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街の外に出る前に

 アストレア。

 眠気眼でこちらを眺めること、三時間。


 全く会話に参加してこなかったから存在感がなかったが、アストレアはサラとの話し合いの時から一緒にいた。


 ただただ煩く鳴り響いた警鐘により起こされたのがよほどあれだったのか、サラとの話し合い時点でうつらうつらと舟をこぎ始め、俺が別館で稽古を開始する頃には隅っこでひっそりと眠っていたのである。

なんというか、いつも腕白な彼女を知っている分、なんだかここまで存在感を消して眠りについている彼女は意外でならない。

 

 ただ、これからは起きてもらわないとな。


「アストレア、今から魔物と戦いに行くから起きて」


「ん……、寝てちゃダメ?」


「ダメ。これから七日間できっちり鍛えないといけないんだから」


 それに、お互いの実力を把握しておきたい。

 

 マンドラゴラ戦では俺が役立たずだったのが仇となって、二人は戦闘不能に陥った。


 戦闘での立ち回りを見るに、サラが前衛、アストレアが後衛。


 俺はどちらかって言うと、遊撃ポジションになるのだろうか。


 魔法剣士っていう職、アプサラスの加護、それらを鑑みると、前衛と後衛どちらも兼ねるポジションがいいと思われる。


「じゃあ、この街ユーデンブルクの周りの魔物を狩っていきましょうか」


「この付近はどういう魔物が出るんだ?」


「主だった魔物は……、スライム、ゴブリン、コボルト、スレイプニル、インプぐらいかな」


「どういう魔物か教えてくれないか?」


 まぁ、大体は想像できるけど。


 なんかよくゲームで聞くような名前ばかりだし。


「スライムは、Cクラスの魔物で動く粘液の塊。斬撃や打撃は通らないただの粘液の塊のものならまだいいんだけど、たまに酸であったり毒を含んだタイプもいるから要注意よ。ゴブリンは、Dクラスの魔物で緑色の肌をした残虐性及び攻撃性の高い小人よ。コボルトは、Dクラスで犬頭をした人型の魔物で亡くなった冒険者の装備を奪って装備していることが多いわ。スレイプニルは、Bクラスの魔物で八本の足を生やした馬でその頭からは周囲の空気の流れを読み取る触角が数本生えて漂っているわ。インプはDクラスで蝙蝠の羽を生やした小人の悪魔よ。ざっとこんなものかしらね」


 だいたいは想像通り……か。


 ただ、スライムが意外と強そうだ。俺のイメージではゲーム序盤で戦うような雑魚魔物だったはず。


 斬撃や打撃が通らないというのは何となく想像してたけど、それに合わせて毒や酸が追加されようものなら、なおたちが悪い。


「スレイプニルは危険そうだな」


「ええ。滅多に見かけることはないけどね。基本的に群れで行動することはないからまだマシだけど、八本の足を自在に野を駆け、その頭から生えた触角で獲物の気配や動きを察する厄介極まりない相手。でも、私一人でも倒せるからもし出会っても大丈夫よ」


 中々に厄介そうな相手だ。


 俺に倒せるのだろうか。


 ―――そうさな、スレイプニルは古の時代から生きる魔物の一種じゃ。目が見えぬ代わりに発達した触角で空気の流れさえも読んでしまいおる。なれば、音羽で実体を持った幻覚を味わわせることで五感を狂わせ、神風で厄介な触角そのものを断ち切ってしまえばしまいじゃな。あとは八本脚があるだけの馬じゃ。普通に倒してしまえばよい。


 なんかすごく簡単そうに言っている。

 七星の賢者というのがどういうものかは分からないが、確実に言えるのはアプサラスには魔物に対してどう立ち回るべきか、経験に基づく知識がある。


 だが、俺にはそれがない。


 今の俺に必要なのは経験。

 今の俺にはアプサラスの加護によって得られたステータスはあるが、それに見合うだけの経験がない。


 経験がなく、上手い立ち回りが分かっていなければ、結局のところ高いステータスは宝の持ち腐れだ。

 要するに、馬鹿力があっても、それを適当に使っているだけでは碌なものではないということだ。歴然とした実力差がある相手であれば、それで問題はないだろうが、どう足掻こうと赤龍はそういう相手ではない。


「そうね、実戦に行くのなら装備を整えるところからって思ったけど、せっかくだから二人は商人からもらってきた物を装備したら?」


「そうだな……」


 誰に何を渡そうか。

 俺とサラとアストレアの三人か……。


「あっ、私はいいわよ、愛用の装備があるし。あとはユウキが決めたら?」


「そうか、分かった。そうだな、じゃあ、俺はグロウリングと剣聖の血“レイズフォンブレード、アストレアは天仁の羽衣とユリウスの弓を装備しよう」


 まぁ、これが妥当な割り当てだろう。

 精霊龍の卵とかロイヤルハニーといった装備品ですらない物を除外したら、残っている物はこれだけだ。


 天族の物は天族に装備してもらった方が何かと良さそうな気がするし、となると、残りは俺が受け取ったほうが良さそうだと思った。


 アストレアが弓をどこまで使えるのか分からないけど、使ってみてもらってそれから考えることにしよう。


「グロウリングと剣聖の血“レイズフォンブレード、天仁の羽衣とユリウスの弓を解放せよ」


 そう呟くだけで俺の要望した物がぽんと目の前に現れる。


 何とも便利なポーチだ。

 正直これがあるだけで十分すぎるぐらい助かりそうな気がする。


 だってほら、考えてみて。

 普通に冒険するのであれば手に入れたものは自分達で持ち歩かないといけないんだぜ?


 ゲームとかではそういうのはあまり描写されないけど、ダンジョンに潜って色々と収穫物があればあるほど取捨選択をしなきゃいけなくなるはずだし、大きすぎる物は持って帰れないと思う。


 それをとりあえず全部放り込んでおいて、帰ってきてからゆっくりどうするか考えることが出来るって非常に便利だと思う。


 それに、食べ物まできちんと保管できるというらしいし、そりゃあもう旅に必須レベルなんじゃなかろうか。


 


 そうして、出てきた物をアストレアに手渡す。


「アストレア、どうだ? その装備は」


「うーんとね、なんか体に馴染むの。この羽衣は、とっても動きやすいし、この弓は遠くまで簡単に撃てそうな気がしてくる」


 真っ白な羽衣。

 体のラインを沿うように入った金色の繊維は、首・左腕・右腕・左足・右足のの方向から集まり背中で五角形を形成している。そして、その五角形の点を結ぶようにして描かれた星はどこか不思議な印象を与えてくる。


 ―――ほう、これは魔法陣か。


 何か分かるのか?


 ―――服の繊維の中にユリウス自身の魔力を通して魔法陣として機能させておるな。しかも、天族の者が着なければ効果も発揮しない上に、魔法陣として機能していることすら見破らせないようにもしておる。ユリウスの頭でっかちはこういうことだけは器用じゃったからのう。安心して良い、これはアストレアの身を守ってくれる。


 そうか、なら、良かった。


 ―――魔力の吸収と貯蓄。貯蓄量に応じて羽衣は硬度を増し、更なる効果を得る。吸収は魔物等の魔力を持った生命を狩ること、もしくは装備者が魔力を注ぎ込むことで可能。


 つまりはなんだかんだで魔物を狩れってことか。


 ―――そういうことじゃ。頑張れよ、主。ユリウスの弓は普通に使う分には命中精度が高いただの弓にすぎん。強いて言うなら、矢筒が魔力を通わせれば、自動で矢を生成するぐらいかの。


 ユリウスの弓、これまた白を基調として中央に一筋の金色の線が入っている。


 形状としては和弓のそれで、大きさもそれ相応に大きい。

 持ち運び等に不便なのかと思ったその時、アストレアが背中に引っ掛けるだけでその大きさがぐっと縮まり、ショートボウくらいのサイズになった。


 ―――あの巨大な弓であれば威力は出るが、持ち運びに不便。それぐらいユリウスは分かっておったのじゃろう。故にあのような機能を付けたのじゃろうよ。


「ねぇねぇ、ユウキ。この弓すごいの、背中に掛けたら小っちゃくなるし、使おうと思って手に取れば大きくなってくれるし」


「そうだな、面白い仕組みだ」


「そうなの。それに、矢筒もね、手で触って魔力を流すと自然と矢が出来上がるし、便利だよね」


「使いやすいように良く考えられているな」


「ね~、そういえば、ユウキのそれは?」


 そう言われて、俺は自分自身に与えた武器、剣聖の血“レイズフォンブレードを眺めてみる。

 紅蓮に染まったその刃は猛々しく燃ゆる炎のようだ。形状は西洋風の剣のような両刃ではなく片刃で、それこそ日本刀のような造りをしている。刃渡りはさっき使ってた木剣と同程度で扱いやすそうだ。



 手に取ってみるか。



 ぞわりとした。

 背筋が凍るような感触。薄気味悪いと言うのか、何か嫌なことでも起きそうな感触とでも言うのか。


 体が警鐘を鳴らす。


 それを感じて数秒後、突然俺の意識はぷつりと途切れた。


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