第31話:喧嘩しようぜ
「で、お前も異世界に来たってわけか。」
「……そうだ。」
カラスは、現実世界から異世界に飛んだきっかけを一通り話し終えると、一息吐いた。
「副隊長に助けられて、俺は強くなったと思っていた。だけど、不良じみた見た目をしたお前が来ただけでこのザマだよ。結局、異世界に来ても俺は……、僕のままなのかもしれないな。」
カラスはそう言って目を伏せる。
カササギは、そんなカラスの姿に既視感を覚えた。
(やっぱり、俺はこいつとは合わねぇな……)
そんなことを考えながら、カササギは手首の骨をパキパキと鳴らす。
その音に、カラスの肩がビクリと跳ねた。
「な、お前、急に不良っぽいことするのはやめてくれないか!」
「うっせ、別に手首回すぐらい誰でもやるだろ!……じゃなくて、お前もやるんだよ!」
「……?俺はやらないが?そんなことをしても手首を痛めるだけだからな。」
カラスは奇妙なものを見る目でカササギを見る。
カラスの態度にカササギは地団駄を踏んだ。
「違ぇよ!……あ〜、なんつーか、喧嘩しようぜ。」
「は?」
間抜けな声を出すカラスに、カササギは軽くイライラしながら怒鳴りつける。
「喧嘩だよ!要は、お前が俺……っていうか、不良を克服出来ればこんな面倒くせぇやり取りしなくていいんだろ!?こういう時は平等に拳でやり合った方が早ぇの!!」
「いかにも不良の発想だな、肉体言語……?馬鹿馬鹿しい、いや、実際馬鹿なんだろうが、偏差値が目に見えるな……。」
「うるっっっせぇわ!!お前も国語苦手なんじゃねぇの!?!?」
あまりに心無い罵倒の数々に、カササギもキレて煽り返してしまった。
カササギの言葉に、カラスはかなり不快そうに顔を歪ませるも、腰に結つけていた刀を丁寧に外す。
腕を交差させ、十分に柔軟運動を済ませると、拳を胸の前に構えた。
その姿にカササギは鼻を鳴らす。
「……ふん、馬鹿にする割には乗ってくるあたり、お前も大抵馬鹿なんじゃねぇの?ちょっと好感度上がったわ。」
「気持ち悪いことを言わないでくれ。……ツバメ隊長が作戦会議の為だけに20分も与えた意味を考えただけだ。この状況を見越していたのかもしれない。」
空気が、闘気に染まっていく。
異世界特有の纒わりつくような空気が、肌に触れて熱い。
心做しか、空も更に赤くなったように感じる。
「カササギ、俺はお前より確実に強い。だけど、俺はお前を克服する為に手を抜くつもりは無い。この後にバレーの訓練も控えているんだ。最低限へばらないように自分の身は自分で守れよ。」
「俺が発案したんだから、それぐらい分かってる。……俺がお前より弱いのは否定しねぇけどさ、それにしたってちょっと舐めすぎてねぇかな?全力が思ったより通じなくて焦っても知らねぇよ?」
「……上等だ、いくぞ。」
カラスが前傾姿勢を保ったまま、カササギの方に突っ込む。
目で追う間もなく、距離を詰められた。
「うぉ!?」
ほとんど本能で、カササギはカラスの右の拳をかわした。
しかし、カラスはその回避を予知したように、左の拳を叩き込む。
「いっ……!!」
咄嗟に腕で拳を受けるが、かなり痛い。
……だが、ツバメの蹴りよりは遥かに軽かった。
あまりに強力すぎる経験がカササギの感覚を麻痺させ、顔に小さな余裕を浮かばせたのを見てとったのか、カラスは、攻撃の手を加速させる。
おそらく、武道の基礎が出来ているのだろう。
カラスは腰を落とし、時には足技も交えながら的確に拳を打ち込んでくる。
ダメージは確実に蓄積していく。
ツバメのように一撃が致命傷にはならないものの、長期戦になればカササギの敗北は自明だ。
何より、カササギが一発も打ち込めていない時点でどちらが優勢なのかは火を見るより明らかだった。
(勝てる勝負だとは思ってねぇし、別に勝つ必要の無い喧嘩ではあるが、ここまで一方的じゃトラウマの克服にはなんねぇよなぁ、何より俺も腹立ったままだし……!!)
カササギも必死に一撃を入れられる隙を探るが、カラスは一向に隙を見せない。
「何か策を練っているようだが、そんな暇があるのか?眼球の動きが鈍っているからすぐに分かる。バレー、出来るんだろうな?」
「……余裕……!!」
大口を叩いたカササギの額には、汗が伝っていた。
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