第20話:第八教会
眉間にしわを寄せるツバメに、カササギが何も言えずにいると、ふっとその表情が和らいだ。
「ま、新入りにこんなこと言っても仕方ねぇよな。とにかく入ろうぜ。お前の先輩がいるから、さっ!!」
ドン、と背中を叩かれる。
教会の扉はひとりでに開き、支えを失ったカササギは勢いよく内部に足を踏み入れる形となった。
「借りモンだけど今日からウチの新入りだ!!よろしくしてやれよお前ら!!」
大きく張り上げたツバメの声に、教会の中にいた人影が振り向いた。
「隊長!!おかえりなさいっ♡」
「新入り……?誰ですか。」
片方は弾むような高い声、もう片方は訝しむような低い声。
「カササギ、こいつらは俺直属の部下の、ヒナとカラス。お前と同じ世界のニンゲンだよ。」
ツバメの示す二人は、カササギと同い年くらいの少年少女だった。
ヒナ、と呼ばれた少女が、とろけそうな顔でツバメを見る。
茶色いコートに身を包んだ彼女は、鶴見には及ばないものの、カササギが今まで見た中ではかなり可愛らしい部類の顔立ちだ。
「えへ〜♡隊長に呼ばれちゃったぁ♡」
惚ける彼女は、カササギを全く見ようとしない。
対して、カラスと呼ばれた少年も、カササギに好意的な感情は抱いていないようだった。
カササギに似た服装ではあるものの、全身黒ずくめの彼は、正しく『カラス』という名前を体で表しているようだ。
カラスはカササギを凝視した後、不躾にも指をさした。
「隊長、このヤンキー崩れみたいな男、使えるんですか?」
「いや?全く使えねぇぞ。だから使えるようになるまでウチでしごき倒す。」
「はぁ……。隊長は甘いですね。」
辛辣な評価を聞いたカラスは、心底うざったいという顔でカササギを見た。
カササギは慌てて起き上がり、メンチを切り返す。
舐められたら負けだ、とカササギが思った瞬間、カラスはスっと目を逸らした。
(こいつには勝った……!)
カササギは、心の中で軽くガッツポーズをとった。
「オメー、先輩に自己紹介くらいちゃんとしろや。性根まで雑魚かよ、あ?」
調子に乗った瞬間、ツバメにキツく睨まれた。
「あぁもう、わ〜ったよクソガキ。自己紹介ねぇ……。」
カササギは軽口を叩き、全く思いつかない自己紹介を練ろうと脳みそを動かそうとする。
次の瞬間、カササギの息が詰まった。
「隊長を侮辱すんな!!」
カササギの喉がヒュッと音を立てる。
ヒナはカササギの胸ぐらを掴み、カラスは懐の刀らしきものに手を伸ばしていた。
「やめとけお前ら。こいつ壊したらツルに怒られんだよ、俺が。あとカササギぃ、俺はク・ソ・ガ・キじゃねぇ!!敬語使えっつったろ!?!?わーったか!?」
ツバメの言葉に、ヒナはパッと手を離す。
カササギは咳き込みながら、何度も頷いた。
「……っと、俺はカササギ……って名乗ってる。鶴見に騙されて、異世界に連れてこられた。勇者倒して金稼いで、元の世界に帰るのが目標。以上。」
改めて自己紹介をするも、同僚二人からの反応は鈍い。
一応同郷のはずなのだが、元の世界という言葉を聞いても、ピクリとも反応を示さない辺り、本気でカササギに興味が無いのだろうか。
「というわけだ。お前らも自己紹介。」
カササギの自己紹介を聞いたツバメは、満足そうに、二人にも同じように促した。
二人は露骨に嫌そうな顔をするが、隊長命令には逆らえないらしく、渋々名乗り始めた。
「ヒナでぇす……。好きなものは可愛いものとツバメ隊長っ♡♡♡嫌いなものはキショい男でぇす……。もっと嫌いなのはツバメ隊長を悪く言うゴミでぇす……。程々に仲良くしてくださぁい……。」
どうやら、仲良くする気は毛頭無いようだった。
カササギとしても、初対面で胸ぐらを掴んでくる女子と仲良く出来る自信はない。
「俺はカラス。頭の悪い奴と弱いくせにイキリ散らす奴は嫌いだ。よろしく頼む。」
こちらも、よろしくする気は1ミリも無いようだった。
現実世界にいたら間違いなく関わらないタイプの人間だ。
「というわけで、改めて、俺はツバメ。お前ら問題児どもを纏める、ホームの第八教会の隊長だ。毎日お前らをボコボコにしてやるから、有難く学んでいけよなっ!!」
全員の自己紹介が無事に終わり、うんうんと頷きながら、ツバメ隊長が胸を張った。
それに合わせて、ヒナとカラスが拍手をする。
(前途多難そうだな……。)
カササギは、全く心の篭っていない拍手を送りながら、誰にも気づかれないように溜息を吐いた。
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