第12話:ツバメ
その少女は、カササギの背を思い切り踏みつけた。
カササギの骨が軋む。
「ぐぁ!?痛っおま、やめろや!!」
堪らず声を上げるが、少女が耳を貸す気配はない。
「ほんと貧弱。ツルが何を思ってお前を選んだのかは知らないけどさぁ、お前、すぐ死んじゃうよぉ〜?」
硬い靴底がぐりぐりと背中に押し込まれ、カササギは苦悶の表情を浮かべる。
「ツバメさん、その程度にしておいてくれませんか?一応私の従僕ですし、今壊されると困るといいますか……。」
「あ……?しゃ〜ねぇな……。」
助け舟を出してくれた、と判断しても良いのだろうか。
鶴見の声で、『ツバメ』と呼ばれた少女は渋々足に込めた力を緩めた。
「ぶはっ!!」
圧迫されていたカササギの肺が空気を吸い込む。
一日に二度も窒息死しそうになったのは、全く嬉しくない人生初体験だった。
「ゲホッ……一体なんなんだよ、お前……っ、急に顔面に蹴り入れるとか、イカれてんだろ……。」
「あ?お前が弱っちいのが悪いんだろうが!!こっちはちゃんと手加減してやってんだよ!!」
カササギがぼそぼそと悪態をつくと、少女は思い切りガンを飛ばしながら、大声でカササギを怒鳴りつけた。
「ツルが連れてくるって言うからよぉ、どんだけ強えニンゲンなのかと思ったら、俺の蹴りの風圧だけで飛んでくとかこっちがビックリしたんだからな?体幹ぐらい鍛えとけよ雑魚!!」
小さな可愛らしい少女から発せられる罵詈雑言の数々に、カササギの脳がついていけず、エラーを吐き出す。
改めて、少女の姿を確認してみた。
青みがかかった肩までの髪を外向きに跳ねさせ、目はつり目がちで、眉には皺を寄せているものの、勝気な美少女という印象を受ける。
小柄な身体を丈の短い衣服で包み、臍と太ももを惜しげも無く晒した姿は実に動きやすそうで、まるで活発な小学生のようだ。
また、鶴見と違って、彼女の背中には翼がないことから、より一層普通の人間と変わらないように見えた。
しかし、彼女の凶悪な蹴りの風圧のみで簡単に吹き飛んだカササギは、彼女もまた『悪魔』なのだと悟らざるを得なかった。
「何ジロジロ見てんだよ、気持ち悪。」
『ツバメ』は顔を歪ませ、吐き捨てるように言った。
「カササギくんが気持ち悪いのは完全に同意ですけど、まぁまずはお話しましょうよ。肉体言語…及び入隊試験はその後ということで。」
鶴見が翼を羽ばたかせ、ふわりと『ツバメ』の隣に舞い降りる。
入隊試験という単語は初耳だが、一方的な暴力を一時的に遠ざけてくれたことは、今のカササギにとって救いだった。
「改めて、カササギくん、紹介しますね。こちらはツバメさん。私たちと同じ組織の仲間です。少々口は悪いですけど、頼もしい方なんですよ。」
紹介を受け、ツバメは平たい胸を張った。
「というわけで、俺は第八のツバメだ。お前の試験監督でもある。死んだらホームには入れねぇからお前も運が悪かったなぁ。ま、よろしくやろ〜ぜ♡」
そう言うと、ツバメはにやりと笑った。
カササギの頭に、少女に嬲り殺される自分の姿が浮かぶ。
勇者を殺す以前に、カササギが試験で生き残る未来が見えなかった。
鶴見はそんなカササギを、微笑みを浮かべて静観していた。
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