#4 企業訪問① -不親切-
前回までのあらすじ
何者かに背後からSHOOT!
天井のスピーカーからアナウンスが聞こえてくる。合成音声のため、声の主はおろか性別すら分からない。しかし注目すべきは声ではない。重要なのは、今から何を始めるのかということ。
デスゲームと聞こえた。しかも「新卒採用選考」という単語が添えられていた。訳が分からなかった。いきなり「新卒採用選考デスゲームを始める」と言われて「あい分かった」とすぐさま順応できるような人間はほとんどいないだろう。俺も当然その部類に含まれる。
しかし1つだけ確信を持って言えることがある。この状況は俺がエントリーした「ジェノサイド社」が関係しているということだ。
「それでは、まず社内説明会を行います。10分以内に部屋から出て中央会議室に集合してください」
再びアナウンス。状況把握をする十分な時間も与えられずに淡々と進んでいくようだ。しかし、部屋から出ろとの指示だが、辺りを見渡してもドアらしきものは見当たらない。前述した通り、ここは家具も窓もない殺風景な部屋だ。
立ち上がって部屋の中を探索する。壁だと思いきや、実は自動ドアになっているのかと思って触ってみる。しかしどれだけ触ってもそれは何の変哲もないただの冷たい壁だった。唯一のアイテムである天井のスピーカーも調べようと思ったが、手が届かない高さに備え付けられている。
手詰まりだった。ドアを探索しはじめて5分経ったが現時点で得られる情報はこれ以上ない。この部屋にドアなんてないんじゃないかとまで思い始めてきた。しかしドアがなければ、俺はこの部屋に辿り着くことなど出来ないということに気がついた。ドアは必ずどこかにあるのだ。
とはいえ気味の悪い部屋にずっといたせいか、だんだん気分が悪くなってきた。息苦しさすら感じ始めた。ゆえにドアを探す気にもなれず、俺は床に手を伏せた。
「・・・あれ?」
床に伏すやいなや、俺の視線があるものを捉えた。床の端のほうにある、鍵穴のようなものを。床が木目調になっていて今まで気付かなかったが、それはたしかに鍵穴の形をしていた。触ってみたところ、それは床の模様などではなく、くぼみのある歴とした鍵穴であった。
穴の形状はディンプルシリンダー。戸建てマンションなどでよく用いられる型式だ。恐らくこの鍵穴を開ければよいのだろう。鍵らしきものは見つからないが、とにかく1つ目のヒントを手に入れた。ようやく1つ目だ。まったく、手間をかけさせてくれる。俺は壁に背をつけて座り込んだ。相変わらず息苦しいからだ。
一休みといった感じで顎をあげた。なんで俺はこんなことをしているんだろうなぁ、とため息をつく。たまに頬をつねってみるが、つねる度に痛みを伴う。今のところ継続した現実が繰り広げられているようだ。
中央会議室に集合しろと指示してきて以降、アナウンスは1度もない。まったくもって不親切だ。ノーヒントで部屋から出ろと言われている状況だ。まるで本当にデスゲームみたいじゃないか。
ここで俺に悪寒が走った。もし今から本当にデスゲームをしようとしているのなら、今の時点でもう既にゲームは始まっているのではないかと。たしかアナウンスは、「10分以内に部屋から出ろ」と言っていた気もする。もし10分以内に出られなかったら、俺は殺されるんじゃないのか・・・そんな嫌な予感が頭をよぎる。
そして俺はスピーカーに対して違和感をおぼえた。スピーカーのサイズが大きくなっているような気がしたのだ。先ほどまでは20cmくらいに見えたのだが、今は50cmくらいに見えるようになった。だが、スピーカーが人間のように成長するわけがない。ただの見間違いだろうと思った。
しかし、気付いてしまった。先ほどまで手の届かない高さにあったスピーカーが、今ならもう少し頑張れば手が届くくらいの高さにあったのだ。
俺は驚愕した。スピーカーが大きくなったんじゃない・・・スピーカーの備え付けられた天井が、少しずつ床に近づいてきているんだ―――
就活あるある
3月後半、スケジュール帳が黒く染まる