変わり始める世界
どうして戦争なんかするのか、私にはわからない。
傷付く人が大勢いることが、わからないはずがないだろうに、それを進んでする人がいるということが、私には理解が出来ないの。
だって、だってそうじゃない……。
争いが何も生まないことは、もうみんな、気が付いていたはずだった。
二百五十年も前の話、歴史の授業で習う話、みんなみんな戦争で死んで傷付いて苦しんで、もうだれも傷付け合わないようにと誓った。
もう、この世界から戦争はなくなるのだと思っていた。
私は人間だ。
そして、戦争を巻き起こすのは、いつだって人間だった。
学校で勉強をしていたのなんて、私からしてみれば十二年も昔のことなのだから、私は人間がいかに罪深いことをしたか知っていた。
けれど今の子どもたちは、歴史の授業でそれを習っていないのだと聞いた。もうだれも傷付け合わないようにとの誓いさえ、その存在を教えられていない子どもたちもい始めているのだと聞いた。
それは戦争の準備に違いなかった。
敵は大体が妖たちだった。外見が醜いからだ。
妖たちとばかり戦っていたが、人間は、人間同士で争うことすらあった。それくらい醜い。
人間に従順な動物たちとの争いはほとんどなかった。
この世界には、私たちのような人間と、個々では人間よりも圧倒的な力を持つも数の少ない妖と、何にも干渉をしない精霊と、人間に使役されるばかりの動物とが存在している。
なくならない争い、傷付け合い、私が苦しいのは、傷付けられる立場に私がないからであった。
もし私が傷付けられるような立場にあったら、きっと私にはこんな綺麗事は言えないのかもしれない。
切羽詰まった状況に置かれていたら言えないことなのかもしれない。
戦争をなくそうという考えは、いけないことなのだろうか。
傷付け合わないように、その誓いは、傷付け合った日々を知らない人なら簡単になくせてしまうものなのだろうか。
私だって、何百年も生きているはずはないのだから、その日々を実際に知っているわけじゃあない。
そしてこれから戦争が始まったとしても、知る予定のない人間だ。
歴史の授業で習った話では、大戦争の前には、この世界に人間は五千万人もいたのだという。
繰り返される妖たちとの戦争で、急激に増えては減ってをしていたけれど、その頃は平和が続いていたので、それほどの数にまで至っていたのだろう。
けれど八割以上が死んだ。
妖たちの抵抗が、強い呪いが、いくつもの国を滅ぼした。
今、世界の人間は三千万人を超えたらしい。去年に聞いた比較的新しい情報だから、大きな変化はしていないだろう。
人間だけではなくて、もちろん戦争の中で妖も死んでいったことだろう。
こちらは正確な数が人間側にはわかっていないが、一万近くにまで増えた妖が、百やら二百やらにまで数を減らしたとの話だ。
動物はほとんどいなくなった。
何種も絶滅していった。人間に、妖に、意味もわからないまま殺されていった。
戦争の反省が生かされて、幼い頃から戦争を憎むよう教育をされている世代の私だから、このように思うだけなのかもしれない。
それだって、どうしたって、戦争を肯定する考え方は生まれようがなかった。
そんな惨劇を、悲劇を、繰り返していいはずがなかった。