第6話:決壊
叶多が保健室で1時間程過ごし、学食で一番安い定食を頼み、また保健室で寝転んでスマホを弄っていると、授業時間はあっという間に過ぎた。
授業をサボりすぎて、一体何のために学校来たんだ?とも思ったが、鶴見 舞にカガチ岬のことを確認出来ただけでも十分意味はある。
「一旦帰って金持ってきて、それからカガチ岬に行くか。」
叶多は、集金の為の金を取りに行くため、まず家に帰ることにした。
そのことを伝えるべく、教室で鞄を取るついでに鶴見 舞の姿を探したが、見当たらない。
おそらく鶴見 舞も一度家に帰ったのだろう。
「鶴見も時間の約束くらいしていけば良いのにな……。」
叶多は、そのまま教室を出た。
隣のクラスの前を通る時に、一瞬鷹斗と目が合った気がしたが、叶多はそのまま通り過ぎた。
家に帰ると、母親は既に帰宅していた。
「おかえり、叶多。あの、これ……。」
「ん、ババア、金。」
ぶっきらぼうに言い放つ叶多に、母親は眉を寄せた。
「ババアじゃないでしょうが!あとね、こういうのは早く出してくれないと困るの!家計の都合だってあるんだからね!?」
「うっせーなぁ……。」
母親のこの類いの小言は、耳にタコができるほど聞いた。
叶多は、邪険にあしらう。
「まぁ、とりあえず、金、頼むわ。5000円だっけ?今から持ってくから。」
叶多がそう言うと、母親は顔を曇らせた。
「無理だよ……。今、ウチにお金無いもの。」
「は……?そんなに今金無いの?」
「うん。今月食べるのでやっとだから。」
母親は苦しげに俯く。
母親のしおらしい姿を見て、叶多は、苛立ちを募らせた。
「なんでそんなにカツカツなんだよ!」
「しょうがないじゃない!!そんなこと言ったって、無いものは無いんだから!!」
「今日、父さんの墓参りに行かなきゃもっと余裕あったんじゃないのかよ!!」
『父さんの墓参り』と聞いた母親が、ビクリと肩を震わせる。
「俺だって知ってんだぜ!?父さんの命日の度にいっつも封筒に金包んで持ってくじゃん!!花代だか線香代だか知らねぇけどさ!!その金があったらもっと楽出来るだろうが!!」
「そうは言ったって、お父さんの命日なんだから……。」
「その父さんが大金持って死んでったんじゃねぇのかよっ!!」
ストレスが、怒りが、爆発する。
叶多は激昴した。
「そんな奴もうどうでもいい!!俺は父さんのことなんて覚えてねぇし、父さんの葬式にも墓にも行ったことなんてない!!母さんだって、もう良いだろ!?俺たち家族に父さんなんていらないんだ!!いつまでもあんな奴に振り回される必要なんかねぇんだよ!!」
肩で息をする。声が震えた。目の奥が熱い。
叶多は、胸の奥に抱えた黒いぐちゃぐちゃした感情を全て吐き出すと、そのまま母親をキッと見据えた。
母さんだって、本当は分かっているはずなんだ。
本当は……。
「…………ごめん、叶多」
「……っ!」
それでも、母親は頷いてはくれなかった。
ただ俯くだけの母親の姿が叶多には小さく歪んで見えた。
「もう良いよクソババア!!こんな生活クソ喰らえだ!!」
そう言い放つと、叶多は家を飛び出した。
別に、学校の集金なんて知ったことではない。
だが、他の奴に支払えて、叶多だけが困窮する状況に、叶多はずっとずっと前からうんざりしていた。
「クソ……なんで……なんでだよ母さん……!」
今の現状の打開策が分かっていながら情に流される母親にも嫌気がさしていた。
叶多の精神はずっと軋んで、悲鳴を上げていた。
走った。
ただ、ひたすら遠くへと走った。
そうして、走って、疲れて、足が崩れたそこには。
「来てくれたんだね、カササギくん。私と、異世界に行こう。」
「鶴見……。」
優しく微笑みを浮かべ、『天使』が佇んでいた。
Copyright (C) 2020-ゴールデン☆ガチゴリラ




