第26話:バラバラ
空気の圧で動けないが、振り向かなければ負ける。
カササギの頬を汗が伝った。
「カラス、お前なら分かってると思うけどよぉ、カササギの背中を俺に取られた時点でお前らの負けだよ。俺の大気の攻略なんて、頭では分かっててもなかなか出来ねぇんじゃねぇの?」
ツバメが呆れた顔で吐き捨てた。
「お前の頭なら、俺の言ってることくらい分かると思ってたんだが……、見込み違いだったわ。お前も馬鹿だよ。」
カラスの肩がビクリと跳ね、そのまま彼は俯いてしまった。
「余所見する余裕あるわけ?」
ヒナがカラスに殴りかかる。
カラスはハッとして避けようとするものの間に合わず、ヒナの拳が鳩尾に食い込む。
「っはっ……!!」
カラスの口から空気が漏れた。
「……今しかねぇ!!」
ヒナが攻撃に転じたことで、カササギの前の空間が開いた。
空気が動いたことで身体の拘束が緩んだカササギは、そのまま前方に転がり込む。
ツバメは、黙ったまま、カササギが動くのを見ていた。
その気になればカササギを止めることも容易かったはずだ。
しかし、彼女はカササギをあえて見逃した。
「……クソ、余裕かましやがって……!!」
正直、今見逃して貰えるのは屈辱的ではあるものの、かなりありがたかった。
彼女は、甘い。
昨日の試験でも、今思えばかなりヒントを与えられていた。
言葉遣いの物騒さで掻き消されてはいるものの、本来は面倒見が良い気性なのかもしれない。
試験管を務めるくらいなのだから、教育に関しての心得もあるはずだ。
この訓練でも、カササギたちに何かを課そうとしているのは感じている。
その何かが分かれば、勝機も見えるかもしれなかった。
「とりあえず、ヒナを止めてから考える……っ!!」
カササギは、後ろからヒナを羽交い締めにした。
ヒナはギョッとした顔でカササギを見る。
「うぇ、仮にも女子に抱きつくのに躊躇とかないわけ?キショ……」
「うっせー!!カラス!!カラス!!攻撃!!」
思春期のカササギだって、決して抱きつくのが平気なわけではない。
むしろ、現実世界にいた頃は、女子に触れるなんて状況が有り得なかったため、耐性自体は皆無に近かった。
カササギは、同年代の女子に引かれて傷ついた心を何とか奮い立たせ、カラスに呼び掛ける。
しかし、カラスからの返答はなかった。
「カラス……?」
カラスは、顔面蒼白になって立ち尽くしていた。
カササギの声に応えて動き出す気配はない。
「もう、いい加減離れてくれる!?」
結局、カササギは、何もなし得ないまま、あっさりとヒナに振り払われてしまった。
「……クソッ!!」
カササギはなけなしのパンチを放つものの、それさえも掴まれてしまう。
「パンチ軽すぎ。今どきの小学生より弱いんじゃない?」
ヒナは、冷ややかに言い放つと、カササギが伸ばした腕を掴んだまま、振り回し始めた。
「うぉ!?お前っ、力、つよ……!?!?」
「でしょ?私もそう思う。」
ヒナはつまらなさそうに淡々と同意すると、カササギの腕をパッと離した。
カササギの身体は、遠心力を纏って飛ぶと、カラスを巻き込んで転んだ。
「オエッ……。」
「!?やば、回しすぎた!?ご、ごめん!!」
カササギの口から半分消化された昼食が飛び出しそうになる。
慌てて手で口を覆い、何とか嘔吐を免れたものの、かなりグロッキーな状態で、すぐには動けそうもなかった。
「は〜、ウチの雑魚共は軟弱すぎるな……。」
戦闘の終わりが見え、ヒナがツバメを呼ぶと、ツバメは一瞬でカササギたちの前に移動した。
戦闘不能のカササギたちを見て、ツバメはため息を吐く。
「ツバメ隊長♡私は軟弱じゃありませんよねっ♡」
「お前は確かに雑魚にしては強いが、その分頭が弱すぎる。」
ウインクをしながら迫るヒナを、ツバメは一刀両断した。
ツバメの言葉に、ヒナは思い当たる節が無いという表情で首を傾げる。
「……とりあえず、目下の課題はチームワークだな……。」
足のつま先でカササギの背中をつつきながら、ツバメは重々しく呟いた。
Copyright (C) 2020-ゴールデン☆ガチゴリラ




