは傷つくだろうが深手を負わなければ、そのままの勢いでライバル君の陣営に攻め込こむことで出来るだろう。
意を決して僕は【スカイホーク】を限界まで使用する。
さぁ、このままフィナーレだ。
突如、黒いオーラが一気にせり上がってくる。
このままじゃ、飲まれる。
咄嗟に上空に逃げるが、上昇できない。
スキルの【青空】には見えない天井があった。
どうして、なんで。一気にオーラが、ここままだと、僕は。
僕の思考は黒いオーラに塗りつぶされて、そのまま消えた。




