表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/95

17.ポイズンスライムの意志

 俺はダンジョン同士の戦いを侮っていたと思い知らされた。

 地形が砂利に変わっただけでこれだけ動けなくなるなんて思いもしなかった。

 スケルトンは毒液の滴る短剣を構え、ポイズンスライムは鋭利な砂利を体に纏っている。

 相手は迎撃に絞って準備していたのだろう。動きが洗練されている。

 包囲を狭めてきた。

 接近されたら終わりだ。

 耐性があるから毒は大丈夫だろうが、防具どころか衣服すらないラビブリンの防御力は低い。

 ダガーによる単純な斬撃や刺突が致命傷に繋がる。

 距離が空いている今のうちに、全力で攻めて突破口を見つけるしかない。

 俺は気合を入れなおすとラビブリンたちへまくし立てるように指示を飛ばす。


 先行役、マンドラゴラにとどめを刺せ。

 悲鳴をやめさせろ。

 全員、耳の強化魔法を解け。ここから全力で魔法攻撃だ。

 先行役と後衛はスケルトンを攻撃。石弾で肩を狙え。ダガーを使わせるな。

 敵の接近に注意しろ。

 前衛は武器を捨てて魔力を練り上げろ。敵を十分引き付けてから土波を打て。

 

 後衛のラビブリンの茶色い小さな手から、石礫が放たれる。

 指示通り、狙いはスケルトンだ。当たったスケルトンの腕や頭の骨片が飛び散る。

 十分に敵戦力を削ったとは言えないが、プレッシャーを与える事には成功したようだ。

 スライムと足並みを揃えていたスケルトンたちがこちらに駆けてくる。

 ここだ。前衛!

 

 爆音が轟く。

 地を這う衝撃波が先行してきるスケルトンの群れに当たり爆発が起こる。

 土波による爆撃だ。畑を耕す際によく使っていたので練度が上がっていたようだ。

 完璧なタイミングでの発動だった。

 この攻撃で最初に体格差の大きいスケルトンを潰す作戦だったが想定外のことが起こっていた。

 爆風に乗った砂利と骨片が散弾のように後方のスライムに襲い掛かっていたのだ。

 本来遠くに届きにくい土波のエネルギーがスケルトンと針砂利に乗ったようだ。

 結果、敵モンスターの包囲網の真ん中に大きな穴が空き、部隊を両断していた。


 思わぬ結果に俺は呆気にとられそうになったが、すぐに気持ちを切り替える。

 思わず結果に気を取られているのは相手の意志も同じようだ。

 敵の意志は包囲陣中央にいたため、今やつの周りには守るモンスターはいない。

 明確な隙。ここで攻略しておきたい。

 気合を入れて相手の支配領域を表す黒い塊を押し込む。

 一気に決めてやる。


 俺は近場のラビブリンの目の前にコッコを召喚する。

 

 「コッコを正面へ向かって思いっきり投げろ!」


 俺は思いっきり叫んだ。

 念じるだけでも指示は出せるが、叫ばすにはいられなかった。

 先ほどの光景に興奮してしまっていたのかもしれない。


 滑空したコッコが白い人影に向かって飛んでいく。

 黒いオーラを切り裂きながら光を纏って飛んでいく。

 その光は俺の支配領域。つまり、敵のダンジョンの意志にとってコッコに当たると言うことは、領域外に出ることと同じとなる。

 敵の意思はコッコの脅威に気付くも回避が間に合わない。

 人影は腹を貫かれて地面に倒れる。

 もがき苦しむもだんだんと弱っていき、動かなくなった。

 人影はどろりと溶けて消えてしまった。


 【ダンジョンスキルを獲得しました。】

 【針砂利】

 【ランクE】

 【鋭い砂利。魔法を帯びた風に煽られると舞いやすい。】


 恐ろしい光景だった。

 いままで見たダンジョンの死因は支配域がなくなったことによる圧死だったが、敵モンスターに当たるとこんなことになるのか。いや、正確には敵の支配領域に入るとか。

 第一波でのロックゴーレムの意志相手にも同じ戦法を取ったが、あの時は止めではなかった。

 ロックゴーレム戦を思い出し身震いする。

 よく考えれば、相手のダンジョンの意志が消えるのが少し遅れていれば、俺はロックゴーレムに叩き潰されていたのだ。本当にギリギリの戦いだったのだ。


 それにしてもラビブリンが思ったより強かった。

 確かにランクDで、今回対峙したモンスターより高ランクだったが、ここまでの差があると思えなかった。

 現在、ラビブリンと攻略したダンジョンの残党狩り中だ。

 よく考えれば、俺はラビブリンの戦い方を始めて目にする。

 環境作りが忙しくて戦闘訓練をやっていなかったからだ。

 俺は細かい指示は出さずに、ラビブリンの自然な戦闘スタイルを観察してみた。


【ラビブリン】

 【ランクD】

 【ウサギ頭を持つゴブリンの希少種。ゴブリンより素早く魔力も高いが、力は劣る。毒と音に耐性を持つ。】

  

 この説明をみて俺はラビブリンを多少魔法が使えるゴブリンだと思っていた。魔法で戦術を補強しつつメイン戦闘は武器を使う。そんな魔法戦士のような戦いをするものだと考えていた。


 自然体で戦うラビブリンの間合いは回避主体の戦士のものだ。

 しかし、攻撃は魔法主体で行っている。

 石弾で機動力を削いだ後に、土波でとどめを刺すパターンが基本だ。

 攻撃の隙を付かれそうになるとこん棒持ちが割って入る。

 連携も十分とれている。


 こいつらの魔法の威力や練度はゴブリンの上位種であるゴブリンメイジに匹敵していると俺は思う。

 それでいて前衛のムーブも可能。魔法戦士というよりは前衛もこなせる魔術師という認識の方が正しいようだ。

 ゴブリンの変異種というよりゴブリンメイジの変異種と説明された方がしっくりくる。

 むりやりゴブリン種に例えるならゴブリンコンバットメイジと言ったところか。こんなゴブリンいるかは知らないが。


 部屋の探索にはそこそこの時間がかかった。

 仕切りをソウルに分解すればもっと早く終わったが、伏兵や他ダンジョンへの出口を警戒してその選択はしなかった。もとより、ここに防衛陣を張ってリマロンと合流する予定だ。敵の残した防衛策はありがたく使わせてもらおう。

 探索の結果、他ダンジョンと繋がっている場所は俺らの侵入口を除いて東側1か所。

 扉周辺は仕切りで囲われて小部屋となっていた。

 今のところ、敵モンスターが進行してくる気配はない。

 今のうちに守りを固めてしまおう。

 

 まず、チームの再編を行う。

 現在のチームの被害状況は負傷者が3匹。後衛の1匹が戦闘中に作動した毒矢スイッチで腕をやってしまった。また、こん棒を持っていた二匹が砂利にやられて足の裏から血を流している。

 毒矢についてはラビブリンは毒耐性を持っているので命に別状はなし。

 しかし、これ以上の戦いは厳しいだろう。武器は振れない。魔法は使えるが、痛みにより練度が落ちる。

 俺は思った。

 ラビブリンは強いが、同時に脆い。

 武器は足りないと思っていたが、防具もほしい。亜人や鬼系のモンスターの最大の利点は装備や道具が使えることだ。その利点が現状の迷宮スキル構成では完全に死んでいる。今回の戦いでそういう迷宮スキルを獲得するのも重要になってくる。敵ダンジョンと戦う際に頭の片隅に置いておこう。

 ひとまず、負傷者はオリジンルームの支援チームと交代してもらおう。


 地形による防衛効果は今回の戦いで十分に思い知らされた。

 もし、敵モンスターが魔法耐性の強いモンスターだったら。もし、スケルトンの装備が短剣でなく弓だったら。俺たちは負けていただろう。これから長い間俺不在でこの侵入口を守らないといけない。しっかりと防衛策を講じよう。


 俺は出口のある小部屋の床に西半分を【忌土】、東半分を【針砂利】を使って分けて、さらにその境に【鉄鉱岩】を敷き詰める。さらに西側に小さめの鉄鉱岩を幾つか置いて階段のように登れるようにする。

 岩の防衛塀だ。これでラビブリンたちは東の扉から入ってきた敵モンスターを高所から一方的に魔法攻撃ができる。

 おまけで小型の岩テントを作り、その傍に3本マンドラゴラを生やしておく。

 今回倒したスライムとスケルトンの死体を吸収したソウル分を遥かに超える出費だ。

 ちょっと使いすぎた。ただ、おかげで頑強な防衛陣を張れただろう。

 そうだ。あの小部屋以外の他の仕切りはソウルに変えてしまおう。

 援軍に行くためのソウル量確保も重要事項だ。

 

 最後にラビブリンたちには戦利品のまだ使えそうなポイズンダガーを装備させてこの岩壁を守るように命令を飛ばす。

 俺からの命令を長時間任せることになるのはこれが初めて。

 ラビブリンたちは俺を認識してしてない。

 ダンジョンのモンスターの本能で、俺の命令を感じ取り実行してくれている。

 どれだけ指示を聞いてここを守ってくれるかはちょっと不安だが、彼女らの賢さに期待しよう。


 岩壁に背を向けると、俺は来た道を飛んで戻った。

 リマロンが心配だ。

 地の利のない敵陣での戦線維持。

 この命令がどれだけ無茶な内容か戦いが始まって初めて気づいたのだ。

 どうか無事でいてくれ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ