ここまでのあの日
その日は、突然やって来た。
どんな日だって、突然だったものだから、特別は驚かなかった。
いつもは賑やかな外が、物音一つもさせないものだから、だれも歩いていないものだから、何があったのかと比較的冷静に疑問を持った。
静かにしなければいけないような、圧力を感じるほどの「静」であったから、騒ぐ気にもなれなかっただけかもしれない。
暫くして、その理由がわかった。
「どうやら避難指示が出たようだよ。なんでも、妖たちが、近くの人間の国を襲ったようで」
どうして妖が?
仕返しなら納得だったのだけれど、今回の件に関して関係のないはずの勢力の登場に、私は疑問を増やした。避難指示というのも、また不思議なことだった。
しかしあなたはいつもと何も変わらない。
何もわかっていないのかと思っていたけれど、何もかもわかっているようにも見える。
何にしても、私たちの国は場所からして妖たちの領域から離れているし、とても一日で襲われるような場所じゃない。
狙い撃ちで、大戦争のときの話のように、呪いでもかけられなければまだ安全であるに決まっている。
逃げるには気が早い。そんなことをしては、そんな不自然な行動を起こしては、狙ってくれと言っているようなものではないか。
それに、突然の避難にしては、やはり静かすぎやしないだろうか。
唖然とする私に、届いたあなたの声はあまりに切ない。
「壊すためじゃなくて、守るために作ったつもりだったんだけどね」
にっこりと笑うから、それが罪の色には見えなくて、更に私は切なくなった。
「信じた僕は罪人かな。変わる時代のために、古い時代の存在が不要となるのなら、大きな話として、時代を変える素材となれるなら、それはそれで構わない。だけど、ちょっとだけ……それは嫌だな」
「きっとあなたは罪人よ。そして私は、きっと無罪。そうなることになっているからね」
涙を堪えて返した私に、静かにあなたは頷いた。
始まるはずのなかった、始めるべきじゃなかった、始めてはいけなかったはずの戦争が始まった。
私の夫は科学者であった。私はその助手だった。
襲われた人を救うためという理由があって、私たちはより妖たちを殺すような兵器を作るため、日々尽くした。
どうせ状況は悪化していくばかりなら、せめて勝利を得たかった。
どれだけ犠牲を出すことになろうとも、せめて勝利を得たかった。
そうしたなら、この虚しさが埋まるような気がした。
全てを傷付けて、傷だらけにしてしまえば、傷は目立たなくなる。
そんな極論は通りやしなかった。




