#2 エントリー
前回までのあらすじ
就活よりオンラインゲーム
数日後、俺のレベルはカンストを迎えた。無論、オンラインゲームの世界での話だが。これでもう「え、レベルカンストしてないユーザーとかまだおりゅ?」などといった掲示板での煽りにも臆する必要がなくなった。
俺は優越感に入り浸った。プリンを一度に2つ食べたり、柔軟剤でアルトリコーダーを洗浄してみたり、とにかくテンションの高い日々を過ごした。たまに頭によぎる「就活」という現実に、背を向けながら。
3月も中旬を迎えてもなお、依然変わりなく働きたくない思いでいっぱいだった。できればずっとオンラインゲームの世界に入り浸り、その世界で英雄になりたかった。
カンストした今、次なる目標は「クエストの全制覇」だ。だから、これからは最強の武器と最強の防具を作り、もっともっと腕を上げなければならない。
偉大なる目標を前に、就活などする気には微塵もなれなかった。今はそれどころではないのだ。
でも、たまに背徳感を覚えることがある。就活しなきゃいけないのに、オンラインゲームばかりしていていいのか?と、もう1人の自分が囁いてくるのだ。
だから俺は、そんな背徳感を無くすために、ちらほらと「就活応援サイト」というものを閲覧するようになった。1日30分、就活の進め方や企業の情報を眺めては、オンラインゲームで高みを目指すにあたっての妨げとなる要因を消し去っているのだ。
俺にとって就活サイトは、取るに足りない文字列の羅列にすぎなかった。こんなものを眺めるくらいなら、オンラインゲームの攻略サイトを眺めていたほうが幾分かマシだろうという思いですらいた。
就活生の対義語を作るとしたら、間違いなく「葵千春」になるだろうなと、勝手な妄想を蔓延らせる。
そんなある日、俺は妙な求人を見つけた。取るに足らない文字列の羅列の中に隠れていた、はっきりと脳裏に焼き付けられるほどのインパクトのある求人だった。企業の名は「ジェノサイド社」。なんて殺伐とした名前だろうと、内心ワクワクした思いで詳細に目を通す。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
企業名
「ジェノサイド社」
募集職種
「イベント運営」
仕事内容
「デスゲーム運営・管理」
開催されるデスゲームの運営をしてもらいます!参加者の管理も一任です!初心者の方も大歓迎!
募集対象
「新卒・文理問わず」
募集人数
「1人」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
インパクトがあるのは企業名だけではなかった。もっと言えば、企業名のインパクトを凌駕するほどの衝撃を受けた。そう、見て分かる通り「仕事内容」だ。
「デスゲーム運営・管理」・・・見間違いかと思ったが、何度見ても結果は変わらない。仕事内容の欄にはたしかにデスゲームの運営と管理を行う旨の記載がされていた。
なんてふざけた求人を出すのだろう。手の込んだイタズラだ、とまで思ったくらいだ。この求人広告が本当の求人なのか、それとも誤った求人なのかは分からない。でも、少なくとも俺はこの求人に心を奪われてしまったのだ。
そして俺は、その場の勢いでエントリーをした。深い意味なんてない。面白半分といったらそれまでだが、とにかく何も考えずにエントリーを完了させてしまった。
俺は後悔する。なんであの時、もっと考えて行動することができなかったのだろうかと。
俺は後悔する。なぜ公告に書かれた最後の文章を、真に受けることができなかったのだろうかと―――
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
※遊び半分でのエントリーはご遠慮ください
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
就活あるある
エントリーシート、手汗でふやけがち