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セカイの沙汰も金次第$$$  作者: ゴールデン☆ガチゴリラ
異世界編:見習い修行編
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第30話:カラスの見た救い

両親の言葉を受けたカラスは、部屋に引き篭った。


外に逃げたとしても、狭い田舎ではどうせ誰かに見つかって連れ戻されてしまう。


そう考えると動く気にはなれなかったし、何より精神的疲労から動く気力も失っていた。


「……なんで、こんなことになったんだっけ……。」


カラスは、暗い部屋の中で静かに横たわって考えた。


あの時。


あの同級生に声を掛けられた時、自分が何と答えたか、少しだけ思い出していた。


(僕、あの時、『そうだな』って言ったんだっけ……?)


彼の皮肉を素直に肯定してしまっていたような気がする。


カラスは、決して努力せずに頭が良いのではない。


元々の地頭の良さに加え、毎日長時間を勉強に費やしていた。


誰かと遊んだ記憶や、ゲームなんかで暇を潰した記憶は、全くと言っていいほど皆無だった。


思えば、両親の期待通りの結果を出し続けることに必死になって、『遊びたい』という気持ちが芽生える暇すら無かったのかもしれない。


(僕には勉強しか無かったから、勉強が出来るのは当然だ。でも……)


「普通の人が知ってる遊び方を、僕は知らないのか……。」


そう口に出すと、なんだか自分がとても惨めに思えてきた。


「僕、一体何のために勉強してきたんだっけ……?」


カラスは、自分の存在そのものが足元から揺らぐのを感じた。


同級生に押し当てられたタバコの火傷の痕は、まだチリリと痛む。


カラスは、どうしようもなく不幸だった。




突然、カラスの部屋の扉が、トントンとノックされた。


「烏、落ち着いた?烏が苦しんでるのに助けになれないのは私たちも悲しいのよ。その代わり、私たちはあなたが将来勝ち組になれるように手助けしていくからね。全部烏の為にやってるんだから。」


母親の声だ。カラスは、布団を頭から被り直した。


母親の言う事は歪んでいる。


結局、彼女たちがカラスに期待するものは、全て自分の利益や見栄に繋がるものだけだ。


全部烏の為、というのも、例え本心から言っていたとしても、その本質は嘘っぱちだ。


カラスは、もう誰も信用出来なかった。


「烏、開けるわよ。試験も近いんだし、落ち込んでいても何も解決しないわ。」


カラスの部屋の扉には、鍵は備わっていない。


母親が、ドアノブを回す音がする。


「やめろ……やめろ!!入るな!!来るな!!」


精神が母親の入室を拒んだカラスは、咄嗟に飛び起きると、机の引き出しにしまっていたカッターを手に取った。


母親は、開け放した扉の前で怪訝そうな顔をする。


「何をしてるの、こんな暗い部屋でそんな物持って。馬鹿らしい、ビョーキみたいに振る舞うのはやめてくれる?気分が悪くなるわ。」


「……。」


カッターを持つ手が震える。


精神病患者に偏見を持つ母親の思考は、日頃からカラスに刻まれていた。


いっそ死んでしまいたいくらいに苦しいのに、両親の残した教育の残滓が、リストカットや自殺を許さない。


かといって、刃先を憎らしい母親に向けるだけの勇気も覚悟も、カラスには無かった。



母親が一歩、また一歩とカラスに近づく。


「それを置いて部屋の外に出なさい。勉強は私たちの目につく所でしなさいっていつも言っているでしょう?」


カラスの腕が力なく垂れ下がった。


手からカッターが零れ落ちる。



従うのが、『正しい』選択だ。



カラスが、部屋から出ようと足を踏み出した瞬間だった。


カラスの部屋の窓に、重たい何かがぶつかる音がした。


「った〜〜〜!!隊長もめちゃくちゃするなぁ!!俺だから許せる暴力ってやつだこれ!!」


「!?!?」


部屋の外から聴こえた声に、カラスは目を見開く。


その声はカラスの好奇心を容易く掻き立て、部屋の外に向かっていたカラスの足を再び内側へと歩ませた。


普段は冷静なカラスだが、この時は何故だか落ち着いてはいられず、勢い良くカーテンを開ける。




「やぁ、少年。異世界に行きたくはないか?」


窓の向こうで、怪しげな成人男性が、ぶつけて赤くなったであろう額を押さえながら、にこやかな笑顔でそう告げてきた。


「な、何なのあなた!」


部屋の入口で見ていた母親も驚きの声を上げる。


「俺は少年を助けに来たただの正義の味方だよ。」


「馬鹿馬鹿しい……!!今すぐ通報しますから!!ほら、烏も早くこっちへ来なさい。」


カラスは、状況が飲み込めず、口をぽかんと開けたまま黙っていた。


「烏!」


「……!!」


母親の叱責で我に返る。


この窓を開けてはいけない。


こんな怪しい人についていくなんて、絶対に『正しい』選択じゃない。



……だというのに、カラスの手は勝手に窓を解錠していた。



「僕を、助けてください。」


自分でも何を言っているか分からなかった。


見ず知らずの怪しすぎる大人に助けを乞うなんて、頭がどうかしてしまったに違いない。


そもそも、いくら相手が変質者だったとしても、急にそんなことを言われても困るだろう。


正義の味方なんて、知らない。存在するはずがないのだから。



しかし、その男は、カラスの目を見据えたまま、一瞬の迷いも見せずに頷いた。


「分かった、俺は君を助けよう。」


その瞬間、ほんの少しだけ、カラスは確かにこの男に救われた。

Copyright (C) 2020-ゴールデン☆ガチゴリラ

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