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14.コッコの育成方針

 農園を作り始めてから幾日か経過したと思う。

 ダンジョンでは太陽が見えないため、日数の経過がわからない。

 なので、モンスターたちが眠る時に迷宮スキル【照明】で部屋を暗くし、目覚める時に明るくしている。

 規則的にやれている自信はないが、しないよりはましだろう。

 そんな生活を続けながら、ダンジョン、俺自身の整備は順調に進んでいる。


 現在の俺のモンスターたちは以下の通りだ。

 ボスラビブリンのリマロン。

 言葉でやり取りするために獣人の形態を維持してもらっている。

 ちなみにこの【獣人変化】は時間制限などはない。

 リマロンの意思によってのみ解除できる。


 彼女のおかげでラビブリンに細かい指示が飛ばしやすく助かっている。

 土魔法を器用に扱い、畑の準備には大きく貢献してくれた。

 一方で、飽き性なのか作物の育成は子分のラビブリンに任せて隙あらばサボっている。

 いろんな意味でボスモンスターとして振舞っていると言える。


 ラビブリンは5匹に増やした。

 作業速度と食料事情を天秤にかけた結果だ。

 初日のようなオーバーワークが発生しない最低限の数だ。

 余裕が出来次第、もっと増やしたい。


 コッコが8羽。

 戦力として期待してないが、卵目当てで召喚した。

 ちなみに戦いに生き残った1羽が雄鶏(おんどり)で、残りは追加召喚した雌鶏(めんどり)だ。

 密かに変異に期待しているが、今のような地上の酪農に近い環境で何らかの変異が起こるかは疑問である。

 ダンジョンになって初めて敵となったモンスターだが、平時にまじまじと見てみると意外と可愛いところがある。疲れた時に何も考えず眺めると癒される。


 前回作り始めたマンドラゴラ畑は、既に運用を開始している。

 畑の畝の中にマンドラゴラの種を直接召喚する。

 種はスキル的にはモンスターの幼体扱いらしく、召喚に必要なソウルがとても少なく済んだ。

 成長させられれば、ソウルの大幅な節約につながる。


 畑の完成後、すぐにこれらの作業を終わらせた。

 しかしリマロンが密かに種まきを楽しみにしてたらしく、拗ねられてしまった。

 普段余計な仕事を嫌うくせに、たまに妙なことに張り切ることがある。

 子供の扱いが苦手な俺にとって、その辺りの機微を読み解くのは非常に難しい。


 現在行っている作業は部屋の北側、チビキビの群生地の整備。

 チビキビは背の低いキビの仲間で、雑穀だ。

 このエリアにコッコたちを放っているのだが、一つ問題がある。

 このエリアの地面は忌土を使っているのだ。


 忌土から育った植物はすべて毒になる。

 この毒が厄介で、毒耐性では防げない。

 理由は闇のマナにある。例外を除き、生き物は火、水、風、土のマナしか吸収できない。

 これはモンスターも例外ではない。

 闇のマナは吸収できないにもかかわらず、体内に蓄積する性質がある。

 闇のマナを体に溜めすぎると、マナが乱れ体の不調に繋がる。

 酷いと死ぬことだってある。

 詰まるところ、毒性物質による中毒とは別物なので、毒耐性が機能しないということだ。


 コッコたちには健康に生きてほしい、と俺は呟きながらチビキビを睨む。

 土をすべて怖妖土に置き換えるのはコストが掛かりすぎる。

 ランクDとCには大きな必要コストの差があるのだ。

 これからの戦いに大事なソウルはなるべく節約したい。

 土はこのままで闇のマナを散らすことを考えよう。


 もっとも、俺は闇のマナを散らす手段を既に持っている。

 シロヒカリゴケだ。

 迷宮スキル【鉄鉱岩】と【シロヒカリゴケ】を使い、苔の生えた岩を幾つか生やす。

 さらに【池】でちいさな水場も設置する。

 畑にしてもよかったが、ラビブリンたちはマンドラゴラのお世話で手一杯だ。

 コッコの放牧地と考えるとなかなかの環境ができたと言ってもいいだろう。

 あとはコッコたちをここへ呼び戻そう。


 中央の住処にコッコを呼びに戻ると、事件が起きていた。

 一部のコッコが倒れている。動かない。

 どうやらマンドラゴラの葉を食べてしまったらしい。

 リマロンの食べ残しが近くに落ちていた。


 マンドラゴラは猛毒。命の危機だ。

 持ち場のラビブリンがいない。リマロンを呼ばないと。

 ラビブリンの1匹がリマロンを呼んできた。

 持ち場の兎小鬼は既に行動に移していたようだ。


 リマロンが慌てて魔法を使う。

 土のマナの補助魔法の基本は身体強化だ。

 しかし高位の使い手になると、それを応用して治癒や解毒を行えると聞く。

 大地治癒(アースヒール)、リマロンが使っている魔法は正しくそれだった。

 少なくとも俺の知り合いの冒険者には使える者はいなかった。


 ぐったりとして動かなかったコッコたちが、息を吹き返す。

 うまく効いたようだ。

 

 「リマロンよくやった。よくコッコを救ってくれた」

 「えへへ。それほどでもないよー」

 「力持ちで、土魔法の練度も高い。頼れるボスモンスターだな」

 「なになにぃ、今日はめっちゃ褒めるじゃん」

 「あとは猛毒の生ごみを家の周りにほったらかしにするようなズボラじゃなきゃ、もっと頼れるのにな。大抵の生き物にとってマンドラゴラの声と毒は危険だとこの前話したばかりだと思うが。抜くときは周りを確認して、食べ残しは肥料置き場に持ってくと約束したばかりだと思うが」

 「うう…。ごめん、ボス」

 

 ふと、閃いてしまった。

 

 「失敗すること自体はいい。同じ失敗をしなければいい。それに失敗しないと分からないこともある。リマロン、その治癒魔法はどの程度マナを食う?」

 「え? あんまり食わないから、バシバシ使えちゃうよ。ただ、じわじわと効く魔法だから戦い中の大怪我とかはちょっと回復が間に合わないかも」

 「よし。今日からマンドラゴラの葉を食事とは別にコッコに与えよう」

 「ボス……正気?」


 モンスターの変異。

 様々な条件によってモンスターが能力を向上、もしくは獲得し変化すること。

 その一番わかりやすい条件が住んでいる環境だ。

 俺がダンジョンの環境整備をしている一因でもある。

 

 俺が思いついてしまったこと。

 それはコッコたちに毒を食べさせ続ければ、毒持ちモンスターへ変異するのではないかという考えだ。

 コッコは変異を起こしやすいモンスターらしいが、全うに強いモンスターに変異するビジョンが見えない。

 ならば、搦め手で攻めるモンスターに育成した方がうまくいくはずだ。

 大型のスライムよりポイズンスライムの方が冒険者時代は遥かにやりにくかった。

 このままでは変異は望めないし、とてもいいアイデアだと思った。


 「私、たまにボスが何考えてるかわかんなくなるよ」


 リマロンは引き気味だ。

 でもこれは、戦う力がないコッコたちに武器を与えたいという親心なのだよ。

 今日からリマロンには、コッコに毒草を食べさせては治癒魔法にかけるという仕事を追加しよう。

 作物の世話をサボる時間があるのだから、時間が空いているだろう。


 「コッコたちには健康に生きてほしいって呟き、私の耳に届いてたからね。ねぇ、どうしてこうなっちゃたの?」

 「快適な環境作りと変異のための修業は両方とも必要だ。それに解毒できるなら矛盾にはならないだろう」

 「ぬぬぬぅ。ボスの考えはやっぱりわかんない……」


 俺の主張にリマロンは一貫性のなさを感じているようだ。

 確かに行き当たりばったりな計画だが、なにかまずかっただろうか。

 俺はもっとリマロンと相談して物事を決めなくてはいけないのかもしれない。 

 

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