報われない罪人
あなたはいなくなってしまった。
全ての責任を負って、いなくなってしまった。
人間に勝利を齎した、つまり大量虐殺を行った兵器は、他でもないあなたの素晴らしい発明であった。あなたの功績であった。
学生の頃からエリートだったのだから、よくやってくれたというところだろう。
けれどあなたはいなくなってしまった。
戦争という思い罪を背負って、あなたは消されてしまった。
その理不尽さを、あなたは責めようとも、否定しようともしなかった。
私にただ一言くれた、
「ごめんね」
残された私に何を期待しているの……?
去ってしまったあなたが残してくれたものなんて、どこにもありやしなかった。
何かあってくれたら、そう思ったんだけど、何も見つからなかった。
ただあなたは私に謝って、去ってしまったのだ。
いなくなってしまったあなたの部屋を、勝手に荒らすのは気が引けたけれど、何か見つけられたらと思っていた。
去ってしまったあなたが残してくれたのは何?
残してくれたもの、見つけられないの。
どうして何も残してはくれなかったの?
何一つもない、それが悔しくて、哀しくて……
あなたは凛としていた。
凛として、死んでいった。
戦争の先で、戦争では死ななかったのに、最後の最後であなたは殺された。
けれどあなたは堂々としていた。
探した。探した。探した。探した。何かあれと探した。
あなたの忘れ物があってくれたらと、抜け殻になってしまったあなたの部屋を、狂ったように探し回った。
前向きになりたかったけれど、あなたの何かがほしくて、それまでは進めないように思えて、私は必死になって探したの。
それに、どうして戦争を忘れられるって言うの?
大切な人を失って、ましてや家から出られなくなって。気付いていないふりをして、私は救われたように笑って見せるけれど、私に自由はない。
どこにも自由なんてない。
家に閉じ込められたまま、夫の犠牲で救われた雰囲気で、ただ私はここに置かれていた。
皮肉りながら、人の前では笑顔でいるの。
ねえ、本当に戦争が終わるときはいつなの。
私が若かった頃の平和は、どこに行ってしまったの?
何年あったら帰ってくるのかしら。私が生きているうちに、あそこへ帰れるのだろうか。
あなたはどこにもいないけれど、平和はどこかにはあるかもしれない。
いつになったら、帰ってきてくれるのかな。
時代は変わるもの。変わる、変わるもの。
変わっていくから、それに合わせて私も変わっていきたいと思う。
だから時代が変わる前に、古い時代を生きていた私は、これまでのことを拾っておかなければならないと思うの。
あなたが残してくれたものを見つけ出して、もう立ち直って、家から自由に出られるようになったときには、明るい私に戻りたいんだ。
何か、何かあったらいいのだけれど。
このまま一人でいるのは、あまりに辛いから。




