18.オークの意志
前半と後半で視点が変わります。ご注意ください。
初めての戦いを前にワクワクが止まらないよ。
ボスは私の仕事を褒めてはくれるけどさー、あの態度、絶対子供扱いしてるよね。
こっちは立派な大人のレディなのに、失礼しちゃうよね。
生まれたてかもしれないけど、ボスモンスターだから生まれながらにレディなのです。
確かにコブン共に仕事を押し付け……いや譲ることはあるけど、サボってるなんて評価は心外じゃん。ほら、あれはもしもに備えて力を蓄えてるの。それもモンスターの親分としての仕事なの。決してサボりじゃないんです。
この戦いで私が頼れるボスモンスターであることをボスには分からせてあげなきゃね。
扉がパリーンと割れたから、コブン共を引き連れて突撃する。
中には豚頭の鬼が小鬼をいっぱい引き連れて、待ち構えてた。
小鬼はみんな変な形の武器を持ってる。短い槍のような、剣のようなへんなやつ。
豚鬼は先が尖ったハンマーを持ってる。
あ、ちょっとほしいかも。倒して奪っちゃおう。
ボスが土波って呼んでる魔法を使う。畑を耕すときによく使うやつ。
ゆっくりだからあてにくいけど、少しのマナでキョーリョクだからこんな的がまとまってる時は便利なのです。
鬼たちが吹っ飛んだ。でも、豚鬼はまだ余裕ありそう。結構タフなのかも。
魔法に巻き込まれなかった小鬼たちがこっちにきた。
さぁ仕事の時間だよ、コブン共。
よしよし、ちゃんとゲーゲキ出来てるね。えらいえらい。
このまま武器を奪って攻めちゃおう……ってダメじゃん。
ボスが来るまで守らないとダメだった。そーいう作戦だよね。
上の方に白いモヤモヤが浮いてる。
さてはあれだな~ボスを狙ってる悪いヤツ。
攻撃したいけど、確か魔法は効かないんだよね。触ったら倒せるらしいけど。
ひょっとして倒せたら、ボスからいっぱいマンドラゴラおねだりできるかな。
んー、頑張ってジャンプしたら届くかも…。
あれ、いつの間にこんなに鬼が湧いてたの?
さっき倒したばかりなのに。
そっか、あのモヤモヤがボスとそっくりな力があるなら、いくらでも鬼を出せるんだ。
……え、流石にまずくない。どうしよう。キリないじゃん。実は守るのってむずかしい?
えっと…この戦いは12のダンジョンが争ってるんだから、もしかしてあと12回も連戦するの?
ちょっと魔力が持たないかも。
よし、戦い方を変えるかー。
コブン共、ハンマー持ってこい!
ここからは獣鬼モードの時間だよっ。
私は【獣人変化】を解いて本来の姿に戻った。
背が伸びたから遠くがよく見えるね。
早速支援チームのコブンがお気に入りのハンマーを持ってきてくれた。
獣人モードじゃちょっと重いけど、この姿ならぶんぶん振れる。
おー、ちゃんと磨いてある。わかってるじゃん。私はボスと違ってケチじゃないから、いい仕事をしたコブンにはマンドラゴラをちょっとだけ分けてあげるんだ。ちょっとだけ。たぶん。
飛び掛かってくる小鬼に思いっきりハンマーを振るう。
ジャストヒット! あー、気持ちイイ。
やっぱりこの姿の方が動きやすい。
魔法が使えないし、ボスとお話ししにくくなるからあんまり戻らないけど、こういう時はアリだね。
【獣人変化】をかけ直すのにマンドラゴラを遠慮なく要求できるのもいいね。ひひっ。
お、部屋の反対側から狼が入ってきた。
これで豚鬼は挟み撃ちだね。こっちに攻撃しないで狼とやり合いなよー。
私はいいけど、コブンたちが疲れちゃうじゃん。
あ、でものんびりしてると狼のところのモヤモヤがやってきてボスの獲物を横取りしちゃうんじゃ……。
あああ、めんどくさい。もう全部倒しちゃダメかな?
ボスー、早く来てー。
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オリジンルームを飛びぬけて、南の扉へ飛び込む。
部屋の中は大部屋、大乱闘の様相だった。
入り口ではリマロンが本来の姿でロングハンマーを構え門番をしている。
よかった、無事だ。
まわりにはゴブリンの死体の山。
かなり頑張ってくれたようだ。
ラビブリンたちが死体を集め積み上げていた。
いい仕事だ。敵ダンジョンに死体を回収されたら敵のソウルが回復してしまう。
相手の継戦能力を削ることに繋がる。
部屋中央から数匹のゴブリンが睨みつけてくる。
その手にはなぜか穴掘り道具。純粋な武具以外にこんなスキルもあるか。
【ゴブリン】
【ランクD-】
【アイアンシャベル】
【ランクD】
その奥で戦闘ではゴブリンとオークの混成隊が、奥から入ってきた狼の魔物と死闘を繰り広げている。
【オーク】 【アイアンピッケル】
【ランクD+】 【ランクD】
【グレーウルフ】 【グレーラット】
【ランクD】 【ランクE】
よく見えないがネズミのモンスターも戦っているらしい。
肝心の部屋の中にいる意志は中央に1体。
「ウサッ。ウサウーサウサウサ。ウシシッ」
何と言っているかなんとなくわかる。態度でわかる。
おそらく、これを要求しているのだろう。
俺はソウルを練るとマンドラゴラを召喚した。
リマロンが引き抜くと、口にいれようとするがそれを止める。
一瞬悲しい顔をした後、そのまま部屋中央へぶん投げた。
「ギャアアアアアアアアアアアア」
断末魔を上げる魔草は一直線に部屋の主の体へ向かい、そのまま貫いた。
マンドラゴラはそのままモンスターたちの戦場へ落ち、敵モンスターたちは一匹残らず地に伏した。
【迷宮スキルを獲得しました。】
【アイアンシャベル】
【ランクD】
【鉄製の農具。土砂や砂利を運ぶのに便利。】
いきなりの行動だったため、ラビブリンたちも強化魔法が間に合わずダメージを負っている。
すまない、ラビブリン。
気休めだがヨモギーを生やしておく。これでも食べて休んでくれ。
ラビブリンたちは疲労とダメージで全員へばっている。
防御面だけでなく、スタミナもあまり高くないか。
別部隊のスケルトンの残党狩りの時は機敏に動いていた印象だが、長時間の戦闘は難しいようだ。
ただ1匹、リマロンだけは軽くぴょこぴょこと飛び跳ね、元気さをアピールしていた。
行く…か?
さっきの待ち伏せを受けた記憶が蘇る。
しかし、先の部屋の意思もモンスターをやられてソウルを削っているはず。
仕留めるチャンスだ。俺の最大戦力であるリマロンならば一気に片が付くかもしれない。
いや、でも危険すぎないか。俺を守るモンスターがいない。
たとえラットだろうが、敵の支配領域を纏ったモンスターに攻撃されたら俺は一発でアウトだ。
リマロンはウサウサと言いながら、こっちを見据えてうなづく。
こいつはやる気満々だな。
元々初動で多くのダンジョンを狩る計画を立てたのだ。
ここでへたれては後手に回ることになる。やるしかないか。
部屋に残るラビブリンたちのために、護身用のマンドラゴラを1本だけ生やす。
俺たちを無視してオリジンルームが狙われる可能性も少なからずある。
もっと支援したい気持ちもあるが、追撃用のソウルも残さねばならない。
ラビブリンたちよ、どうかこれで自分の身と本拠地を守ってほしい。
俺はリマロンを従えて真っ直ぐ進む。
さらに南に続く出口の先は真っ暗で見えない。
それでも、速度を落とさず俺たちは進み続けた。




