第1話:主人公・笠崎 叶多の今日
「あ〜……5000兆円……欲しいな……。」
笠崎 叶多は、本日8回目の溜息を吐いた。
口から零れ出た金額とは裏腹に、彼の財布からは小銭のぶつかる音しかしない。
食べ盛りの叶多の腹の虫がぐぎゅうと鳴く。
「学食なら金額足りたんだよな、クソ……。」
空腹と少しの罪悪感を押さえつけるように、叶多はスマホ上の指を滑らせた。
叶多が学校をサボり始めて、もう3日になる。
元々、サボりがちではあったのだが、ついに連続でサボってしまったのだ。
特にこれといった理由があるわけではない。
特別親しい友達もいないし、勉強は退屈だ。
真面目でもなんでもない叶多には、サボる理由も無ければ、学校に出向く理由もないのだった。
「スマホ見てれば一日が秒で過ぎてくもんな〜。生産性は無いけど。」
初夏の日差しが強くなる今日この頃、叶多の日課は、『母親のパートが終了して夕食が提供される午後7時』まで、近所のファミレスのドリンクバーで粘ることだった。
「……ん、そろそろ帰るか」
読みかけのウェブ小説を閉じ、席を立つ。
会計を済ませようとすると、ウェイトレスがじっとりとこちらを睨みつけてきた。
「あの、何すか。」
「……いえ、またの御来店をお待ちしております……。」
若干尻込みした様子で、ウェイトレスは目を逸らした。
そのまま店を出ると 閉じたドア越しに、ウェイトレスの愚痴が聞こえる。
「チーフ、いくらなんでも長すぎですよ!午前からずっといますよ!?しかもあれ、私服でしたけど、高校生じゃないですか!?完全に補導対象でしょ!」
「し〜っ!聞こえるとこで文句言わない!まぁ気持ちは分かるけど……」
明日は来ないでおこう、また別の場所を見つけないといけない。
叶多は、本日9回目の溜息を吐き、帰路に着いた。
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