表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/16

義務と責任と罪と罰


 あなたはいないのに、あなたが残したあなたの部屋を、こうして荒らしてしまっていて、それが悪いことだとは私も思うのよ。

 だって豊かな暮らしを続けてきた、貴族の私だから。

 餓死者が多数出る中、私は食事に困るどころか、書物を読み解いたりおしゃれを楽しんだり、そんな娯楽の余裕まであった。

 そのくせに、だれも救おうとはしなかった。


 えぇ、ほとんどの貴族がそうだ。

 だから戦争を始めるだなんて惨いことができたんだ。自分たちは何もなくなった世界で、全てを手にするだけの役だから、傷付くこともないからって。

 正義のヒーローみたいな顔をして、世界を征服するんだ。



 もういないあなたに、失礼なことを私はしてしまっている。

 そんなことは、わかっているに決まっている。わかっている上で、私はこんなことをしているのだ。

 自分の寂しさを紛らわすために、最後まで何も失わなくて済むと思っていた私の、不意に開いてしまった心の穴を埋めるためには、必要なことだって言いたいよ。

 寂しくてしょうがないんだ。


 覚悟なんてしていなかった。心の準備なんてしていなかった。

 だって私は、平和の中で権力に酔って、腐っていった貴族だから。


「あぁあああ。ああ、あぁあぁ、ぁあ」

 漏れる嗚咽は、だれにも聞かれてはいけない。

 私は哀しくない。辛くない。人が来たら、笑って見せなければならないのだ。

 生きなければならないから、生きるために、笑わなければいけないのだ。

 生きるために、私には馬鹿である必要があるのだ。


 私みたいな馬鹿なら、放っておいても大丈夫だろうと、そう思ってもらわなければ、殺されはしないにしても今のままで過ごすことになる。

 私だけ、戦時中を貫くことになってしまう。

 そんなのはごめんだ。あんまりだ。許せない。

 だから私は、だから私は、恨み言だって言ってはいけない。

 復讐が新たな争いを生み権力を揺るがす、だから……っ!


 それじゃあ、いない人の部屋を勝手に荒らしている私はなんなの?

 笑えるわ。笑うしかないじゃない。

 この行動が何の意味を持たないことくらい、苦しいほど、私だってわかっているんだから。

 本当はわかっているんだから!



 何も始まってしまう前、わかっていながら見えないふりをして、私は目を逸らしていた。

 その罪が、今になって罰を下したのかもしれない。

 そうでもなくちゃ納得できなかった。

 全部わからないふりをしていたから、わからなくされてしまったんだ。わからないようにいるように、そうされてしまったんだ。

 私に返って来てしまったんだ、そう思うしかなかった。


 ねえ、どうしてあなたのところへ行ってはいけないの?

 生きたくても生きられなかった人たちの想いを抱えて、生き残れた人たちは責任を持って生きなければならないのだとはわかる。

 だけど私は死んだ。私は死んだはずだった。

 あなたの隣が私の場所だから、もしあなたが罪人であれば、私だってそうであるはずだった。


 それなのに、どうして私だけが一人で生きなければならないの?

 今は「あなたが残してくれた何かを探すため」そして「あなたが残してくれた何かを守るため」そう自分に言い聞かせて耐えるの。

 いつかあなたが迎えに来てくれるときまで、私は笑っていよう。

 それしかないのよね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ