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私の選んだ道


 戦前はもっと多かったようだけれど、今は百四十の国に分かれて人間の世界は纏められている。

 それぞれの国に国王がおり、統治の仕方については国によって全く違っていた。


 私の国では、国王、貴族、学者、市民、大きく分けるとその四種の人がいた。

 人口は多い方ではないし、領地も広い方ではないけれど、学者の制度が他の国にはないらしく、力を入れているのだからその分だけ技術力では他国に勝っている。

 多くの国民にとっては誇り、私にとっては恥じであることに、我が国は軍事力においては圧倒的にトップであった。


 国王と貴族と市民とは、どれも基本的に世襲だ。

 国王は間違えなく前国王の長子が継ぐことになっており、国王に実子がなく養子であった場合にもそれは適用される。

 貴族は国や世界の情勢、歴史、地理を教え込まれて、ほとんどが政治家になる。男女ともそうだ。

 市民は自由に職業を選ぶことができるが、強い権力を握ることができなかった。


 優秀な学者を生み出すために、教育制度は充実していた。

 様々な最新技術を独占しているのだから、国が貧しい方ではないので、無償で全ての国民に教育を与えた。成績優秀者は、身分に関係なく希望すれば学者となることができた。

 身分の上下がなくなる、下手したら貴族からの尊敬を集めることすらあるので、優秀な市民は必死に学者になることを目指した。



 自慢ではないけれど、私の夫は学者である。

 学者にもいろいろあるけれど、中でも夫は科学者であった。

 今の時点では医学と文学が世間的に求められるものとなっているけれど、悔しいことに、これからは夫のような科学者の方が求められるようになるのだろう。

 文学なんか、だれにも必要とされなくなるのだろう。


 私は貴族の生まれである。

 政治の世界に入るのが貴族の基本ではあったものの、私はそれを拒否し、夫の助手になるという道を選んだ。

 夫が群を抜いた成績優秀者であったから、名の知れた学者たちの学生時代を超える天才的成績優秀者であったから、学生時代から注目されるような人であったから、どうにか親に認めてもらえたというような、本来ならば考えられない選択だ。

 貴族の教育は政治に寄っていて、科学なんかは教わっていないに等しいくらいだから尚更だ。


 もっとも、今でこそ戦争の影が見え始めているが、私が学生だった頃はそんな発想はだれも持っていなかったはずだから、考えが随分と甘かったのもあるだろうが。

 戦争を批判する教育が少しずつ減っていることに、今だって気付いていない人は数多くいることだろう。

 私にように時間の面でも財力の面でも生活に余裕があり、学び続ける意思のある人でしか、わかることではない。


 そうして少しずつすり替えていくんだろう。

 忘れていくんだ。忘れさせていくんだ。

 正だったものと、悪だったものを、わからなくさせていくんだ。

 きっと私もすぐに呑み込まれていくんだ……



 私は政治家になることを選ばなかったから。

 政治の世界で、国を左右することを望まなかったから。


 たとえ私がどう選択していたところで、変えられたものかはわからない。

 今でこそ飾りと果ててしまっているが、もし私が国王の長子として生まれていて、その座を継ぐことができていたとしたらば、まだ希望もあったかもしれない。

 貴族たちに任せて放棄さえしなければ、国王の権力は確かなのだから。


 もしもだとか、たとえだとか、考えるだけ虚しいことだとしても、思わないではいられない。

 だって今なら止められるかもしれないのに、早い段階で気付けたのに、立場上私ができるのは、私の望みとは反対のことなのだもの。

 だって私は、科学者の助手だから……っ!


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