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4.

王妃様とのお茶会から三月が過ぎた。

とうとう明日レオン王太子殿下との対面の日だ。

三月もの間、休みなく勉強をしていたので今日は絶対に休みなさいとサッシャーさんにキツく言われてしまったから日中やることがなく時間を潰すのが大変だった。


「明日…ついに明日なのね…」


やっと夜になりベッドに潜り込みながら少しソワソワする。

こんなに明日が楽しみなのは生まれて初めてかもしれない。

今日は絶対に眠れないと思っていたのに毛布に包まれていたら気持ち良すぎて問題なく寝付いてしまったようだ。


気が付いたら朝になっていた。

昨日はカーテンを閉め忘れて寝てしまったみたいで朝日の眩しい光で目が覚めた。


1階に降りるとお仕着せ姿のお母さんがまだ朝食の準備をしていた。

ベーコンの香ばしい匂いが部屋中漂っている。


私に気が付いたのかお母さんはいつもの優しい笑顔で振り返りながら話しかけてきた。


「おはよう、サクラ。

今日はとうとうレオン殿下と対面の日ね。よく寝られた?」


「自分でも戸惑う位にはよく眠れたわ」


私の相変わらずな返答にお母さんはクスリと笑った。


「さすがサクラね。王妃様がレオン殿下の学友にと見初められた意味が分かるわ」


褒められている気がしなかったのでスルーした。

朝食を待っている間、教本を眺めた。

レオン殿下と勉強をする事になっても引き続き歴史はサッシャーさんが教鞭を執ってくれるらしい。

見慣れている顔があるだけで安心感が違う。

でも王太子を教えているとても優秀な講師陣に会えるのもたのしみだった。

これからどんな毎日が待っているのだろうか。


そんな事を考えていたらと目の前にベーコンと目玉焼きとトマトが乗ったお皿が置かれた。


「朝ご飯お待たせ。今日はなんと黄身が2つの双子目玉焼きよ。良い1日になりそうね」



「うん、いただきます」


その後、焼きたてのパンをテーブルに置いたお母さんも一緒の食卓についた。


お母さんは食べながらも何か話していたけど、やっぱり少し緊張しているのか全く耳に入ってこなかった。

王妃様に会う時ほどではないが緊張するものは緊張する。

王妃様の期待に応えられるだろうか…。


せっかくの双子目玉焼きだったのに考え事ばかりしていてまったく味がしなかった。



食事の後片付けを終え、お母さんはそのまま王宮へと出勤して行った。

私はあと少ししたら家を出て王宮にある王宮書庫へと向かう。

そこで王太子専属の従者が迎えに来てくれる手筈になっている。


レオン殿下に初めてお会いするのだから失礼のないように一応身なりはいつもより整えなくては…。

1番お気に入りのあの王妃様とのお茶会に着ていった水色のワンピースにしよう。

お母さんはもうお仕事へ行ってしまったから髪の毛はいつも通り下ろして、でもいつもよりも長い時間ブラッシングした。


忘れ物のないように十二分にチェックをして予定より少し早く家を出た。

毎日のように王宮書庫へと通っていたからこの頃は王宮まであまり遠く感じなくなっていた。


一人で歩いていると後ろから聞き慣れた声が聞こえて来た。

「サークーラー」


後ろを振り向くとアニーさんが早歩きで近付いて来るのが見えた。

アニーさんはいつも癖っ毛の短い赤毛に見える髪をちょこんと後ろに纏めている。

トレードマークのそばかすもさすがにこの距離では見えない。

お仕着せ姿のアニーさんはどうやらこれから出勤のようだ。


少し息を切らせながら見事な早歩きで私に追いついた。


「サクラ!!ついに今日レオン殿下とご対面!?」

いつもそれはもう元気いっぱいのアニーさんだけど今日はいつにも増して興奮している。


「はい、今向かっている所です」


「あれ?緊張してる?」

アニーさんは少し腰を丸めて顔を覗き込んで来た。

歩いていたら何だか心臓がバクバクしていて先ほどよりも緊張がピークに達してしまっていた。

こりゃ王妃様とのお茶会より緊張してるな、と思っていた所だった。


「実はこんなに緊張しているのは人生で初めてです」


「やっぱり~!!いつもより更に表情筋が動いてないもの。7年目の人生にして初めての緊張か~…って緊張を体験するの遅くなーい??」


王妃様にお誘いいただいた時には人並みに緊張してるんだけどなとも思うけどアニーさんの前で緊張してる姿を見せるのは初めてだから仕方ない。

アニーさんは割と思った事をそのまま言葉にするタイプだ。

嘘のない人なので逆に好感が持てる。


実は初めに文字の読み書きを教えてくれたのはアニーさんなのだ。

お父さんが亡くなってすぐ、家に独りで居ることの方が多くなった私はよく庭の椅子に座り絵本を読んでいた。

ただなんとなく眺めていただけだと思う。

そんな様子を見てなのかアニーさんは声を掛けてくれるようになり、さらには絵本を読んでくれるようになった。

それが凄く嬉しくて自分も文字が読みたいと思った。

アニーさんはドルファー男爵の三女で貴族令嬢なのに平民の私にも普通に接してくれる。

4歳児の私に根気よく教えてくれたおかげですぐに読み書きが出来るようになったのだ。

非常に情報通で王城の事はもちろん、城下の事もなんでも話してくれる。

喜怒哀楽の少ない私の事もよく理解してくれている数少ない理解者の一人で勝手にお姉ちゃんのように慕っている。


「でも…アニーさんとお話していたら少し緊張が解れてきました」


「もぉー!!可愛いなぁ!!

サクラなら絶対に大丈夫よ。なんてったって私が認めた神童なんだから!!!」


アニーさんはよく私の事を神童だと、一緒に働いているメイドさん達に言いふらしているらしい。

そんな凄いものじゃないと思うのに。


それにしてもやっぱりアニーさんは凄い。

私の緊張をこんなにも簡単に吹き飛ばしてしまうのだから。


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