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13.環境作り

「ボスがやれって言ったんじゃん。そんなこと言うならもう使ってあげないよ」


 リマロンが拗ねた。

 確かに命令しときながらその結果に文句を言った俺が悪い。

 確かにランクCのマンドラゴラを使って召喚したのはランクDのラビブリンだ。

 しかし、使い勝手のいいモンスターはラビブリンであろう。

 スキルこそ手に入れたが、ラビブリンは希少種なので遺志がないと俺が直接召喚できない。

 ランクは下がろうとも有用な魔法には違いないのだ。


 「すまん」

 「ふーんだ」


 リマロンは背を向けてしまったが、ちらちらとこちらを見ている。

 何かを期待しているようだ。

 召喚されたラビブリンは、いきなり不機嫌になった召喚者を見てあたふたしている。

 ラビブリンは俺が見えないからその理由も分からないのだろう。

 近場の草を引っこ抜いたりして食べ物を探している。

 不機嫌の原因が空腹と思ったのだろうか。いや案外、的を射ているのかもしれない。


 「【ラビブリン】はこんな素晴らしい。俺に足りないモンスターを召喚してくれる。もう一本のマンドラゴラはご褒美として食べていいから、機嫌を直してくれないか」


 【獣人変化】の際にも丸かじりしていたな。

 一般的にマンドラゴラの生食は中毒死の危険が高い。

 わざわざ食べたいということには、ラビブリン種にはマンドラゴラの毒に耐性があるということだろう。

 そしてそれは好物である可能性も高い……と思ったが、どうだ?


 「ホントっ?」


 耳がピンと伸びたリマロンが満面の笑みで振り返る。

 さっきの態度が嘘のように晴れやかな表情だ。

 予想は当たったらしい。


 すっかり機嫌を直したリマロンはマンドラゴラを口いっぱいに頬張っている。

 少女が人面草を生でボリボリ食べる姿はなかなか衝撃的だ。

 獣鬼の姿の時は気にならなかったが、人に近い姿だからだろうか。

 しかし困った。マンドラゴラはランクCのモンスターであり、召喚に必要なソウルは決して少なくない。

 簡単に食事に出していいものではない。

 それでも、モンスターには食糧が必要だ。

 なにか対策が必要だ。


 助言者曰く、次の戦いが始まるまでに多少の準備期間がある。

 迷宮スキルで召喚したモンスターも生きている。

 戦いには頭数がいた方がいいが、その分維持が大変になる。

 どうせモンスターを出すのは迷宮スキルで一瞬だ。

 今はモンスターの数を増やすより、モンスターが暮らせる環境作りに励んだ方がいい。

 戯れにコッコを追い回すリマロンとそのお供を横目に俺は早速作業に取り掛かった。


 最初に手をつけたのは仕切りだ。

 思い切ってすべて分解した。

 防衛の意味では悪手のように思えるが、マンドラゴラの声の通りがよくなるので問題ないだろう。

 迷宮スキル【仕切り】のおかげで、すぐにソウルに変換できた。

 このスキルを助言者から貰い損ねていれば、すべてリマロンに砕いてもらわなければならなかっただろう。

 仕切りはランクDとは思えないほど、大量のソウルを生み出した。

 この結果、俺は開放的なワンルームとなった。


 次に床。

 基本的にダンジョンの床は石材で出来ていたのが、これを一部を除いて【怖妖土】か【忌土】に置き換えた。

 石材を残した部分は通路部分のみ。丁度【仕切り】のあった場所だ。

 結構ソウルを持っていかれたが、仕切りで得た分よりは少なく済んだ。

 北西のモストータスがいる部屋の池はそのままにしておいた。

 水場は必要だし、わざわざ作り直すのも面倒だ。

 未だ潜むモストータスはそのまま放置。

 好戦的なモンスターではないし、わざわざ始末する必要もないだろう。


 他に迷宮スキル未所持の野草も生やしっぱなしにしてある。

 チビキビの穂はコッコのエサに、ポテージョの芋はラビブリンの食糧にちょうどいい。

 ただポテージョは葉や茎がマンドラゴラそっくりなので混じらないように注意しよう。

 と言っても、元から生えてた部屋に群生してるので混じることはないだろう。

 ちなみにチビキビは部屋の北側、元コッコのいた部屋の場所に、ポテージョは北東、元ホーンラビットの部屋の場所に生えている。


 次にモンスターたちの住処だ。

 小屋が立てれればよかったのだが、生憎、建築する道具も知識も材料もない。

 そこで目をつけたのは【鉄鉱岩】の迷宮スキルだ。

 普通に使っても決して家の様にはならないが、迷宮スキルには便利な小技がある。


 使用するソウルを変えることで形状を変化させることができるのだ。

 モンスター召喚系のスキルではソウルを絞って幼体を生み出すくらいしかできないが、素材系のスキルなら自由度が高い。ソウルを追加で込めることで元の形状から形を変えることが出来る。小さかろうが、大きかろうが形が変わるほどに消費するソウル量も大きくなる。


 俺は大岩をくり抜いたような形状の鉄鉱岩をいくつか生み出した。

 岩で作ったテントのようなものだ。

 一番大きなものはリマロン用。それから、ラビブリン用、コッコ用、物置用。

 結構な数を作ってしまった。場所も取った。

 部屋の中央、つまり俺が最初にいた部屋全てが埋まる程大きくなってしまった。

 

 「おおー、なんかがらっと変わった。ダンジョンってより集落ってかんじ」

 「こっからはリマロンたちの仕事だ」

 「お仕事の時間? よーし、頑張っちゃうよー。主にコブンが」

 「おまえも頑張れ。今からやることはマンドラゴラ畑作りだ」

 「ということはマンドラゴラ食べ放題?」

 「ちゃんと育てばな。農地を整えるところから始めるから先は長い」

 

 マンドラゴラ畑はとりあえず2面作ることにした。

 1面は繁殖用。土は怖妖土をベースに部屋の西側、元ゴーレム部屋辺りに作る。

 植物モンスターの力を高める怖妖土を大量に使って、質のよいマンドラゴラの育成を目指す。

 いい環境を作ればマンドラゴラも変異を起こして上位のモンスターになってくれるかもしれない。

 近くに住処同様にトイレと肥料作成スペースの岩テントも作る。

 土壌の品質向上にも早く取り掛かりたい。


 もう1面は戦闘用。土は忌土をベースに部屋の南側、元スケルトン部屋辺りに作る。

 死体を素早く分解する忌土は栄養価が上がり易く、また植物も早く育つ。

 忌土は普通の生き物が受け付けない闇のマナが溜まりしやすいため、できた作物は毒性を帯びる。

 食用には向かないが、戦闘で使う分にはちょうどいいだろう。

 さらに元スケルトン部屋の忌土は既にゴブリンを分解しているため、栄養価が上がっているはず。

 整備出来次第、すぐにでもマンドラゴラの育成が始められる。


 リマロンへの畑の作成方針の説明が終わったので早速耕してもらう。

 道具になりそうなものがないので素手で申し訳ないと思っていると、彼女はとんでもない方法で畑を耕しだした。


 土魔法の基本的な攻撃法の1つに、地を這う衝撃波を放つものがある。

 俺の地元では土波と呼ばれていた。

 実戦においては射程が短く、衝撃波も遅いため人気の低い技なのだが、リマロンをそれを畑の土をかき混ぜるのに使用した。

 次に頼もうと思っていた畝作りを含め、あっという間に仕事を終わらせてしまった。

 改めてボスモンスターとしてのスペックの高さを感じさせてくれた。

 

 肥料作りも行う。

 と言っても、俺には的確なノウハウはない。

 子供の頃、地元で見たものの記憶を頼りに見様見真似でやってみる。

 とりあえず、肥料作成スペースの岩テントの中に忌土と野草を混ぜたものを広げさせる。

 モンスターの死骸も残っていればよかったのだが、全てソウルに変えてしまった。

 次の戦いの際は頭に入れて置こう。

 これだけでは闇のマナが溜まってしまうので、迷宮スキル【シロヒカリゴケ】で天井をコケで覆う。


 【シロヒカリゴケ】

 【ランクD】

 【暗闇で淡く光るコケ。配置した部屋の土のマナを少し高め、闇のマナを少し抑える。夜目の効かないモンスターが活動しやすくなるが、冒険者も動きやすくなる。】


 後は時間を置いて闇のマナを抜けば、肥料となってくれるはずだ。

 

 いけない。ラビブリンがふらふらして倒れそうだ。

 力仕事のほとんどをリマロンに押し付けられていたのだろう。

 初日はこんなものでいいか。

 先はまだ長い。

 作業の人手が足りないが、少し様子を見よう。リマロンもラビブリンもどれだけ食うかわからない。

 追加の召喚は今の食糧がどれだけ持つか計算した後だな。


 ダンジョンと言うにはあまりに農園的な光景を眺めながら、俺はそう思った。

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