第11話:洗礼
城門から城本体までは、整備された道が続いていた。
古めかしくて汚いようで、実は人の手が入っていることが分かる。
それどころか、目立ったゴミや雑草が全く見当たらないことから、かなり几帳面に手入れされている印象も受ける。
城門から一歩踏み入れなければ分からない視覚情報に、カササギは感心して、しきりに目を動かした。
「カササギくん、もっとどっしりと構えていた方が良いですよ。」
鶴見が落ち着くよう促すものの、カササギのテンションは初めて見る本格的な城の庭に上がりっぱなしだった。
「や、だって、俺こういうのほんと待ってたっていうか!!思ってた異世界とは違うし色々ハードモードだけど、これくらいは楽しむ余裕出てきたっていうか!!」
「余裕とか、今のうちに無くしておいた方が良いと思うんですけど。割と直ぐに折られますから。」
はしゃぐカササギを冷ややかに見守りながら、鶴見は城の玄関口に手を掛けた。
「城の中身!!シャンデリアとかあるんぶぇっ!?!?」
ウキウキしながら扉の中を覗き込んだカササギの身体が、いきなり宙に浮く。
そのまま、きりもみ状に回転した後、重力にされるがままに、硬い地面に叩きつけられた。
「あ、え!?何が起こっ……痛!?痛い!!無理痛すぎる!!骨折れ……うわ……痛え………………」
立ち上がることが出来ず、カササギはその場に倒れ込んだまま、首だけを上に向ける。
歯を食いしばることで、何とか涙が零れるのを堪えたが、声は震え、打撲したところが熱かった。
「つ、鶴見……?また……お前……。」
ぼやける視界を何とか鶴見に定めたが、彼女は首を振って両手のひらを胸の前で開いて見せた。
「違いますよ〜!!私じゃないです!!もう、だからどっしりした方が良いって言ったのに。」
鶴見の声は落ち着いている。どうやら、彼女の想定していた事態だったようだ。
痛みは増すばかりだが、視界の歪みはだんだんと元に戻ってきた。
鶴見ではないのなら、一体何の仕業だというのか。
カササギが開きかけていた扉に目を向けると、その扉の先に何かの気配を感じた。
もっとよく見ようと、目を凝らす。
その時だった。
カササギの視界の真ん中を、巨大な靴底が踏みつける。
いきなり両断された視界に驚き、カササギが痛む上半身を仰け反らせながら振り向くと、そこには、年端もいかぬ少女が腕を組んで立っていた。
「ツル、こいつ弱すぎ。使えない。」
少女は、カササギを一瞥すると、鶴見に向かって吐き捨てた。
カササギが、自分が飛ばされたのはその少女の『蹴り』によってのものだ、と気づいたのはそのすぐ後のことだった。
Copyright (C) 2020-ゴールデン☆ガチゴリラ




