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不穏な風


「作れそう?」

「成功すると思う。今回は自信があるんだ」

 最近、研究室にこもりきりのあなた。何を作っているのか、私は知らない。

 いいえ、本当は知っているの。

 だけどこれまでと変わっていない、変化なんて知らない、知らんぷりであなたを支えるの。


 もしかしたら、あなたは本当に知らないで作っているのかもしれない。

 優しいあなたは傷付け合うことに賛成はできないし、そのための研究なんてあなたのプライドが許さないでしょう。私は、あなたのことをそういう人だと信じている。

 それに社会情勢になんかあなたは興味を示さないから、知らなかったとしてもなんら不自然はない。

 口では綺麗事を並べて、こんなに卑怯で汚いのは私だけだ。


 あなたの作る薬が、人を殺す毒になる。

 その悔しさをあなたは知らないのでしょう。私だけが知っているのでしょう。

 もしかしたら、戦争だなんてことも、私が考えすぎなだけなのかもしれない。外を見れば平和で長閑な一日がただ流れているのだから、これが壊れるだなんて思えようもなかった。

 このまま平和は続くのよね。

 このまま平和は続くのよね。続いたら、いいのに。


 学生時代の友人は、みんな貴族らしく政治の世界に入っていた。

 なぜだか惹かれてしまって、あなたのことが好きで堪らなくなってしまって、けれどそれ以外は私も普通に常識どおり暮らしていたのだから、友人はみんな一族間での関わりが深い人たちばかりだ。

 結婚して、私は馬鹿になったのではないのだと知ってくれているから、仕事外で議論をするときには私を招いてくれるようなことがある。

 なのだから、それは犯罪とすら呼べるまでに、私は深いところまで知っていた。

 そんな私だからこそ気付けた変化であり、他の人にはまだまだあと数年は気付かれないのだというようにも思えるし、敏感になっているだけだというようにも思える。

 そうなのだから、動けなくて困るのだ。


 確実に何かが変わっているのに、証拠となるものが掴めないから、不用意には動けなかった。

「成功するといいね」

 この実験が成功したとして、世界に何が齎されるかもわからないで、無邪気なふりをして私はあなたに笑い掛けた。

 私の笑顔の不自然さを、きっとあなたは疑わない。

 そうしてやはりあなたも笑うのだ。

「そうだね。僕の薬がより多くの人を救ってくれると嬉しいな。早く完成させて、早く街に届けたい」

 不自然さがなくて、それが私には羨ましいよ。嫌味ではなくて、本当に。


 あなたは私の思ったとおりの人だった。

 予想外のことを言ってくれるところまで含めて、ね。

「薬で病から人を救えるのもいいけれど、健康な人の生活を楽に支えるっていうのも捨てがたいから、僕は科学者を選んだ。だけどやっぱり、薬を作ると医学者に憧れちゃうな。最近は爆薬ばかり研究していたような気がするからね」

 医学に限定せずに、医学も含めた学者としては幅広い方である科学というものを選択したことには、またあなたの優しさが詰まっていたとのことらしい。

 この初耳の気持ちについてもだが、その先のことが私としては驚きでならない。


 だれが、なんのために、どうしてあなたが。

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