11.ボスラビブリン
俺と助言者は互いに肩で息をしている。
長時間に渡る質疑応答の結果だ。
頭は痛いが、得た情報は大きい。
「はぁはぁ……。いやぁ、これだけ質問攻めにされたのは初めてですよ。助言者、ちょっと疲れちゃいましたから、そろそろ帰りますね。次は第二波を乗り越えたらお会いしましょう」
ぐったりした様子で助言者は姿を消した。
俺は緊張を解き、空中に身を投げ出し漂う。
ああ、ホントに疲れた。
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こつんこつんと靴音を鳴らし、助言者はダンジョン間つなぐトンネルを歩いている。
「今回の小部屋たちは粒揃いでわくわくしちゃいますね。まさか、12組中4組も遺志持ちですか。ボスモンスター同士の戦いなんて大二波で起こるのはいつぶりでしょうか」
怪しげなローブ女はくっくっくと肩を揺らして笑う。
「スキル数二桁にランクB持ち、最高レベルのスキルシナジーに、ユニークボスモンスター使い。今回のゲームは荒れますね」
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いつまでもこうしてはいられない。
ダンジョンは眠らないし、ソウル吸収をしなければ体調は整わない。
俺はダンジョン中を飛び回り、あちこちに転がる死体をソウルへ分解した。
もちろん、ロックゴーレム部屋だけは避けた。
手をかざすだけで死体の分解もソウルの吸収も簡単にできた。
ソウルが掌に吸い込まれる度、満たされていく感覚。
モンスターを出す前に十分なソウルは回収できた。
最初に召喚するのはボスモンスターだ。
強力かつコミュニケーションが円滑にできるならば、これからの戦いはもちろん、その準備にも大きく貢献してくれるだろう。
俺のオリジナルスキルはマンドラゴラだ。
ただのボスモンスターの場合、下位個体同様にピーキーな能力の可能性がある。
ボスモンスターを召喚した途端、叫び出して死んだりもしたら目も当てられない大惨事である。
ここはスキルを消費してでも、ユニークモンスターのボスモンスターにすべきだろう。
遺志はボス化に使うのでユニーク化に使うのは必然的に迷宮スキルになる。
既に消費するスキルは決めていた。
消費するのは【ゴブリン】。
追加で【ホーンラビット】。
そう、2つである。複数のスキルを捧げられることは助言者に確認済みだ。
勿体なく思うかもしれないが、いろいろと考えた結果だ。
俺の持つマンドラゴラ以外のモンスター系スキルは3つ。
【コッコ】【ホーンラビット】【ゴブリン】の3つだ。
消費候補として有望なのは最もランクが高く、賢い【ゴブリン】だ。
俺はゴブリンが嫌いである。
こいつらのせいで冒険者の新人時代にいやな目にあった。
顔なじみが帰ってこなかった。嫌う理由としてはこれで十分だろう。
中には従魔にする人もいるらしいが、俺としては信じられない。
第一波ではしょうがなく使っていたが、正直スキルも持っていたくはないのである。
消費スキルがなくなることもユニーク化に使用することに決めた一因にもなっている。
しかし、このまま召喚してもマンドラゴラ風のゴブリンかゴブリン風のマンドラゴラが出来上がってしまう。
完全にゴブリンベースのボスモンスターになったら俺は立ち直れないかもしれない。
なので、さらにスキルを追加する。
召喚の選択肢が減る? スキルの無駄遣い? 上等だ。
もう一つの消費スキルを決めるために2つのモンスター解説を比較する。
【コッコ】
【ランクE】
【ニワトリが魔物化したモンスター。攻撃的な性格以外、ただのニワトリと変わらない。環境によって多様な変異を起こす。】
【ホーンラビット】
【ランクE】
【角の生えたウサギ。不意の突進に注意。】
これを比較するに、コッコ側の方が変異を起こす可能性が高いと思われる。
モンスターが変異すると特殊能力を得たり、上位のモンスターとなって強化される。
なので、ここは変異の可能性が低い【ホーンラビット】を消費スキルに選んだ。
しばらくの間、召喚できるモンスターがコッコとマンドラゴラのみになるのはつらいが、そこはボスモンスターのスペックの高さに期待しよう。
体の中から光の球を取り出す。
これが遺志だ。手に入れた相手を考えるとヒールスライムの遺志といったところか。
マンドラゴラ、ゴブリン、ホーンラビットの要素に加え、この遺志の特性も多少は加わるはずだ。
一体、どんなモンスターになるか想像もつかない。
好奇心が抑えられない。早速、召喚だ。
俺は光の球に向かって大量のソウルを注ぎ込んだ。
光の球は地に落ち、激しく輝き世界を白に染める。
視界が戻った後に現れたのは、赤茶色の毛皮を持つ獣だった。
二足で立つその姿は熊のように見えたが、頭は兎のそれだった。
【迷宮スキルを獲得しました。】
【ボスラビブリン】
【ランクC+】
【ゴブリンの希少種であるラビブリンの上位種。マンドラゴラを媒体に特殊な魔法を操る。マンドラゴラさえあれば格上にも勝てる力を秘めている。】
おお。元のスキルからは考えられない巨体だ。
ホブゴブリンを軽く超え、さらに大きな大鬼サイズ。
やや下膨れな体型に見えるが、それは兎の武器である後ろ脚の強さを引き継いだ結果だろう。
巨体に見合わぬ軽快な動きが期待できそうだ。うむ、いい筋肉だ。
肩や手は人型に近く、投擲や武器の扱いも問題ないだろう。
大きな耳を真上に伸ばし、ひげをピクピクと動かす様子は正に兎で愛らしい。
ランクはC+。過去出会ったモンスターで最高。
これは文句なしに頼りになりそうだ。
「ウサ」
こちらを向いて頷くボスラビブリン。
よし、ちゃんと目が合う。
他のモンスターと違い、こちらがしっかり見えている。
しかし…おまえ、喋れるか?
「ウシシッ、ウサウサ」
こっちの言葉は通じているが相手の言葉が分からない、といったところだろうか。
確かにボスモンスターの意思疎通能力は高いが、同じ言葉で会話できないのは予想外だった。
人としてのセンスが抜けきっていない俺が悪いのか。
いや、悪いんだろうな。優れたダンジョンの意志を求める助言者の感覚としては。
ああ、こんなところでネガティブになっている場合じゃない。
こっちの指示は通じるし、ジェスチャーも可能になった。
これは大きな前進だ。恐れていたボスゴブリンは回避できたのだ。それを喜ぼう。
しかしこれだけ強そうなモンスターなら戦闘力も期待できるだろうな。
早速、仕事をしてもらおう。
俺は召喚したばかりのボスモンスターへ最初の指示を飛ばした。




