第24話:異世界メシ
カササギたちがツバメの元に行くと、何やら美味しそうな香りが漂っていた。
「お、来たなカササギ。ヒナもお疲れさん。」
「隊長ぉ〜〜〜〜〜〜っ♡♡えへへ、もっと褒めてくださいぃ〜〜〜〜〜〜♡♡」
ヒナがツバメに飛び付き、頬を寄せる。
ツバメもヒナの勢いに若干引きながら、頭を撫でた。
「あー、隊長?そのぉ、飯があるって聞いたんすけど……。」
カササギもどう声を掛ければいいかイマイチ分からず、軽く目を逸らしながら尋ねた。
「ん、そうそう。お前のメシはそっち。」
ツバメは、ヒナの腕の中で溺れかけながら、香りの漂う方を指差した。
ついに待ちに待った異世界の飯だ。
見ると、地獄の走り込み開始時にはなかった現実式のテーブルと椅子が用意してあった。
昨日から感じていたことだが、異世界の日用品も、文化的には遅れているとはいえ、現実とは大差の無い物が多いようだった。
「なんでも良いや!飯が食える!……お、カラス。」
カササギの座席として示された席の隣に、カラスが腰掛けていた。
顔は青白く、食欲も無さそうだ。
(そういや、こいつも走るの得意じゃないんだよな……。)
カササギは、少しばかり生まれた親近感を携え、意を決して話しかけることにした。
普通の状態で話すことは難しいが、病人を気遣うくらいのことはカササギにも可能だ。
「カラス……、その、体調大丈夫かよ。」
「……あぁ。」
カラスは、生気のない顔のまま頷いた。
「……不良崩れでもまだ人間性は残ってるのか……。」
「あぁ!?んだと!?」
真っ白な顔で煽られ、カササギは噛み付く。
カラスはカササギから顔を背けた。
「やっぱり、お前とは合わないな。」
「っは〜〜〜〜〜、それは俺の台詞だよ!!同感だ!!」
カササギも腹を立て、音を立てて座席に腰を下ろした。
昼食は、銀の丸い蓋に覆われていた。確か、クローシュというらしい。
本格的な見た目に、カササギは喉を鳴らす。
「開ける……開けるぞ……!」
高級感に謎の緊張を抱きながら、カササギは覆いを外した。
瞬間、漂っていた食欲をそそる香りが、爆弾のようにカササギの鼻腔に弾けた。
口内に唾液が大量に分泌される。
「……って、これ、まんま現実世界の飯じゃねぇか!!」
皿に盛られていたのは、米一粒一粒がキラキラと輝く、黄金色のチャーハン。
そして、その上におそらく牛肉であろう肉が焼かれ、チャーハンの山の頂点で存在感を放っていた。
異世界感は全く無いものの、美味いものと美味いものを掛け合わせて不味いわけがない。
カササギは、静かに合掌すると、備え付けのスプーンを手に取り、一口目を食べた。
「っめ〜〜〜〜〜〜!!」
脳が美味を判断する前に、叫びが口をついて出る。
「なんだこれ、ただのチャーハンじゃねぇ……美味すぎる……!!」
間髪入れず、肉にも齧り付いた。
肉汁が溢れ出し、カササギの体内に染み渡っていく。
味は牛肉の筈なのに、カササギが食べたことのある牛肉とは食感が桁違いだった。
「っっっっま……。」
人間、本当に美味いものを食べると何も話せなくなるというが、カササギは逆だった。
今まで食事をする時は大抵一人で、無言で食べていた。
思えば、カササギの食事には味気ない記憶しかない。
美味いものを食べ、それを誰かと共有する機会がカササギにはなかった。
故に、今のカササギの口からは食に関する感想がダダ漏れになっていた。
「……お前、もっと静かに食べられないのか……!?!?」
カラスは、横目でカササギを見て絶句する。
カササギは、涙を流しながら、ガツガツと食べ物を口に詰め込んでいた。
「ふめぇよぉ…………」
「……なんつーか、お前も苦労してるんだな……。」
カラスは、カササギの食事シーンに軽く引いた。
「あ〜!!美味かった〜!!」
パンパンに膨れたお腹を擦り、カササギは伸びをした。
「……お前、ほんとに食い意地張ってるんだな。午後に動けなくなっても俺は知らないぞ。」
「あっ!?そっか午後も……何すんだっけ?」
「訓練だ馬鹿!!」
カラスの顔色は、カササギの食事前よりはかなりマシになっていた。
最初はカササギを警戒していた様子だが、食事の様子を見て毒気を抜かれたらしい。
チラチラと、何かを言いたげにカササギの顔色を伺っていた。
「言いたいことがあるんなら言えよな。」
カササギが強めに言うと、カラスは肩を強ばらせる。
「うっ、お、お前、午後は俺と組むことになったから……。」
カラスが漫画のような汗を流し、人差し指をカササギに向けて言った。
「はっ?」
「別に俺が希望したわけじゃない!ツバメ隊長の命令なんだ。俺だって、お前となんか組みたくはなかった。」
カササギにビクビクする割には、かなり失礼な物言いだ。
先程から、カササギもカラスにだいぶ腹を立てていた。
「……ヒナから聞いたんだけどよ、お前もかなり体力無いんだって?さっきの様子を見るに、俺より体力無いんじゃね?」
カササギの挑発に、カラスはピクリと眉を上げる。
「……なんだって?」
「午後、俺と組むのは良いけどさぁ、足引っ張るなよ、先輩。」
「……望むところじゃないか。俺がお前に戦い方というものを教えてやる。」
カラスの目からカササギへの怯えが消えた。
怯えよりも、まだ敵意の方が安心する。
カササギは、午後の訓練に気合いを入れると共に、カラスの怯えの理由を考えたが、ツバメの号令が聞こえても、終ぞ分からないままだった。
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