第18話:入隊
包帯をミイラ巻きされてから、体感一時間程で、カササギの身体から痛みが引いた。
「骨も綺麗にくっついてると思うよ。欠損も無くて良かったね。」
ゾッとするようなことを言うフクロウに、カササギはガクガクと頷いた。
壁にも改めて包帯を巻き直したようで、ひび割れは完璧に修復されていた。
身体の内部の骨折とは違って修繕箇所に直に触れる分、治りが早いのかもしれないな、と、カササギは考える。
「ったくよ、ピンピンしやがって……。」
カササギの隣には、ツバメが寝転んでいた。
彼女もまだ完全ではないものの、カササギに毒を吐く程度には回復しているようだ。
「あ、クソガキ!お前なんで倒れてんの?」
「見た目でガキ扱いすんな三下!言っとくけどお前の方がよっぽどクソガキだからなぁ!?……あれは、力加減ミスったんだよ……。お前が右脚掴んでるから。」
『クソガキ』というワードに起き上がって、ぎゃあぎゃあと反論した後、ツバメは気まずそうにそっぽを向く。
「俺の左足、ぶっ壊れてんだよ。大気のコントロールは、利き足じゃねぇとまだ十分に出来ねぇ。出るなら最大か最小だ。あの時は最大が出て、ぶっ倒れちまったってとこ。」
相変わらず顔に見合わぬ口調だが、だんだんと耳が慣れてくる。
むくれながらも続けるツバメは、見た目も相まって少しだけ可愛らしかった。
「それでも、ツバメさんはかなり手加減してましたよ。ねっ、ツバメさん?」
鶴見がニコニコとツバメに近付いた。
鶴見の言葉を受けて、ツバメは顔を赤らめる。
「そりゃ、俺がマジでやったら死ぬだろ。いや、途中からは殺す気ではあったけども!」
確かに、ツバメの攻撃は凄まじく強力なものではあったが、カササギを舐めたような蹴りもあったり、医務室の方向に蹴ったりもしていた。
ツバメが何処まで考えていたのかカササギには分からないが、ツバメの能力から考えると、相当優しい仕打ちだったのかもしれない。
だからといって、全身骨折を割り切れるかというと、それはまた別であったが。
「まぁ、左足使わねぇつもりだったのに使っちまったのは悪かったよ。あのまま右だけ使ってたら、結果がどうなってたかは分かんねぇけどな。」
「あ〜……えっと、それで、俺の試験の、合否?ってどうなった……?」
ツバメの言葉で思い出したように、カササギが鶴見をそっと見る。
試験官はツバメだが、彼女に結果の教えを乞うのはなんだか癪だった。
「どうなりました?ツバメさん。」
「え、普通に不合格。雑魚すぎじゃんお前。ていうかそれくらい直接聞け?」
鶴見から質問を回され、何の躊躇もなく、割と食い気味にツバメが答えた。
いきなり行く宛を失ったカササギは、何も言えず黙りこんでしまう。
そんなカササギの表情を伺い、ツバメはニッと笑った。
「ま、半人前だな。」
ツバメが、言葉を続ける。
「お前がツルと組んでも、はっきり言って邪魔。足でまとい。だから、まず俺の隊で最低限の力を付けろ。話はそれからだ。……良いよな?ツル」
少しだけ不安そうに鶴見を見遣るツバメに、鶴見はにっこりと微笑んで応じた。
「異論ありませんよ。私も時々見に行きますから。」
その言葉にほっとした様子を見せたツバメは、さっと立ち上がって、腰に手を当てた。
「というわけで、ホーム入隊オメデトウ。本日付でカササギは俺、ツバメが受け持つ。以後は敬語を使うように!!」
「おめでとうございます!」
「おめでとう」
鶴見とフクロウも、パチパチとまばらな拍手をする。
突然の優しい雰囲気に、カササギは目を瞬かせた。
「……えぇ?クソガキさんが上司ぃ……?」
「お前もっぺん骨バッキバキにされてぇのか!?あぁ!?」
憎まれ口を叩いてツバメに殴られながらも、カササギは安堵していた。
甘い世界とは程遠かった、本当の異世界。
騙されて絶望し、無理難題を押し付けられ、身体も心もズタボロだった。
そんなカササギにも、やっと居場所が出来つつあるのだ。
勇者を殺す、悪魔の巣窟。
ホームと呼ぶにはあまりに物騒なその組織に、たった今、カササギは名を連ねることになった。
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