17.
晩餐会場に着くと、そこにはロジャーさんや、サッシャーさん、グロヴァーさんなどお世話になっている講師陣の方々もいて、既に着席していた。
いつも見る姿とは違ってみんな着飾っている。
シャンデリアの明かりに照らされた会場は煌びやかに装飾され眩しい。
それにしてもこんなに長く面積のあるテーブルは初めて見た。
一体何人同じ食卓につけるのだろう?
「おお、今日の主役が仲良く入場してきましたな」
グロヴァーさんがこちらを見てニヤニヤしている。
もうお酒でも入っているのだろうか?
その隣でサファー様がグロヴァーさんを宥めていた。
流石にここではレオン殿下も悪態は付かない。
無言のまま私を席までエスコートしてくれた。
テーブルの上座には椅子が2つ並んでいる。
ここに国王陛下と王妃様が着席されるのだろう。
その…上座がやけに近い席だ。
むしろお隣…
私がこんな光栄な席に着席して良いのだろうか?
お向かいはレオン殿下のようだ。
ルカさんに椅子を引きレオン殿下が着席した。
なんとも居心地が悪い。
マナーは沢山学んできたけど、初めての実践がまさかこの国のトップとの晩餐になるとは…。三月前の私は考えてもいなかったな。
取り敢えず大人しく座っておこう。
するとドアが開き、国王陛下にエスコートされた王妃様が会場に入ってきた。
お二方並ぶと神々しく見える。
お二方とも今日は赤を基調とした装いだ。
国王陛下と王妃様が着席して晩餐会が始まった。
王妃様の言葉を纏めると、どうやら今日はレオン殿下と私が学友になった記念の晩餐会で、講師陣の労いの会でもあるそうだ。
王妃様も一ヶ月も前から私がちゃんと学友になると確信してくださっていたようだ。
端の方にお母さんもちゃっかり着席しているのが見えた。
どうやら大人同士で会話が弾んでいる。
前菜が運ばれて来た時、隣に着席した国王陛下が話かけてきてくれた。
「サクラ、久しぶりだね。もうすっかり完璧なレディだ」
「ローランド陛下、ご無沙汰しております。本日は晩餐にお招きいただきありがとうございます」
「アンバーから一騎打ちの話を聞いた時は大変驚いたが、レオンを倒すとは…流石タクミの娘だ」
ローランド陛下はレオン殿下と同じ金の髪を揺らしながら笑っていた。
陛下はサファー様と同じ青色の瞳で顔の作りも似ているのに全体的な雰囲気は不思議と勇ましさを感じる。
「えぇ、必ず学友になるという信念がありましたから」
「そうか、サクラのような学友がいれば安心だ」
「レオン殿下と切磋琢磨し学んで参ります。そして私の教育の環境を整えてくださり感謝しております」
「アンバーから聞いていたが…サクラは想像以上に優秀なお嬢さんだ」
「私が見込んだだけの事はあるでしょう?」
王妃様が会話に入ってきた。
「あぁ、将来が楽しみだ」
「将来は何か…国の政に関わる仕事に就きたいと思っています」
「まぁ!それならとっておきの仕事があるのだけど…ゆくゆく紹介して差し上げるわ」
「とっておきの?」
「まだ秘密よ」
王妃様は少しお酒も入っていつもより陽気だ。
「アンバー様、この髪飾り…ありがとうございます。とても嬉しいです」
「サクラ、とても良く似合っているわ。私の母国、ザーガは養蚕が盛んでね、私も幼い頃から裁縫が得意なの」
「そうなのですね。とても素敵で…私には勿体ないです」
「あら…レオン、良く似合っているわよね!!」
王妃様、レオン殿下に話を振らなくていいです。
「…あぁ似合っていますね」
王妃様を前に猫を被ってるな。
いつもなら馬子にも衣装とか言って来そうなのに。
「学友のサクラになんて態度ですか?
女性を気持ちよく褒めるのも紳士の嗜みですよ」
「…はい」
レオン殿下の弱点はどうやら王妃様のようだ。
微笑みながらレオン殿下を見つめた。
しかしレオン殿下はこちらを見ない。
「レオン、サクラのドレス姿も素敵よね?」
「はい…」
「レオン?どうしたの?照れているの?」
王妃様のプレッシャーがレオン殿下にかかっている。
王妃様もうやめてあげて。
私、笑ってしまいそうだから。
「君もドレスを着ていると淑女らしく見えますね」
「まぁ!君とはなんですか!学友のサクラよ。サクラと呼んでさしあげなさいな」
「母上…」
いつもよりレオン殿下が小さく見える気がする。
「サクラ、とても似合ってます…」
屈辱的なのだろうか、顔がいつもより赤い気がする。
「レオンも素直じゃないところがあるのねぇ、ごめんなさいね、サクラ」
「いいえ。
レオン殿下、ありがとうございます。
殿下の新しい一面が見れて私、大満足です」
満足の笑みでレオン殿下を見る。
何か言いたげな顔をしているが放っておこう。
「サクラが着ているそのドレス、実は私が幼少の頃に着ていた物なのよ。ヘーゼルにサクラのサイズを聞いて少しお直ししたものだけれど…丁度良さそうで安心したわ」
「アンバー様がお召しになったものなのですか!?」
「この数か月頑張ったサクラに身に付けている物をご褒美として差し上げるわ」
「…いただいてよろしいのですか?」
「えぇ、気に入ってくれたのならば」
「とても素敵で…私、大切にします。
ありがとうございます」
思いがけないプレゼントに胸がいっぱいだ。
「喜んでもらえて嬉しいわ」
そう言って王妃様は微笑んでいた。
その時、首飾りのエメラルドがキラリと光った。
「アンバー様のその首飾り…アンバー様の瞳の色と同じでとても綺麗ですね」
「ありがとう。これは…」
王妃様がローランド陛下の方をちらりと見た。
「陛下が結婚の申し出の時に私にくださったものなのよ。アローニ大戦から帰って来るまでこれを身に付けて待っていて欲しいって」
「それは素敵ですね」
「この国はプロポーズの時に首飾りを送る習わしだからね。アンバーの瞳の色のエメラルドと、アンバーの美しさをより引き立たせるダイヤモンドを散りばめたんだ。私の力作だよ」
「アンバー様にとてもよくお似合いですものね」
それを聞くとお二人は満足そうに微笑んでいた。
仲が大変よろしいようで。
そういえば…王族の方々と食事を共にしていて今気が付いたけど…思ったより緊張していない。
レオン殿下の顔を見慣れたからだろうか。
この数日で美しい人ばかり見ていると目が慣れるのか。
何はともあれ平常心のまま食事が出来て良かった。
王宮の晩餐はどれも絶品だったから。
ここで7歳編はお終いです。
次からは学友になって1年経った2人の様子を書いて行きます!!
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物語はまだまだ続くのでこれからもぜひ2人の様子を見守ってください。