第10話:古城
叶多たちの視界に聳える、悪魔の巣食う邪悪な城。
見るからに老朽化が進み、所々風化して柱が剥き出しになっているそれは、奇しくも叶多にこの世界で初めての『異世界』らしさを感じさせた。
「ここが、悪魔共のホーム……。」
「その悪魔共って言うのやめて下さいよ。他の人に殺されても知りませんよ?」
鶴見が頬を膨らませるが、叶多はお構い無しに目を輝かせた。
「すげぇじゃん!!ちゃんと異世界って感じする!!ボロいけど!!なんつ〜か、魔王城みてぇ」
「やることは魔王と変わりませんけどね、私たち。」
鶴見は叶多の態度に呆れたように、大きく溜息を吐いた。
彼女の表情は相変わらず笑っているんだかなんだかよく分からないが、何となく、この先を憂いている気配が読み取れる気がするのは、契約の効果だろうか。
「なぁ鶴見!!入っていいのかここ!!というか、いい加減下ろしてくれ!!」
「あぁ、そうですね。どうぞ。」
言うが早いか、鶴見は叶多を抱えていた腕をパッと離す。
「うぉ!?急に離すなよ危ねぇな……」
突如重力に引っ張られた叶多は、その場に盛大に尻もちをついた。
異世界の重力が地球と同程度で、物理法則も変わらなさそうなのが不幸中の幸いだった。
「……そういや、ちょっと空気は重いけど普通に呼吸出来てるし、普通に言葉が通じてる辺り、やっぱその辺は都合が良いよな、異世界って。」
「はい。空気の重さは異世界特有の成分……、カササギくんに身近な言葉で例えれば、魔力、オド、マナ……、そういうものが生み出すものでしょうね。」
「やっぱりそういうのあるのか!」
「日本で一番近い概念をあげるなら放射能ですかね?」
「え、怖……。」
具体的に何が有毒なのかイマイチ分からないまでも、何度も見たニュースやSNSで、放射能の危険性が幾度となく語られていたことを叶多は思い出し、口を抑える。
「まぁ、悪魔の眷属になった時点で、ある程度その辺に対しての耐性は上がっているはずです。勿論、人間である以上、魔法なんかは使えませんけれどね。」
「……。」
鶴見の言葉は信用に値しないものの、異世界の空気に対して抵抗する手段を持たない叶多は、これ以上考えるのをやめた。
「さて、もういつホームに足を踏み入れて下さっても構いませんが、その前に、一つだけ伝えておくことがあります。」
鶴見が、改まって言った。
「カササギくん。貴方は、今から『カササギ』を名乗って下さい。『笠崎 叶多』という名前をこちらで名乗ってはいけません。」
「え、お前、俺の名前知ってたの!?」
「当たり前じゃないですか!契約者の情報を調べておくのは当然でしょう!?」
鶴見はプンスコと怒っているが、叶多は本気で驚いていた。
鶴見は、一度も叶多の名前を正確に読んだことが無かったが、それも把握の上だとは……。
こっそりと「もしかしたら契約者名の間違いで契約無効に出来るのでは?」と考えていた叶多だったが、その考えは水泡に帰した。
最も、常に洗脳されていると思われる叶多が契約破棄のための行動に移れるかは怪しいものだったが。
「とにかく、貴方は今から『カササギ』です。コードネームか何かだと思ってくだされば良いです。」
「あぁ、分かった。」
叶多、改め、カササギは頷いた。
「ようやく全ての準備が整いましたね。」
鶴見は、長く息を吐くと、両手を大きく広げ、言った。
「ようこそ、カササギくん。私たちの『異世界』へ!」
鶴見の動きに合わせ、朽ちかけた城の巨大な城門が、カササギたちを飲み込むようにその口を開いた。
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