対面の日(レオン視点)
今日はまた母上が選んできた学友とやらが派遣されてくる日だ。
面倒くさい事この上ない。
前は何処かの伯爵子息だったか…
その前は侯爵子息…
もう名前すら覚えるのも時間の無駄だ。
ただ、私に近付いて未来の側近にと親に送りこまれただけで、逆に子息側は被害者なのかもしれない。
私の顔色を伺ってビクビク怯えながら近くに居るくらいなら居ない方が良い。
授業のペースを乱されるのは嫌いだ。
私は生まれた時から将来が決まっている。
国王となり民を導いていかなくてはならないのだから1分、1秒と無駄にはしたくない。
父上の様に立派な国王にならなければいけないのだから。
だから今は学友とやらに時間を割いている場合ではないのだ。
今回も適当にあしらってすぐ辞退させよう。
しかも英雄の娘。
女子というのも非常に面倒くさい。
母上に似たこの顔はどうも異性からの受けがよく、未来の王太子妃を狙った者達が色目を使ってくる。
今はまだ婚約者なんて心底どうでもいい。
その時が来たら受け入れなければならないが、頭の弱い者が来ない事を願うばかりだ。
コンコン
離れの部屋に着いてもうそんなに時間が経っていただろうか。
どうやら英雄の娘が来たようだ。
「入れ」
「失礼いたします」
一礼して部屋の中へと入って来た。
黒の瞳と目が合った。
まだタクミ・ヤマガミが生きていた頃…
物心つくかつかないか…
そんな幼い頃に演習場での演習を見た記憶が朧気にある。
遠目からしか見たことがない彼も確かに黒だった。
こんなに間近に黒を見るのは初めてだ。
この黒い瞳に全て見透かされてしまうのではないか…
まるで吸い込まれてしまうような、不思議な感覚だった。
しまった、私としたことが…
黒い瞳に目を奪われている場合じゃない。
「私の名はレオン・ロイ・ノースアーロノアだ」
なんだか居心地が悪い。
もう瞳を直視したくない。
「お初にお目にかかります、私サクラ・ヤマガミと申します。今日からレオン殿下と共に授業を受けさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします」
そう言うと彼女は丁寧にお辞儀してみせた。
黒の瞳に怯んでいる場合じゃない。
早くこの面倒くさい状況を打破しなければ。
「母上には困ったものだ。ついには英雄の娘を寄越すとは…。君には悪いが、私は今の所何一つ不自由していない。君も適当な所で辞退してくれ。自分から言い出しにくいなら私から母上に伝える」
すると彼女はポカンと首を傾げたかと思うと強い意志でこちらを見つめ返して来た。
「お言葉ですがレオン殿下、私はなにがあろうと自分から辞退する事はありません。そのつもりでよろしくお願いいたします」
私に物を申すとは…
最早教養がないのか?
「母上に何を言われたかは分からないが、君が私と共に学んだ所ですぐについていけなくなるだろう。
はっきり言おう。足手纏いは要らないんだ。一人で学んだ方が効率が良い、それだけだ」
これだけ言えばどんなに頭が弱くても分かるだろう。
「私にも願ってもなかったチャンス(無料で王族と一緒の教育)なんでね、簡単に手放す訳にはいかないんですよ」
こんなにも私にたてつく奴は初めてだ。
驚きであろう事か言葉が出ない。
「もしかしてレオン殿下は自信がないのですか?女の私に負けるのが恐くて仕方がないとか?それならば辞退せねばなりませんね」
この私を挑発してるのか?
「そんなはずないだろう。君が惨めな思いをしなくて済むように助言したまでだ。いいだろう。何でそんなに自信があるのか分からないが面白い。
一月は共に授業を受けよう。一月後にテストをして私より1点でも得点が高ければ君の好きにするといい。まぁそんな事はあり得ないが。負けた場合は速やかに辞退するように」
怖じ気づけばいい。
だけど彼女の反応は違った。
満面の笑みで言い放った。
「まぁ!!レオン殿下はなんて慈悲深いんでしょう!!1点高いだけで良いのですね!!一月後が楽しみですわ」
今までは面白いほどになんでも簡単に習得出来ていたから油断していたのかもしれない。
こんなにも話の通じない奴の対処法が分からない。
こんな所で躓くとは思ってなかった。
自分でも信じられない程に馬鹿げた提案をしてしまった。
何故挑発に乗ってしまったんだろう。
愚かだった。
これと一月は共に学ばなければならないと思うと憂鬱だ。
うん、間違いなくこんな感情は初めてだ。
次は本編に戻ります!!