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ガーデンパーティーの翌朝(レオン視点)

朝を迎えた。

一睡もしていない。

ヘーゼルからサクラは無事家に帰っているとの報告は受けた。

その時サクラの家へ行くべきだったのだろうか。

いや、今日会うのだからその時謝ればいいだろう。


何度もそんな自問自答を繰り返していたら朝になってしまったという訳だ。

身体は疲れているのに何故か目は冴えている。


コンコン


「殿下、朝食の準備が整いました」


ルカがドア越しで言った。


「分かった。部屋へ運ばせろ」


「畏まりました」


いつもならすぐに入室して私の支度に取り掛かるが今日はルカなりに気を遣っているらしい。

ドアを開けずにそのまま朝食を取りに去って行った。

正直朝食を摂る気分でもないがどちらにせよ時間が経たないとサクラには会えない。

いつも通りの朝の支度をして気持ちを落ち着かせよう。



いつもより時間が経つのが遅い気もしたがなんとか離れへ行く時間になった。

部屋を出て数歩進んだ所で使いの者に呼び止められた。


「レオン殿下、御報告です」


「なんだ?」


「本日はサクラ様が体調を崩されて欠席されるとのことです」


「…サクラが欠席?」

学友になって以来初めての出来事だ。

サクラはいつも無遅刻無欠席で…。


まさか。


それ程までに私に会いたくないのか?



「ヘーゼルさん曰く高熱で立ち上がれない状態との事」


「そんな状態で大丈夫なのか…。

ヘーゼルは今日出仕しているのか?」


「はい、本日もアンバー様にお仕えしております」


「そうか…。ご苦労、下がっていいぞ」


「はっ」



「ルカ…」


「はい、殿下」


「先日ロジャーがチョコレートを持ってきていたな?」


「はい」


「それを私の自室へ持ってきてくれ」


「…畏まりました」


直ぐに自室へと引き返す。

今日は離れへ行くのは止めだ。



暫く自室で待っているとルカが赤い箱を持ってやって来た。


「お待たせいたしました」


「ご苦労だった。箱はそこへ置いといてくれ。あとサッシャーに本日は私も欠席と伝えておいてくれ」


「…畏まりました」


ルカが部屋を後にする。

その様子を見計らって外套を羽織り赤いチョコレートの箱をポケットに入れひっそりと部屋を後にした。


王太子としてあらぬ姿なのかもしれない。

でも今日だけは授業をサボってでもサクラに会いに行かなくてはならない。

念のため自室には“直ぐに戻る”とメモを残して来たのでルカは直ぐに気が付くだろう。

勘の良いルカの事だ。

私のこの行動のこともメモを見る前にお見通しだろうが。


13年も王太子をやっていると城の構造、警備が手薄な場所全て把握している。

人に会わないよう細心の注意を払いサクラの家まで向かう。

サクラの家に行くのはこれが3度目だ。


1度目は稲刈りの後。

2度目はサクラの木を描くために。

サクラの木を描いたあと、サクラは自室の窓を指差して教えてくれたから部屋の場所は分かる。

しかし熱で寝ていては玄関のドアを叩いても気が付かれず入れないだろう。

となると…。




窓から侵入するしかないだろう。




王太子としてあるまじき行動だが、誰にも見られなければ問題ない。

善いことと悪いことの区別も付かないくらい、今の私は必死なのだ。


なるべく陰になる所を選び進んでいく。

誰にも会わずにあともう少しでサクラの家だ。

ただ1つ問題がある。

サクラの家の近くには使用人の宿舎があり、王宮へ出入りする使用人達が多く行き交う。

窓から侵入するにはとにかく時間との勝負なのだ。

サクラの家の庭から辺りを見回す。

誰もいないことを確認して煉瓦の外壁と1階の窓枠などを駆使して登る。

端から見たらただの泥棒だろうか。

滑稽な事には違いない。


こんな試みは経験がないが2階まで意外にも簡単に登れて拍子抜けした。

幸運な事にサクラの部屋の窓は施錠されていない。


カラカラ


窓を開けると直ぐ真下にベッドがありサクラが寝ていた。

額には濡れタオルを置いている。

その姿を見て本当に病気だったのかと少しホッとした。


サクラを起こさないようにそっと部屋の中へ足を踏み入れる。


「ここがサクラの部屋か…。勝手に入ってすまない。許してくれ」

一応寝ているサクラに話し掛ける。


サクラの部屋はベッドと机とクローゼットと本棚があるだけのシンプルな部屋だった。

まぁサクラらしいと言えばサクラらしい。

無駄な物が一切ない。

少し意外だったのが流行の恋愛小説が本棚に並んでいた事。

他には…。

目に付いたのはクーペンが描いたサクラと私を描いた絵。

確かあの時サクラは…絵の勉強に使うと言っていたような…。

これを飾っているということは………



いやいやいや。

人の、しかも、レディの部屋に勝手に侵入した挙げ句部屋を物色するとは趣味が悪すぎる。

これ以上はやめよう。

頬を叩き自分を戒める。


机から椅子をベッドの横に運びサクラを見つめていた。

うなされていてとても辛そうだ。

その時だった。


「ん…夢…?」

私の気配でサクラを起こしてしまったか。


「サクラ…起こしてしまったか…」


「ん…ん、夢なのだから…起こしてないわ…変なレオン…」


不意にサクラの手が私の右頬を包む。

サクラの熱が伝わってくる。

思わずサクラの手に自分の手を重ねる。

サクラはまだ夢と現実の境にいるのだろうか、それでもサクラと目が合うと心が落ち着いた。


「レオンは…アンジェリカ嬢と…結婚するの?」

熱にうなされながら呟いた彼女の言葉は意外な物だった。


「突然どうした?

私がアンジェリカと?結婚しないよ」

昨日のパーティーで誰かに余計な事を吹き込まれたのだろう。


「しないの…?

そう…そっかぁ。よかった…」

サクラがふにゃっと笑った。

この顔は見たことがない。

思わず頬が緩む。


「サクラはどうしたんだ?

熱にうなされておかしくなったのか」

思わず照れ隠しで強い口調になってしまった。

本当は私とアンジェリカの仲を気にするサクラの様子が堪らなく嬉しいのに。


「おかしくないわ…。だって夢…だもの」


「寝ぼけているのか」


「寝ぼけ…って本物のレオンっ?」

サクラが勢いよく身体を起こす。

どうやら夢の世界から帰還してしまったようだ。

もう少しだけ夢と現実の境にいるサクラと話せたらサクラの本音が聞けていただろうか。



“サクラは私をどう思っているんだ”



夢の世界は終わり。

いつも通りに振る舞わなければ。

「起こしてしまってすまない。

そんな急に起き上がって大丈夫なのか?」


「だだっ大丈夫も何も…どうしてレオンがここに居るの?」


確かに…ここはなんて返そうか。

下を向き頭を抱える。

そうだ、純粋に見舞いに来たのだ。

チョコレートも持ってきたしな。


「ああ、…学友を見舞いにな」


「見舞いって…授業もあるでしょう?」


「サボって来た。たまには良いだろう」


「サボるって…良くないわよ」


ごもっともだ。


「教師も護衛も撒いてきたから大丈夫だろう」


「尚更良くないわ」


「多分ルカは居場所を知ってる。問題ない」


「問題大ありな気がするわ…」

サクラが力なく再びベッドに横になった。


「サクラ…」


「…ん?」


「昨日は…その…すまなかった」

やっと昨日から伝えたくて仕方がなかった言葉が言えた。


「…何でレオンが謝るの?」

サクラは目を丸くしている。

少し拍子抜けした。


「凄い力で引っ張って…感情のままに当たってしまった…」


「レオンが謝る事じゃないわ。

私が失敗してしまったから…ごめんなさい」


多分サクラは何かを勘違いしている。

「いや…サクラは悪くないんだ…」


「ふふ、今日のレオンは少し弱気ね」


「弱気にもなる」

サクラの事になるとこんなにも情けなくなってしまうんだ。


「そっか…レオンは怒っていた訳じゃなかったのね…安心した…わ」


「お見舞いにチョコレートを持ってきた。好きだろう?食べるといい」


「チョコ…体調がよくなったら頂くわ」


病人にチョコは失敗だっただろうか。

「ああ」


「なんだか…安心したら…眠く…き…た」


そのままサクラはまた眠りについてしまった。

心なしか先程よりも穏やかな顔で。


机の上にチョコレートの箱を置いた。


再び椅子に腰掛ける。

恐る恐るサクラの額に触れると相変わらず酷い熱だった。

こんなにも高い熱を出させてしまったのは私のせいだろうか。


そのまま指先で頬を撫でる。

よく眠っているようだ。


出会った時には肩までだった黒い髪も6年の歳月を掛けていつの間にか腰まで長く伸びていた。

漆黒の髪を一束手で掬った。

ストンと滑り落ちてしまいそうな滑らかな髪を唇まで運び口づける。


「サクラは私のものだ。誰にも渡さない」


思い出されるリックの顔。

そしてハッと我に返る。

私は今何をした…?

無防備な彼女の髪にキスを…。


罪悪感と恥ずかしさが渦巻き足早にサクラの部屋を後にした。


次から本編に戻ります!!

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