第27話:作戦会議
カササギたちの息が落ち着いた頃、彼ら人間たちは、3人まとめて正座させられていた。
「あのさぁ、午後の訓練始まって30分も経ってないんだぜ?バテてもらっちゃ困るんだよ、あぁ?」
凄むツバメに、カササギとカラスは返す言葉も無い。
「ね〜、ツバメ隊長。私、本当はずっと隊長とペア組んでいたいんですけど……、この二人相手じゃ、バランス悪くなっちゃいませんか?ペア交換した方がいいんじゃ……」
唯一、今のところ反省点の無いヒナが口を開いた。
「ん〜……、ヒナの言うことも確かに一理……どころか三十里くらいは余裕であるんだが……。」
ツバメは、首を縦に降る様子は無さそうだった。
打開策の見えない会話に、カササギも思わず口を挟む。
「あのさ、ペア交換じゃなくて、俺ら3人でアンタに挑むんじゃ駄目なんすかね?正直それくらい、隊長なら余裕でしょ。」
しかし、ツバメはそれも首を横に振った。
「駄目なんだよ。」
「そっすか……。」
少し肩を落としたカササギに、ツバメが続ける。
「ホームでの勇者殺しは、基本的にペアで行うんだ。普通は俺らと人間の組み合わせになるな。ウチの班はヒヨっ子が多いから全員で作戦に当たるが、別の班じゃ手が足りない戦闘の方が圧倒的に多い。お前らには、今からそれを踏まえた戦い方を覚えて欲しいんだよ。」
だからあくまでカササギのやり方が悪い訳じゃない、と、ツバメは慰めるように肩を叩いた。
「ホームには、良くも悪くも色んな奴がいる。お前らのペアがどんな奴になるかは分からねぇ。だから、どんな相手でも最大限力を発揮出来るように、応用力を高めてやるってのが俺の仕事だ。」
ツバメはそう言うと、カササギたちにくるりと背を向け、歩き出した。
「立てよ。ちょっと遊ぼうぜ。」
ツバメは、カササギたちの目の前で、どこから用意したのか、ネットをいそいそと貼り、ボールを膨らませていた。
「遊ぶって、これかよ!?」
「そ。ビーチバレー。」
「ビーチ無いけど!?!?」
緊張感の無いツバメに、思わず敬語が抜けた突っ込みを入れてしまう。
ツバメは、ボールを一瞬で膨らませると、得意気な顔でカササギを見た。
「あ〜はいはい凄いっすね〜!!ツバメ隊長はさすがだな〜!!隊長の考えとか全然分かんねえけど素晴らしいな〜!!」
全く心の篭っていない賛辞に、ヒナが肘鉄を喰らわせる。
痛みに悶えるカササギを一瞥し、打って変わって輝く瞳でツバメを見つめた。
「ツバメ隊長、ボール膨らませるの、すっごい可愛くて上手です〜♡バレーボールで遊ぶんですね〜!!嬉しいです!!♡」
素直に喜ぶヒナの言葉を聞き、カラスが静かにため息を吐いた。
「どう考えてもチームワークの訓練だろう……。」
「カラスくんそのと〜〜〜〜〜り!!」
ツバメは満足気に頷くと、指先でボールを回しながら説明し始めた。
「とりあえず、お前らには、スポーツを通してお互いを『克服』してもらう。お互いの問題点は、俺は指摘しねぇから、自分たちで見つけること。これはカラスとカササギだけじゃなくて、ヒナもそうだから、しっかり考えるよ〜に!」
軽くショックを受けるヒナ、俯くカラス、首を捻るカササギと反応はそれぞれだが、全員がツバメの言葉に頷いた。
「んじゃ、まず作戦会議な〜。流石の俺も、スポーツで風を動かしたりしねぇから、普通に作戦を立ててくれ。ゲーム開始は20分後だ。」
ツバメの言葉で、カササギたちは再びペアに別れて距離を取っていた。
「作戦ったって、俺、バレーとか学校の授業でしかやったこと無ぇんだけど。本格的なのとか分かんねぇ……カラス分かる?」
唸るカササギを眺め、カラスは答える。
「バレーはペア競技じゃないし、別に本格的に考える必要など無いだろう。……というか、お前、一応学校には行っていたんだな。」
「……学校ぐらい行くわ!!バカにしてんのか!!」
最近は多少どころか割とサボっていたため、内心焦るものの、カササギも学校くらいは行っている。
「いや、髪も変な色だし、すぐ怒鳴るし、てっきり学校になんて行かない不良だとばかり思っていた。」
「変な色ちゃうわ!!一回金にしてたけど色抜けかけてるだけだわ!!怒鳴るのはお前が要らね〜ことばっかり言うからだよ!!」
カササギは犬歯を剥き出しにして怒鳴りつけた。
カラスは少しビクリとしたが、小さく「そうか。」と呟く。
そんなカラスの様子に、カササギは痺れを切らして言った。
「お前さ、一体何に怯えてるんだよ。」
「……え?」
「失礼なくらいズケズケ言いたい事言いまくる割に、肝心なとこは全然言わねぇじゃん。言いたかねぇけどさ、戦闘面じゃ俺はお前より弱いよな?なんで弱い奴にずっとビビってんだよ。」
恐らく、これがツバメが言っていた『克服』するべきカラスの問題点であり、核心だ。
カササギにも、一歩踏み込んだ自覚はあった。
カラスの目から輝きが消える。
額に汗が浮かべ、青ざめた。
「俺が、お前に……?」
呟くように言うカラスは、誰が見てもカササギに怯えているようだった。
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