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5.

アニーさんと別れていつも通りに王宮書庫に向かっていた。

アニーさんのおかげで心臓の音はいつの間にかいつも通りになっていた。


書庫に着いてからはいつもサッシャーさんと勉強をしていた席に座って待つことにした。

やっぱりここは落ち着く。

やっと落ち着いて座れたのにすぐに黒の服を着た背の高い男の人が目の前に現れた。


「サクラ様、お待たせいたしました。これからレオン殿下の元へお連れいたします」


それだけ言うと私の鞄を持ち、こちらへどうぞ、と誘導してくれた。

もちろん特に話すことがないので沈黙のままついて行く。

王宮書庫はお城の2階にあるけど、階段を降りて1階に行き暫く長い廊下を進んだ。城の外にある渡り廊下に出て噴水のある立派な中庭を見ながら離れの建物へと案内してくれた。

離れと言っても貴族の屋敷くらい大きい白壁の建物だった。

貴族の屋敷は実際には見たことはないけど。

入り口の茶色のドアは金で出来た蔦のような装飾がされている豪華なものだった。

ドアの前には騎士が2人いてドアを開けてくれた。

建物の中に入ると広いエントランスに赤い絨毯が敷かれた螺旋階段がありそこを昇った右奥にある部屋の前まで案内された。

ここは意外とシンプルな茶色のドアだ。


「こちらでレオン殿下がお待ちです」


「はい、ありがとうございます。もう入っても?」


「はい、サクラ様お一人での入室をご希望でしたので、ここからはお一人でお進みください。」


「分かりました。案内、ありがとうございました」


この扉を開けたら居るんだ…。

現実味が増して少し掌に汗が滲む。


大丈夫、大丈夫。


コンコン

意を決してドアをノックした。



「入れ」


想像していたよりも子供らしい声だった。私と同い年なのだから当たり前かと思いながらドアを開けた。


「失礼いたします」

入室の前に一礼する。

マナーの講師マーリインさんに初対面の印象が大事だと何回も何回も練習させられたのでこれからの流れは間違うはずないだろう。



入室してドア閉め初めてレオン殿下が視界に入って来た。



王妃様の生き写しだと思った。

窓から入る暖かな陽射しにゴールドに輝く髪の毛がキラキラと光っていた。

髪の色は国王陛下の遺伝だろうか。

王妃様と同じ、まるでエメラルドの宝石のような瞳の色と視線が重なると不思議と思考が停止して身体が言うことをきかない。

姿勢はすっと伸びて見るからに仕立ての良い白いシャツにリボンタイ、ミントグリーンのベストを羽織っていた。


ただ、美しいと感じてしまった。

それだけだったと思う。

王妃様の時とはまた違う不思議な感覚。

暫く無言のまま見つめ合う。

でも身分の低い自分からは名乗ってはいけないのでただそこに動けないまま立っているしかなかった。



どれくらい経っただろう。

実際には数十秒程の沈黙だったと思うけどとても長く感じた。

やっとレオン殿下は口を開いてくれた。


「私の名はレオン・ロイ・ノースアーロノアだ」


それだけ言うとすぐに目を逸らされてしまった。


「お初にお目にかかります、私サクラ・ヤマガミと申します。今日からレオン殿下と共に授業を受けさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします」


ワンピースの裾を広げ一礼する。

大丈夫、いつも通り冷静に。



「母上には困ったものだ。ついには英雄の娘を寄越すとは…。君には悪いが、私は今の所何一つ不自由していない。君も適当な所で辞退してくれ。自分から言い出しにくいなら私から母上に伝える」



辞退だと?

何を言っているんだ。


「お言葉ですがレオン殿下、私はなにがあろうと自分から辞退する事はありません。そのつもりでよろしくお願いいたします」


それを聞いたレオン殿下は少し驚いたように再びこちらを見た。


「母上に何を言われたかは分からないが、君が私と共に学んだ所ですぐについていけなくなるだろう。

はっきり言おう。足手纏いは要らないんだ。一人で学んだ方が効率が良い、それだけだ」


先ほどまでキラキラと輝いて見えたエメラルドの瞳が曇って見えた。

取り敢えず歓迎されていない事だけは分かった。


「私にも願ってもなかったチャンス(無料で王族と一緒の教育)なんでね、簡単に手放す訳にはいかないんですよ」

業と口角を上げ微笑んでみせる。

ここで退くわけにはいかない。


しばし睨み合いが続く。


「もしかしてレオン殿下は自信がないのですか?女の私に負けるのが恐くて仕方がないとか?それならば辞退せねばなりませんね」

溜息をつきながら挑発してみた。


「そんなはずないだろう。君が惨めな思いをしなくて済むように助言したまでだ。いいだろう。何でそんなに自信があるのか分からないが面白い。

一月は共に授業を受けよう。一月後にテストをして私より1点でも得点が高ければ君の好きにするといい。まぁそんな事はあり得ないが。負けた場合は速やかに辞退するように」


「まぁ!!レオン殿下はなんて慈悲深いんでしょう!!1点高いだけで良いのですね!!一月後が楽しみですわ」


こんなにテンション高く発言したことはない。なんだろう、気分がとてつもなく高揚してる。


レオン殿下は鼻をフンッとならし腕を組んでいる。

多分今、私とレオン殿下の間に火花が散っていると思う。


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