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異世界ファンタジーな世界

「どうやって、ここから出よう」


 さて、どうしたものか。


 いや、まじで。


 解決策を見つける心づもりと覚悟をして乗り込んだ。が、そこにあったのはこのアストレアという少女が入った、クリスタル。


 何か託すとか言われてたけど、よく分からないまま、彼女がクリスタルから解放されて。



 で、今に至るわけだけど、俺にどうしろと。


 またあてもなく彷徨えと言うのか。


 流石に、こんな場所に女の子を残していくのは気が引ける。そう考えると、一緒に行動することにはなるだろうけど、彼女も状況がよく分かってないみたいだし……。


 またあそこを歩き回ると考えると億劫だな。

 落とし穴に落ちてしまった部分もあるから、戻れない場所もあるし……。



「ここから出たいの?」


 これからのことを考えて、憂鬱になっていた俺に不意に声がかけられた。


「ああ、出たい」


「出る方法なら分かるよ」


「まじ?」


 状況分かってないって言ったじゃん。


「うん、任せて」


 勢いよく彼女は立ち上がる。何も隠すことなく、堂々とした立ち振る舞いで。それはまるで、男らしいと言えるような程で。

 


「ちょ、ちょっと待ってくれ。と、とりあえずこれでも着て、少しは隠してくれ」


 あまりの気恥ずかしさに、俺は上に来ていた服を脱ぎすて、それを手渡した。


 それ以外に服は勿論、他に代わりになるようなものすらなかったのだから、俺の着ていた物で勘弁してくれ。

 

「なんでか分からないけど、とりあえず、ありがと?」


 何なの、裸が普通なの?

 実は異世界ってそういう世界観なの?


 いや、そんなことはないはず。ない……よな……?


 なんだか、異世界生活が一気に不安になってきた。


「コホンっ。とりあえず、ここから出る方法を教えてくれ」


「うん、いいよー。えーっと、『隠されし幻視の道よ、遠く過去に結ばれた原始の扉よ、今ここに開きて、我らを導きたまえ』」


 その言葉に呼応するかのように、何もなかった空間に一つの亀裂が走る。

 ガラスが割れて、砕け散るかのように、今まで見えていた光景が崩れ去り、一つの扉が現れる。


 そこにあるのは扉だけで横から見ても、前から見ても、後ろから見ても、ただ一つのハリボテの扉があるようにしか見えない。


「これが?」


 正直信じられない。

 何もない場所に突然扉が現れるなんて言う不可解な現象にしてもそうだし、これがそのここから出る方法につながると言うことも。

 

 ハリボテの扉を見せられて、これが出る方法だと言われて、はいそうですかと言えるほど俺は思考放棄はしてないぞ。


 さすがに、まさか……な。

 魔法ってそんなことまで出来ちゃうわけだったりはしない……よな?


「そうだよ。開いてみなよ」

「あ、ああ……」


 半信半疑な気持ちなまま、俺は扉を恐る恐る開いた。



「うっそだろ、おい」



 扉を開けたその先には草原が広がっていた。


 ちょうど収穫間近と思われる麦がその実をたわわに実らせて、少し垂らしている草が風にたなびいて揺れる。


 腰の高さくらいありそうなその背丈の草原の先には、夕焼けに影を伸ばす一つの城の姿があった。


 湖畔に立つ純白の城。


 そして、そのはるか上を悠々と飛び去っていく、紅色のトカゲ。遠目からも分かる、巨大なその翼は空の覇者の風格を持っている、


 そう、ドラゴンの姿に、俺は自覚を新たにする。



 ここは、異世界だ。

 まぎれもなく、地球ではない、どこか遠い世界だ。


「あはは、あははははは」


 笑うしかないだろ、こんな光景。

 ドラゴンとかいう伝説上でしかいないような架空の生き物が普通に空を飛んでいて、魔法という理解の及ばない不思議現象を引き起こす技術さえある世界。


 でも、いっそ清々しい。

 

 誰も前の俺のことを知らない世界。

 そこで、本当にやり直しが出来るのだ。転生と言う形で新しい生を受けることが出来たのだから。


「ほら、ユウキ。きちんと出られたでしょ」


「ああ、すごいよ」


 本当にすごい。

 間近で見ていたが、あれが魔法なのか。厨二臭さを感じさせる少し恥ずかしい詠唱を経て、呼び起すことが出来る超常現象。


 魔法の原理がどうなっているのかは気になるところだけど、それについては追々調べていくことにしよう。

 

 けど、あんな詠唱が必要なのか。ゲームでは定番だけど、実際に自分がやると考えると何だか気恥ずかしいものがある。


 まぁ、それがこの世界では普通だというのなら、やだーあの人変なこと言ってるーという奇異の視線で見られることはないのだろう。


 なら、あとは自分の気持ちの持ちようだ。


 諦めよう。

 


「とりあえず、あの城のところまで行ってみるか。あそこに人がいると助かる」


「うん、わかった、レッツゴー」


 どこがそこまで楽しいのか、まるで腕白な幼子が少し遊びに行くかのような軽やかな足取りでアストレアは歩き始める。


 この子はどういう子なのだろうか。

 クリスタルの中に取り込まれて、まるで大切に保管するかのようにあんな仰々しい扉の中に一人ぽつんといて。


「アストレアは何であそこにいたんだ?」

「私はなんであそこにいたんだろう?」


 うーん、うーんと何度も唸りながら、考えてくれているようだが、どうやら思い出せないらしい。


「記憶……ないのか?」


「天族で名前はアストレアと言うことだけしか覚えてない」


 さらっと出てきたキーワード。あっさりと聞き流していいワードじゃない言葉じゃないぞ、おい。


 天族?

 あれだろ、多分。


「天族ってあれか? 天使とか女神とかそういう背中に翼が生えたやつ」


「天使? 女神? そういうのはよく分からないけど、天族は天族……だよっ。翼も出そうと思えば……、んっしょっと」


 にょきにょきと上着を押しのけるようにしてアストレアの背中に現れた翼。それは天使だとか女神と言って想像していたような、どこか神々しさを感じさせるような、美しい純白の翼だった。


 だが、その数秒後には俺はそれどころではなくなる。


 翼が生えたことで、元々羽織っていただけだった上着がばさりと地面に落ち、アストレアのあられもない姿が露わとなったからだ。


「だーもう、だから、もうちょっと気にしてくれよ」


 そう言いながら、地面に落ちた上着をアストレアに渡しながら、反対の手で俺は目元を隠す。健康的に成長した美しい女性の裸体を転生後にして人生初めて見ることとなっている俺は何とも言えない気持ちになる。


 いや、健全な男子高校生としては嬉しい限りだけれども。

 だけれども、これは違うでしょう。人並みには思うことは思うけれども、それとこれとは別。


「しまっていいの?」

「しまっていい、しまっていいから」


 今の姿に何とも思ってないのか。

 今どきの若いもんは……と自分自身若いことも忘れて、俺は思う。日本ではありえない光景だ、全く。


 けど、綺麗……だったな。

 女の子ってあんなに美しいんだ……。


 そんなことを思っているうちに、あたかも自然な様子で翼がすぐに消えた。体のどこかに仕舞い込まれたとかそういうのじゃないあたり何ともファンタジー感がすごい。


 今の今まで存在していた翼が嘘みたいだ。


「これから行く、人のいるところでは絶対に、絶対に翼を出すなよ」

「うん? うん、ユウキがそう言うなら?」


 この世界の貞操観念とか感覚がどうなっているのかは知らないが、俺がこれからもそんな調子だと困る。この子はどうやら記憶がないみたいだし、常識とかそういうのが欠如しているだけだ……、だけだよな?


「それと、無闇に肌を晒さないこと。これは一般常識」

「うん、分かった」


 美少女にこれでもかってぐらいの満面の笑みを向けられてはもう何も言えない。


 何と言うか常識がない―――いや、まだこの世界の他の普通の人間に会っていないから何とも言えないが―――はずだと分かっていても、もうこれ以上は言うのをやめようと思ってしまう。


「さて、天族って言うと、どういうものなんだ?」


「ん? わかんない」


「記憶喪失か。自分が天族っていう存在だと言うこと、それとアストレアって言う名前以外に何か覚えていることは?」


「ない!」


「いや、そんな自信満々に言われても……」


 仕方ない。

 この際、迷子が一人から二人に増えても一緒だ。聊か、いや、かなり不安だけど、とりあえずあの城を目指して進んでみるか。


 人がいることを願いながら。



「はぁ……」

 

 運に極振りした異世界生活。天族金髪美少女に出会ってお近づきになって、行動を共にするなんて、そりゃ前世では考えられなかったことだけどさ。

 そりゃあ、俺も男だ。美人とはお近づきになりたいものだ。


 けど、けどさ、何度も思ってしまうよ、前途多難だよな、これ。


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