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レベリング

「さぁ、次の魔物を探して行ってみよう」


 レベルを上げる為、そして、ステータスを向上させる為、そして、新たなスキルを得る為。

 魔物への恐怖心は意外とそこまでない。


 思いのほか、あっさりと倒せてしまったそれに少し油断しているのかもしれない。


 けれど、芯は忘れていない。


 常に最悪を考えて勝つためにはもがく努力を忘れず死にもの狂いでやってみる。そうしなければ、赤龍との戦いで死んでしまう。


 軽く倒せる相手でステータスが上がると言うのならば、血眼になって倒しまくるまでだ。


 Aクラスのマンドラゴラですら森全体の木々を焼き払わなければ真に倒したことにはならないという一癖を持っていたのだ。Sクラスになった赤龍はもっとたちが悪いこと必至だろう。


 ともすれば、出来ることを必死にやるしかないのだ。


「徐々にこれから慣らしていきましょう」


「ユウキ、次は私も行くよ~」


 二人が駆け寄ってくる。

 俺がようやく慣れてきたゴブリンの悪臭にアストレアははっきりと顔を歪めている。


 こういう血生臭いというのか、それとも、魔物独特の匂いというのかにも慣れて行かないとな。


 サラはなんだかんだで、そういう匂いに慣れているのかそこまで明らかに表情には出していないが、それでも出来れば勘弁と言うのはどこか感じられる。


「ゴブリンは死臭がすごいから、殺したら燃やしておいた方がいいわ。我は狩人。神に許された慈しみの炎をもって、血と肉を焼き滅せよ。フューラルオブファイア」


 ゴブリンの両断されたその体の断面から流れ出た血をまるで燃料か何かのようにして引火する青白い炎。


 ゆらりゆらりとどこか優しさを感じられる炎は触れても燃え移ることなく、けれども、確実にゴブリンの体を焼き払っていた。


「こうしておけば大丈夫」


 サラがそう言った頃にはゴブリンの肉体は既になく、周辺に巻き散らかされたその血液すらなくなっていた。


 草にこびりついたそれも草には何の罪もないと言わんとするように表面から血液を焼き飛ばすだけにとどめている。


「対象だけを焼くのか」


「ええ、殺傷力は皆無。既に息絶えた者の血と肉を燃料として燃やすことで跡形もなく、消えるわ。その炎は普通の炎とも違うこの魔法独特の炎だから灰すら残さず綺麗に焼切ることが可能よ」


 何とも便利な魔法だ。

 先ほどまであった鼻につんと来るような激臭は掻き消えてしまっている。確かに死臭を残しておくのはあまりよろしくないかもしれない。


 特にこういうきついやつは。

 それこそ、その匂いにつられて新手の複数の魔物が釣れてしまうかもしれない。


「ユウキ、遠くにコボルトが五匹いるよ」


 アストレアの視線が向く先を確かめる。


 身に包んでいる物はそれぞれ違うが、その特徴的な灰色の毛並をした犬頭の魔物が五匹。


 その手に握っている武器は片方にしか刃がついていないブロードアックスと刃がくねくねと曲がっているフランベルジュを握り締めている者までいており、本当にそれぞれが剥ぎ取った武器や防具を装備しているのは明らかだった。


「アストレア、まずは先手を打つ。一陣としてここから弓矢を放ってくれ。その段階で可能なら一匹は仕留めたい。その上で俺とサラが前に出て応戦、アストレアはその支援を頼みたい」


「任せて、ユウキ」


「ええ、分かったわ」


 アストレアは腰に引っ掛けたユリウスの弓を手に取ると、構えた。

 和弓のそれと同等の大きさとなったそれを力強く引っ張ると、矢筒から生成された魔法の矢を打ち放った。


 ひゅんと風を切る音が草原を駆け抜ける。


 それは一瞬にしてコボルトの頭に吸い寄せられるように着弾すると、その矢に宿った魔力を爆散させるようにかの魔物の頭と一緒に砕け散った。


 突然ばたりと首から上を失って倒れ込んだ仲間に何事かと残ったコボルトたちは周囲を見回す。

 不意打ちは成功したようで、慌てて武器を身構えている。


「よし、行こう。左の二匹は頼む」


「分かったわ、じゃあ右の二匹はお願いね」

 

 俺とサラはアストレアに続けと一気に前へと出た。


 その段階でようやく俺たち三人のことに気が付いたみたいで、仲間をやられたことによっていらついたぎらぎらとした殺意に溢れる目でこちらを睨み付ける。


 ホームランでも狙い撃とうとしているのかと思っていしまいかねないほどに腰をひねってまでして振りかぶったフランベルジュを剣で軽く受け流すようにしていなすと、俺はがら空きになった脇腹から一気に切り込んだ。


 肉や骨が切れていく、そんないまだ慣れない感触が手に残るが、そのまま一気に上半身と下半身の永遠の別れを迎えさせ、そのままの足でもう一体の元へと俺は踏み込んだ。


 さくっと奪われた同胞の命に、


「わおおおおん」


 咆哮を上げる。


 その眼には仲間をやられたことに対する苛立ちとそれに伴う確固たる殺意があった。左と右に分かれた二人をそれぞれ追うように一匹ずつ、そして、残り二匹はアストレアへと迫る。

 くっそ、アストレアの元へ行かせるかよ。


「不死を知る最古の炎よ、我が刃となりて……」


 今までで一番の速さで呪文を結んでいくが、コボルトがフランベルジュを振り払ったのを見て回避に回る。


 その隙にとコボルト二匹は俊敏に駆け抜けていく。


「くそっ、アストレア二匹、そっちに向かった。頼めるか」


「うん、任せて」


 俺はフランベルジュを剣で受け止め、コボルトと鍔迫り合いをしながら、アストレアに声を飛ばす。

 詠唱しながらこのコボルトも倒せたならかっこがつくのだが、そうもいかない。


 鍔迫り合いとなり力で押し切れないことに苛立ちを隠しきれないコボルトはその獣の口から鋭い牙をむき出しにすると、こちらに噛み掴んと首を伸ばす。


 がちんと獲物をかみ砕こうとする捕食者のそれはどこか恐ろしくもあるが、俺にはそれがどうしようもなく隙に見えて仕方がなかった。


 剣に込めた力を一気に増して、無理やり押しかえす。

 力で負けるとは思っていなかったのか、バランスを崩すコボルト。


 その隙だらけの姿を見て、俺は突き出された首を切り落とすように一閃。


 ぼとりと犬の頭が地面に転がる。

 思考が停止し、何も出来なくなった獣の体は糸が切れた人形のように力なく地面に倒れ込んだ。


 ちょうどその頃には他の二人も残りのコボルトを倒したようで、無事コボルトの殲滅には成功しようである。

 

 ―――スキル猟犬の索敵、荒くれ者の刃を習得しました。


 新しいスキルか。


 でも、どういうスキルか見るために一々ステータスを開くのは面倒だし、戦闘中とかに見れないよな。


 ―――なら、我が説明しよう。


 おお、頼めるか。


 ―――何々、猟犬の索敵は五感を鋭く尖らせて、周りの気配を正確に把握することが出来るようになるスキルじゃ。そして、荒くれ者の刃はフランベルジュ然りブロードアックス然り様々な武器を扱えるようになるスキルじゃ。扱えると言っても、巧みな剣術が出来るとかそういうのではなくて、初見の物であろうとあたかも知っている武器か何かのように扱えるようになると言うだけのようじゃがの。


 冒険者から装備を剥いでそれを装備していると言うだけはあるな。

 使い方、扱い方を簡単に知っていてそれをスキルとして扱えるようにしてくれるのであれば有難い限りだ。


 ちょっとした、けれど、便利なスキルだ。


 ステータス値の方は?


 ―――魔物から吸収した分で体力が2、筋力が3、耐久力が2上がってるおるよ。それと合わせて、グロウリングの影響で経験値が三倍いや実質九倍になっておるからの。


 実質ってどういうことだよ。


 ―――通常経験値と言うの物はパーティで倒した魔物の合計値割ることのパーティを組んでいる人数によって個人への割り当てが決まる。だが、このグロウリングは個人に対して全体の経験値の三倍を与えると言う効果を持つ。


 つまり、今回俺たちは三人だから実質九倍ってことか。でも、そんな話なかったぞ。


 ―――まぁ、あれじゃ。何に対して三倍なのかというのが残っていなかったのじゃろうな、三倍という数字だけが残って。


 つまりはソロプレイに対しては単純に三倍になるだけだが、パーティプレイだったらその分配によって減った経験値のことはなしにしてそのまま三倍になるわけか。


 けど、案外それってすごいことなんじゃね?

 ゲーム脳で考えると、普通下位クラスの魔物はソロでも倒せる。けれど、上位クラスの魔物もしくはボスモンスターはソロでの討伐が厳しく、パーティで攻略してその上で経験値を人数分配してなお、下位クラスの魔物より経験値は多い。


 それがこの指輪では強いモンスターを複数人で倒したところでその分配元の経験値を三倍にして各人に渡すのだから、それはもうえらいことですよ、はい。


 普通にソロで倒せる魔物ではただ単純に三倍になるだけってことでそこまで実感はできないだろうけど、強い魔物であればあるほど、その効果は強くなる。


 ちなみに、俺はどれぐらいレベルが上がったの?

 ―――レベル3じゃな。それに合わせて全体のステータスも向上したようじゃの。


 まぁ、詳しい数値はまた帰ってから確認しよう。


 よし、じゃあ、次に行ってみよう。

 この調子でいけば、どんどんレベル上げをすることが出来そうだ。



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