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セカイの沙汰も金次第$$$  作者: ゴールデン☆ガチゴリラ
現実編:プロローグ
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第5話:登校

翌日、叶多が目を覚ましたのは、朝8時過ぎのことだった。


叶多の家は学校からさほど遠くはないが、それでも悠長にしていれば確実に遅刻する時間だ。


「起こせよババア……ったく」


のそのそと布団から這い出る。


冬なら二度寝しているところだが、生憎、初夏のじっとりとした気温が、早く叶多を布団から追い出そうとせき立てた。


居間に繋がる障子の戸を開くと、そこに母親の姿はなく、机の上に冷めた朝食とメモが残されていた。


『お父さんのお墓に行ってそのまま仕事に行くから、朝ごはん置いときます。今日はちゃんと学校行きなさいよ。』


「うわ、サボったのバレてんのかな?めんどくせ……。」


ご丁寧に『今日は』という部分を丸で囲ってある。


叶多は硬くなった食パンを齧り、ぬるい牛乳で流し込むと、席を立った。


「っていうか、今日父さんの命日なの完全に忘れてたんだが?集金どうしよ」


鶴見 舞が届けた『集金のお知らせ』は、文化祭に備えたクラスの集金だ。


提出期限が今日までとなっているため、叶多は今朝母親に出してもらおうと考えていたのだが、肝心の母親がいないのでは、どうしようもない。


「……後で良いか。」


仕方なく、プリントを机の上に置き、登校の準備をする。


叶多の母親が父親の墓参りをする日は、決まって帰りが早い。


学校が終わってから家に取りに帰っても、提出にはさほど問題ないだろう。


時間割を忘れてしまったため、教科書を適当に詰め、家を出た。




結局、登校は時間ギリギリになってしまったが、急ぎ足で来たお陰で遅刻は免れた。


クラスメイトは誰も叶多を気にとめなかった。


叶多は街中にいるのは嫌いだが、教室にいるのはもっと嫌いだ。


誰も叶多と目を合わせようとしない。だから、叶多は随分前に、無理に誰かと目を合わせようとするのをやめてしまった。


鶴見 舞の姿を探したが、退席しているようで、教室には見当たらない。


特にこれといってすることの無くなった叶多は、机に突っ伏した。




「カササギくん、カササギくん!」


肩を揺さぶられる感触に、叶多は身を起こした。


「え、鶴見?」


「おはよう、カササギくん!といっても、もうお昼だけど……。」


突っ伏したまま、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。


教室には、叶多と体操服姿の鶴見 舞の姿しかなかった。


「あれ、他の奴は?」


「次体育だから、皆行っちゃったみたい。」


鶴見 舞はそう言って、叶多ににこりと微笑みかけた。


叶多には、その笑みさえもなんだか妖艶な、意味深なものに見える。


「カササギくん、昨日は急にごめんね、その……。」


鶴見 舞は、頬を赤らめながら自身の唇に触れた。


「私、慌てて早まっちゃって……。」


もじもじと叶多の顔色を伺ってくる鶴見 舞を見て、叶多は確信した。


(こいつ、マジで俺に気がある……!)


内心狂喜乱舞しつつ、叶多は出来るだけ平静を装う。


「え、や、全然良いよ。確かにびっくりしたけど、その、むしろ、良かったっていうか……。」


「……なら、私も良かったです……。えへ。」


鶴見 舞は、遠慮がちに微笑んだ。


「それで、その、カササギくんのお返事なんだけど……。」


「あ、それなんだけどさ、……今日の放課後に、カガチ岬で返事しても良い?」


『カガチ岬』、という単語を聞くと、鶴見 舞の表情がぱぁっと明るくなる。


「カササギくん、見てくれたんだ!ってことは、期待……しても良いんだよね……?」


ホッとしたような表情の鶴見 舞が、座ったままの叶多を見下ろす。


叶多の目の前で鶴見 舞の主張しがちな胸部が揺れた。


体操服も相まって、余計に目がいってしまう。


白い体操服は薄く、凝視すれば、色の濃い下着なら透けて見えてしまうかもしれない。


(付き合ったら胸触らせてくれるのかな……。)


割と最低な、しかし、思春期の男子高校生ならきっと抱いたことのある煩悩が頭を過ぎる。


そんな煩悩を断ち切るかのように、授業の開始を知らせるチャイムが鳴った。


「鶴見、授業良いのか?」


「うん。先生に、カササギくんの様子を見てくるって言ってあるから。」


「あ、そう……。俺、体操服持ってきてねぇから保健室でサボるけど、鶴見は……」


「じゃあ、私は先生にそう伝えてこようかな。」


「あ、うん。ありがとう。」


鶴見 舞はそう告げると、足早に教室を出ていってしまった。


一瞬保健室同伴を期待した叶多だったが、流石にそこまでは漫画のようにいかなかったらしい。


「さて、保健室行くか……。」


叶多はぐぐっと伸びをして、教室を出た。




保健室に着くと、そこには先客がいた。


「あ、叶多!」


「……何してんだお前、こんなとこで。」


保健室の棚からティッシュボックスを取り出している男は、叶多も知っている人物だった。


「授業中に鼻血出した子がいてさ、俺はその付き添いだよ。委員長だし、席も近かったしさ。」


そう言って爽やかに微笑むのは、由木 鷹斗という青年で、叶多の幼なじみでもある。


『鼻血を出した子』はなんとなく見覚えがあるだけの、特に交流の無い女子生徒だった。おそらくこれからも話す機会はないだろう。


叶多が空いているベッドのカーテンに手を掛けると、鷹斗が声を掛けてきた。


「叶多、昨日も休んでたよな?体調悪いのか?」


「……悪い。」


「あんまり無理するなよ。体温計こっちに……」


「いらね。寝る。」


馬鹿正直に心配してくる鷹斗の言葉が、叶多には煽られているように聞こえ、無性に苛立った。


鷹斗の姿が見えないよう、保健室のカーテンを乱暴に閉める。


「ありがと、由木くん。鼻血止まったっぽい。」


「良かった!教室戻れる?」


「う、うん……!」


女子生徒の声が若干高くなる。


カーテン越しに聞こえてくる浮ついた会話にますます腹が立った。


しかし、今の叶多には精神的な余裕がある。


鷹斗の恋愛事情は知ったことではないが、叶多はかなりの美少女とキスを済ませているのだ。


まだ付き合っていないという痛恨の一点を除けば、童貞卒業もさほど遠くないように思われた。


クラスの女子とちょっと話せて調子に乗っている鷹斗とは違うのだ。



「あ、叶多。鶴見さんについてなんだけど……。」


鷹斗が、カーテン越しに再び声を掛けてきた。


「……。」


「あれ、叶多もう寝たかな……?」


鷹斗の口から意中の女子の名前が出たことに苛立ち、叶多が口を噤んだままでいると、鷹斗は叶多が寝ていると誤解したらしい。


「由木くん、行こ?授業中だよ。」


「あ、うん。そうだね。」


二人分の足音が遠ざかっていく。


鷹斗が何を言うつもりだったのかは知らないが、どうせ叶多にはどうでもいいことだ。



叶多は、冴えきった目を無理矢理閉じて、時が経つのを待った。

Copyright (C) 2020-ゴールデン☆ガチゴリラ

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