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夕刻に出会った殺戮者

 夕刻。

 かれこれ三時間ほど狩を続けてみたが、成果は上々といったところだ。


 正式な数は数えていない。

 ―――我は覚えておるぞ。スライム六匹、コボルト十三匹、ゴブリン十匹、インプ六匹じゃな。


 中でもスライムは厄介だった。

 どろどろとしているおかげで剣での技が通らない。


 斬りつけても、ぬぷっとスライムの体内に入り込むだけで、碌にダメージが入ることがなかったのである。


 ならばと炎の魔法を剣に宿して―――魔法自体はアプサラスの加護の影響か自然と出てきた―――それで斬りつけてみればあら不思議。


 身悶えるように苦しんでいるのが顔がなくてもはっきりと見えたので、がんがん斬りつけていったら自然と倒せてしまった。


「主よ、天性の我が身に宿りし今宵の力を指示さん。チェック・ザ・ステータス」



・基本設定

名前:ユウキ・キリシマ

種族:ハイエルフ

職業:魔法剣士

年齢:16


・ステータス

レベル:15

体力(HP):120

魔素量(MP):314

筋力(STR):137

耐久力(VIT):121

器用さ(DEX):87

素早さ(AGI):88

魔力(INT):337

魔法防御(MGR):144

運(LUCK):1000

スキル(ステータス)ポイント(SP):28


[スキル]

・アプサラスの魔法

不知火・鉄心・八雲・音羽・神風 他

・子鬼の悪戯

子鬼が冒険者に仕掛けるちょっとした、けれど若干鬱陶しいトラップ製作の技術を習得する。落とし穴、匂い玉 他。

・猟犬の索敵

五感を鋭く尖らせて、周りの気配を正確に把握することが出来るようになる。

・荒くれ者の刃

ナイフ、鞭、フランベルジュ、ブロードアックス等冒険者が使うような様々な武器を扱えるようになる。

・軟体化

体を無脊椎動物のように自由自在に変形させる軟体へと変化させることができる。効果は一部、全身等自由に決めることが出来るが、変化させる量に応じて魔力を消費する。

・呪術の素養Slv.1

魔法の深淵に至る呪術その素養が開花した。悪魔との契約、疫病の発生、じわじわと体をむしばむ毒等業の深い魔法、それが呪術である。


[称号]

・転生者

初期設定値にボーナスが生じる

・神運の持ち主

神に祝福された運の持ち主。

・アプサラスの契約者

アプサラスの試練の間を超えし者。アプサラスの加護を受ける。各種ステータスにボーナスを得る。さらに、固有スキル“アプサラスの魔法”を習得する。



 さらっと呪術の素養というやばそうなスキルを習得しているが、それはインプを倒した際に習得したそれである。


 アプサラス曰く、インプが魔物の中でも悪魔に近しい存在だかららしい。

 それこそもっと上位の悪魔を狩ることが出来ればきちんと素養なんてものではなく、もっと強い呪術を習得できるのでは?などと言っていた。


 だが、いかにも危なそうなスキルにわざわざ関わろうとも思えない。


 何か代償が付きそうで怖い。


 ステータスについても、魔物を倒したことにより向上したステータスとそもそもレベルアップしたおかげで向上したものもあってか、だいぶと高めることが出来た。


 ちなみに、魔物は初見だけ向上値が高いということもなく、同じ魔物を倒せば同じだけステータスは向上するようだ。


 レベルアップしても、運が向上しないのは上限に引っかかっているからだ、そう思いたい。


「さて、もうぼちぼち引き上げよう。今から引き揚げれば日が落ちるまでには帰り着くことが出来るだろうし」


「そうね、今回はこれぐらいで引き揚げましょう。グロウリング、その指輪のおかげかレベルアップすることも出来たし」


「んー、分かったー。帰ろー」

 

 この二人、中々強い。

 サラは俺を朝いともたやすく組み伏せたその剣戟で魔物たちを圧倒し、アストレアはユリウスの弓を使いこなし、遠距離からの正確射撃や魔法による援護で戦闘を安定した物へと変える。

 

 なんだか、俺のレベル上げに二人を付き合わせているという感じがすごい。


 連携を見たいと思っていたが、相手のレベルが低すぎて連携すら必要ないという感じだったので、そこらへんはBクラス以上の魔物と戦った時にやってみるしかないだろう。


「だ、だれか、助けておくれーーー」


 叫び声が聞こえた。

 切羽詰まった状態であるのを確信させるその声に、俺は横に並んで歩いていた二人に目線を向ける。


「行こう」


 俺はそう言って声のする方向へと向かって走り出した。



 

 俺たちが見たのはまさに地獄絵図のような空間だった。


 緑色の皮膚をした三メートルくらいの巨人が三体、何列にも並んだ馬車を無差別に破壊し、中にいる人々を襲っている。


 もう既にかなりの人が被害にあっているらしく、馬車の周りの地面には幾つもの血だまりが出来ており、その近くにはあらぬ方向に体が曲げた老人や上半身と過半氏がバラバラになった青年など見るも無残な状態である。


 吐きそうになる。

 自分たちも魔物を殺してきたわけだが、それはあくまで魔物だと分かっていたから、そこまで嫌悪感を催すことはなかった。


 だが、今まさに目の前で広がっているのは人が殺されていると言う場だ。

 

 そう頭が理解して吐き気を催すが、


「助けようと思うんだが、いけるか?」


 俺は俺自身に一喝を入れた。


 今この場で引き下がったら、俺はこの世界でもずっと臆病者で、人の生き死にを直視できなくなる、そう思ったのだ。


 二人へと視線を向けると、二人ともこくりと頷いてくれた。


 アプサラス、あの魔物はなんだ。


 ―――オーガじゃな。魔物の階位としてはAには足りないしBと呼ぶには聊か強すぎる、あえて言うならB+といったところかの。その巨躯に見合った怪力で破壊の限りを尽くす魔物じゃな。ただ、注意せねばならんのはあの巨躯に見合わぬ素早さと仲間がやられたなどといった激情だけでは動かぬ理性を持っているところかの。気を抜くなよ、主よ。


 さて、どうやら、ぼちぼち大物らしい。


 今日の仕上げとしては十分な相手だ。


 やってやろう。



「俺とサラの二人であのオーガを抑える。その隙に後ろからアストレアが魔法や矢による攻撃、着実に敵の体力を奪っていこう」


 前衛と後衛、役割をしっかりこなす。


 敵は三体いるが、何とか抑えてみせる。

 

 俺たちはオーガとの距離を一気に詰める。


「オーガは俺たちが何とかする。逃げられるや人は急いでこの場から離れてくれ」


「先導したいのだけれど、さすがに三匹の足止めだけで手一杯になりそうだから、負傷がそこまでひどくない人が先導してあげて」


 俺たちのその声に顔を上げる人々とぎろりと殺意ある眼差しを向けるオーガ三体。


 その吸い寄せられた視線に合わせるようにして、三本の矢が放たれた。


 二本はオーガの後頭部に命中、そして、着弾にふらついたところを爆散させる。だが、一瞬の隙をついたにも関わらず勘のいい一体はそれを避けると、


「ウガアアアアアア」


 鋭い咆哮を上げながらアストレアの元へと迫る。


 そうはさせるかよ。

 俺とサラはオーガの眼前に繰り出すと、そのまますれ違いざまに両足首を一閃。


 どす黒い血をまき散らしながら、ぐるりと視線をこちらへと向ける。その視線には独特の鋭い殺気が含まれており、背筋に冷や汗が流れるのを感じた。


 こんなもんでびびってたら話にならねぇ。

 赤龍のそれはこんなモノ軽く凌駕するだろうし。


「全てを破壊する破滅の烈風よ、数多もの壁となりて切り裂け、神風」


 瞬間、暴風が吹き荒れる。

 それはオーガを囲むように収束すると、中にいる魔物を切り刻んで行く。そこから逃げようと必死に動いて出来上がった暴風の壁から脱しようとするが、そのたびに傷は増えていく。


 そして、その現状に観念したのか動かなくなるオーガ。 

 頭蓋を撃ち抜かれ爆風に囲まれた二匹のオーガ。



「やったか……?」


 そう呟いた瞬間、事態は急転した。

 神風に包まれたオーガは被弾覚悟で、地面を思いっきり踏み込むと空高く跳び上がる。跳びあがる過程で軽くはない裂傷を負ってはいるが、神風の領域から逃れた。


 対象がいなくなったことから発生していた暴風の壁は掻き消える。

 そして、それに同調するように爆風により全身が見えなくなっていた二体のオーガが痛くもかゆくもないと言った様子で一気にこちらへと迫ってきた。


 くそっ、さっきのよくあるフラグになってんじゃねぇか。


「我は守り手。鉄壁の守護をもって、我らが行く末を守らん。エーテルシールド」


 二匹のオーガの行く手を阻むように展開される六角形計の魔法陣。


 それに衝突し動きを阻まれたオーガは、それを迂回して一気に俺たちに襲いかかろうとするが、


「重ねて展開する、我は守り手。鉄壁の守護をもって、かの者の行く手を阻み、囲め。エーテルシールド」


 魔法名は同じそれが今度はオーガを覆い隠すように展開される。


 四方八方、上空含めて全てが六角形の魔法陣に囲まれたオーガは鬱陶しそうにその壁に自分の拳を叩きつけるが、びくともしていない。


 だが、それで二体のオーガの動きを封じたとしても、それで終わりではない。


 上空に跳びあがった傷だらけのオーガが自由落下にてこちらめがけて迫る。自分は砲弾だと言わんとするようにその巨体を丸くし、その体はもう被弾を恐れていない。


 三メートルに及ぶ巨体がそれこそ二十メートル近くまで跳びあがりそれが自由落下してくる。


 一回押さえる必要があるな。


「俺が前に出てあのオーガを抑え込むから、その隙に一気に倒してくれ」


「任せて」


「ごめん、あの二匹押さえ込むので精いっぱいだから、手が回せない」


「分かった、気にせずそっちを押さえといてくれ。サラ、頼んだ」


 俺はそう言ってオーガが落下してくるその中央へと走って移動して、大きく足を開いて衝撃に備える。


「数多もの戦で侵攻を阻む鉄壁よ、我が守りとなりて後ろにいる者たちを守らん、鉄心」


 体を硬質化させる魔法。

 その効果はそれこそアストレアが使っているエーテルシールドのそれより強い。その上、全身を覆っているそれには死角がない。


 あちらは他者を守る魔法であるのに対し、こちらは自分だけしか守ることが出来ない、その違いだ。


「軟体化」


 それを合わせて体を柔らかくする。

 衝撃を逃がす、その為に。


 体を硬くするだけではそりゃあ攻撃からは身を守れるだろう。だが、その衝撃は体に直に伝わる。当然鉄心はそんなマヌケな魔法ではないのだが、それでも衝撃が強かったらある程度は体に伝わってしまう。

 

 だから、これは合わせ技だ。

 表面は鉄壁、中身はスライムのような柔らかい体、攻撃をその鉄壁で防ぎ、その鉄壁から来た衝撃を柔らかい体が逃がすことでダメージを全く残さない。


 このような合わせ技が成立するならば、これからの戦闘にもっと幅を利かせていくことが出来る。



 衝突する。

 瞬間、衝突した衝撃が逃げた先、その地面が一気に放射状にひび割れる。だが、それだけだった。


 俺の体にダメージは全くない。

 オーガはその瞳に驚愕を浮かべながら、次の行動を起こそうとしていた。


 そう、していた。

 かの魔物が行動を起こす前に、サラが一気に踏み込んだのだ。


 それは俺がオーガを何とかして止めると確信しての間髪いれない行動だ。信頼してくれていると言う事実になんだか嬉しくなる。


 サラは動きの止まったオーガを切り刻んだ。

 マンドラゴラの蔦の攻撃をいなしたその鋭き剣術が迸る。


 目、乳様突起、首、鳩尾、そして、心臓、急所を的確に穿つその刃はオーガの命を軽く奪い取ると、地面に倒れ伏せさせた。


「あともう少し頑張ってくれ、アストレア。オーガたちに止めを刺す。全てを破壊する破滅の烈風よ、数多もの壁となりて切り裂け、神風」


 閉じた空間であれば、もう逃げ場はない。


「グオオオオオオオオ」


 諦めずその閉じた空間から脱出を試みるオーガの怒声が響き渡るが、障壁を破ろうと動けば動くほど、傷は深くなる。


 されども、動かなければ神風により切り刻まれる。


 あとは時間の問題というやつだ。


 そして、すぐに耐え切れなくなったオーガが地面に倒れ込むとスパンと神風がその首を撥ねた。


「何とか勝てたな」


 気にしている余裕がなかったが、辺りを見回してみれば少し離れたところまで逃げた馬車に乗っていた人々がいる。


 何とかそっちに被害はなさそうだ。


―――鬼人化を習得しました。


 さて、他に魔物もいないようだし、安全になったってあの人たちに伝えに行こうかね。

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