第2話:邂逅
叶多は、街を歩くのが嫌いだった。
人に見られると落ち着かないし、かといって全く目を向けられないのは惨めな気分になる。
叶多は、色の抜けかけた金髪を隠すように、シワのついたフードを被り、早足で歩いた。
「曇ってきたし、早く出て正解だったかもな。」
誰に聞かせるわけでもなく呟く。
人と会話していないと、独り言が多くなる。
その独り言が、尚更、他人と話すことから叶多を遠ざけていた。
だから、家族でもない限り、急に話しかけられると、咄嗟に対応出来なくなるのだ。
そう、今この時もまた、例外ではなかった。
「……?ウチの前に誰か……」
それが、同年代の初対面の美少女なら尚のこと。
「あの、カササギくん……ですか?」
笠崎家の前で、叶多を待つように下を向いていた女の子が顔を上げた。
そのどこか潤んだ瞳が、真っ直ぐ叶多を見据えている。
大人しそう、というのが、彼女の第一印象だった。
艶やかな美しい黒髪が風に揺れる。
頬は桃色に染まり、柔らかそうな小さな手が、「笠崎」と記された紙袋を大事そうに抱えている。
丁度、雲の切れ目から差し込んだ光が、彼女の羽根のような髪飾りに当たってキラキラと輝いた。
「カササギくん!私、鶴見 舞。もしも、『異世界』に行けるとしたら、どうする……?」
先程まで読んでいたweb小説のような、あまりに都合が良く、夢のようで、自分には絶対に縁が無いと思っていた光景。
「は……?」
叶多は、気の利いた返事も、現実的な質問も、『俺の苗字、カササギじゃなくてカササキなんだけど』という訂正も出来なかった。
世の中大抵の男子高校生は、恋に落ちた女の子に間違った返答をしてしまうものだ。
Copyright (C) 2020-ゴールデン☆ガチゴリラ




