アンバーの策略(アンバー視点)
サクラと共に過ごすようになってレオンの表情が豊かになった気がする。
以前は何をするにも無表情で冷静。
このまま大人になってしまったらこの国は一体どうなるのだろうと不安もあった。
私の前では冷静さを装っているけど、ルカの話ではいつも怒ったり笑ったりしていると報告が入っている。
私には見せない表情に少し寂しさを感じるけどここは大人しく見守る事にしよう。
だからこそ…
普段の授業風景を見たい!
前々から入念に策を練り、遂に決行する日が来た。
まず始めに取りかかったのはファームのロベルトの日程を押さえること。
ファームであれば広大な土地で自然と周りに溶け込めるだろう。
ロベルトはレオンとサクラの視察を快く受け入れてくれた。
どうやら田植えの季節でなので田植えを体験するのはどうか、との申し出もあった。
お願いしよう。
そして日にちが決まったら今度はサッシャーへの口裏合わせ。
なんとか怪しまれずファームへと2人を連れて行って貰うように頼んだ。
サッシャーは私が見込んだ通り話が分かる女性だ。
今度はお忍びの服を仕立てなければ…。
どうしたら気が付かれずに景色に紛れ込めるだろうか…?
これは普段のレオンとサクラの様子を見るためのお忍び参観なのだ!!
「ヘーゼル…」
「はい、アンバー様」
「普段のレオンとサクラの様子を見たくはありません?」
「えっ!!アンバー様…み…見たい…です!!」
「よし、ヘーゼルの分もお忍びの服を仕立てましよう」
「お忍びの服ですか?」
「私達が居ると気が付かれては普段の様子は見れないでしょう?どのように変装すれば気が付かれないかしら…」
「えぇーと…申し上げにくいのですが…騎士の服か…農作業用の服をお召しになるしか紛れ込めないかと…」
「そうね…。騎士の服…顔もある程度隠れるから良いかもしれないわね」
ヘーゼルの助言で服は決まった。
グロヴァーに騎士服を用意させよう。
それから…当日はルカに2人の農作業用の服も持たせて…完璧な計画だわ。
今から楽しみね!
授業参観当日はヘーゼルと共に騎士の服に身を包んだ。
初めて着るこの服は重い。
子供達の成長を見るには堪えなくてはいけない重みね。
レオンとサクラがファームへ歩き出した後ろから後を付けていく。
今日は私の護衛もいるから少し数が多いのが気になるけれどきっと気が付かれないわ、大丈夫。
でもこんなに離れているとなんて話しているのか聞こえない。
でもまぁ、仲良くお話している雰囲気は伝わってくるわ。
暫く後を歩き続け、一所懸命に農作業用に取り組むレオンの姿も見られた。
そして最後に田植え体験の時間がやって来た。
レオンはファームを視察したことがなかったし、今回の計画は丁度良かったわ。
レオンもサクラも頑張って田植えをしているし…
「わーーーー!!」
ドボンッ
レオンの声?
どうやらレオンが尻もちをついたらしい。
少し離れていても聞こえる2人の大きな声に耳を傾ける。
「あらあらあら!レオン殿下大丈夫ですか」
「笑うな!大丈夫じゃない」
「まぁ泥も滴るいい男ですよ」
「うるさい」
「さぁ、お手をどうぞ」
あろう事かレオンがサクラの手を引っ張った。
「キャッ」
バシャーン
「ヘーゼル、私の息子が…」
「いえ、いいんですよ~。元はと言えばサクラがカエルを殿下にお見せしたのが悪いのです」
そんな会話の間にも2人の話は進んでいた。
「ッッッッ!!やってくれましたね!!」
「元はと言えば君が悪いんだ、カエルなんて見せるから」
「一国の王太子がカエルごときでビビるのがいけないのですわ!!」
「まぁ泥も滴るいい女だぞ」
「なんですって!?」
次の瞬間サクラがレオンの顔に泥を塗った。
「なにするんだ!!」
レオンはあろう事かレディの顔に泥を塗り返している。
「もー!!泥だらけじゃない!!」
その後の会話は上手く聞き取れなかったけど、何度も泥にお互いを引きずり倒す2人の様子をしばし眺める。
大きな笑い声。
「レオンのあのような顔は初めて見たわ…」
ポツリと呟いた。
「アンバー様、私もです。サクラがあんな大きな声で笑っている姿、見たことがありません」
「母親が知らない顔があるものなのね…」
「はい…アンバー様。サクラの無礼な態度…お許しください…」
「ありのままで…子供らしくて良いわ。
やはり、レオンの隣にサクラを置いて良かったわ」
「親の知らない所で子供はちゃんと成長しているのですね」
無邪気な子供らしい毎日を送っているレオンの姿を見てスッと肩の力が抜けた気がした。
あの子の心はきちんと成長している。
サクラと共に。
次は晩餐会の後のヤマガミ家の母娘の様子を番外編として書きたいと思います。
そちらもよろしければお読みください。