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真面目に状況を振り返る

 さて、状況を振り返って見るか。


 普通にやったところで話にならないのぐらいは分かってる。

 敵は千もの討伐隊をもってしても、勝つに至らない強敵だ。転生者が利となるか? 答えは否だ。


 転生者というキーだけでは俺の場合どうにもならない。


 俺に与えられたのは運だけ。


 運によって得たアプサラスの加護という称号がある。

 これによってステータスが格段に上がったのは分かってるが……、とりあえずもう一度どんな感じか確かめてみるか。


「主よ、天性の我が身に宿りし今宵の力を指示さん。チェック・ザ・ステータス」

 


・基本設定

名前:ユウキ・キリシマ

種族:ハイエルフ

職業:魔法剣士

年齢:16


・ステータス

レベル:1

体力(HP):68

魔素量(MP):240

筋力(STR):62

耐久力(VIT):60

器用さ(DEX):56

素早さ(AGI):56

魔力(INT):223

魔法防御(MGR):67

運(LUCK):1000

スキル(ステータス)ポイント(SP):0


[スキル]

・アプサラスの魔法

不知火・鉄心・八雲・音羽・神風 他

[称号]

・転生者

初期設定値にボーナスが生じる

・神運の持ち主

神に祝福された運の持ち主。

・アプサラスの契約者

アプサラスの試練の間を超えし者。アプサラスの加護を受ける。各種ステータスにボーナスを得る。さらに、固有スキル“アプサラスの魔法”を習得する。


 おや?

 ステータスが上がっているのは確かだ。だが、前に見た時には気づかなかったが、レベルが上がっていない。


―――主に与えられたのは我が加護だけじゃからじゃよ。


 いや、でもマンドラゴラ倒したんだから、レベルが上がってもいいんじゃないの?


 ―――マンドラゴラを倒す? 無理じゃよ、あの生命体を殺すのは。主が倒したのはマンドラゴラの核じゃ。本当に倒したいのなら、それこそ群生した森の木々を全て焼き払わねばならぬ。


 じゃあ、マンドラゴラは倒せていないということ?


 ―――倒せていないというわけではない。ただ、死んでいないというだけじゃよ。少なくとも、核を潰した以上は短くても残り百年は生命力の回復に時間がかかる。それまでは安全じゃよ。


 ふむ、ならとりあえずは安心か。


 ―――そうじゃな。また百年か二百年の時が過ぎたら、また討伐隊を編成すればいい。


 森を焼き払うなんてそう易々と出来るわけないし……、仕方ない。


「サラ、俺に剣での戦い方を教えてくれないか?」


 アプサラスの加護のおかげで、マンドラゴラ戦では剣を自分なりに振るうことが出来た。


 だが、あのままではいけない。


 サラの話、その通りに事が進むという最高の条件ですら七日しかない。過去に一度しか襲撃がなかったことを鑑みるに、最悪それよりも短くなる可能性すらある。この際長くなるかもなんて希望は抱かない。


 それほどの短い期間で巧みに剣を扱えるようになるとは思えない。

 けど、そうだと決めつけて諦めてしまっては何も変わらない。


「ええ、いいわよ。転生して間もないのだったら、そういう剣の扱いについて学んでおくべきだわ」


「すまない、よろしく頼む。それに、期間もないし、スパルタで頼む」


「なら、午前中は私との打ち合いで剣の扱いを学んで、午後からは外に出て魔物と実戦と行こう」


 とすると、夜は時間が余るな。

 その時間にハマの封書を含め、この世界の書物を読んでいこう。特にハマの封書はハマが編み出した戦闘技術と魔物を狩る為の知識、その神髄が記されているらしいし、龍と戦うにしてもかなり役に立ちそうだ。


 時間は有限だ。


「よし、じゃあ早速だけど、よろしく頼むよ」



 そして、俺たちがいた本館とはまた趣が変わった別館に来ていた。


 床は艶のある木板が敷き詰められており、それこそ日本に良くありそうな道場と言うものを想起させる造りをした別館。


 奥には、忍耐と大きく書かれた掛軸がかけられている。


 今まで西洋風だったのに、何で突然日本が混じるんだよ。


「ん? どうかした?」

「いや、なんでもない」


 今はそんなことどうでもいい。

 これから剣の稽古をつけてもらうのだ。真剣にやって、少しでも多くその技術、戦法を身に着けなければ。


「真剣でやったら、怪我をするわよね。なら、この木剣でやりましょ」


 サラはそう言って、俺に木で作られた剣を放り渡す。

 刃渡りにして、七十センチほどだろうか。柄の部分にはよくファンタジー世界で見かけるような十字の鍔がある。


 西洋剣らしく両刃となったそれは何度も使われているのだろう、少し刃こぼれをしている。


「ありがとう」


 俺はブンブンと軽く振ってみて、感触を確かめる。

 そんなに重くはない……な。


 柄も握りやすいし、振りやすい。


「あと、そこの壁にかけてある防具の中から自分のサイズに合うものを選んで着て」


 俺はそう言われて壁にかけてある防具を眺めてみる。

 どうやら、鎖帷子を下に着て、致命傷を避けるための胸当をつけるらしい。まぁ、これだったら木の剣でそこまでの大怪我になるということもないか。最悪、回復の魔法で治せばいいし。


 とりあえず、サイズの合いそうなものを着てみる。

 学生服やらTシャツは普通に衣服として着たことがあっても、こんな鎖帷子なんて着たことがない。


 鎖帷子は金属が集まっているということから動き辛そうと想像していたのだが、鎖が連なって出来ているおかげでそれなりに自由が効いてある程度は動きやすい。まぁ、何もない方がもっと動きやすいのだが、身を守ってくれる物として割り切るしかなかろう。

 


「よし、では、お願いします」


「じゃあ、ユウキの思うように攻めてみて」

 

 よし、なら、順当にまっすぐ一気に踏み込んで……。




 そして、三時間後、手も足も出ず地面の伏す俺の姿があった。


 俺が剣を縦に振りおろせば、サラは片手でその剣の勢いを木剣でいなすように逃して、力の行き場を失ったところを打ち払って、そのままがら空きになった俺の胴を一閃。


 俺が剣で突きを繰り出せば、さっと体を逸らして避けると、そのまま剣の横を添わすようにして俺の手の甲に一太刀を浴びせて、動きが鈍ったところをお返しと言わんとするように胴に一突き。


 俺がフェイントとして突きを繰り出しわざと外してそのまま横薙ぎにしようとしたら、フェイントなんて何のこともなく防がれ、無理なフェイントのせいでバランスが悪くなった体に蹴りを一発貰った。


 計五十回ほど挑んでみたものの、全てサラに届くことなく、俺が吹き飛ばされるだけと言う結果にて終わりを迎えたわけである。


「生命の息吹よ、かの者に力を与えて、安らぎを与えん。ヒーリング」


 自分自身に回復魔法を掛けながら思う。

 いやはや、分かってはいたが、何ともまぁ俺は雑魚なんでございましょう。


 魔物相手になんでまぁ、あそこまで出来たんだよ。


 ―――それは我が主に力と知識を貸し与えたからだ。だが、今はそれをしておらん。主が強くなりたいと願っておるのであれば、余計な手出しは無用と考えた次第じゃ。


 なんともまぁ、気遣いの出来るやつのことで。


 でも、その考え方自体は間違っちゃいない。確かに、サポートのおかげで勝ったところで俺は何も成長しない。それならば、この稽古自体が意味のないものになってしまう。


 というか、アプサラスの加護のおかげで勝てたことは分かっていたが、そこらへんも加護の力だったとは驚いた。


 確かに今思いなおすと、マンドラゴラが繰り出した複数の鋭い根の数々、俊敏に繰り出されるそれらをすべて避けきるなんて普通に考えて無理だ。


 ―――ふふん、我は七星の賢者と呼ばれるぐらいの者じゃから、こんなこと造作もないわ。それにな、あのままでは主は死んでいた。死なれてはせっかく召喚してもらったのに意味がないではないか。


 死んでいた、目を背けていた事実をズバリと言い当てられて、何も言えない。


「そうねぇ、ユウキは真っ直ぐすぎるのよ。単調な攻撃ばかりでは相手に動きを読まれてしまう。動きを読まれてしまえば、簡単にいなしてしまうことが出来る」


 動き……か。

 動きの大切さはこうして何度も打倒されるうちに身に染みた。その上で工夫をして挑んでみてはいたが、それでもサラには攻撃が届くことはなかった。


 まだまだ技術が足りない。

 もっともっとよく見て考えて自分の糧にしていかねば。


「疲れたとは思うけど、さぁ、次は街を出て魔物との戦闘よ」

「ああ、行こう」


 回復魔法のおかげで体の節々に走っていた痛みは消えた。だが、先ほどまで三時間ぶっ通しで打倒されてきた、その疲労感だけはすごい。


 けど、ここが踏ん張りどころ。

 頑張らないと、俺は、俺たちは死ぬ。

 


気づけば、たくさんの方にお気に入り登録をしていただいていました。

お読みいただき、ありがとうございます。


更新についてですが、最近急に仕事が忙しくなった兼ね合いから週に一度になってしまっております。執筆は進んでいますが、推敲の時間がきちんと取れていないのが現状です。今週来週くらいで忙しい時期は抜けそうなので、それ以降は更新速度を上げていけたらと考えております。


まだまだ未熟な私でございますが、精進させていただきますので、温かく霧島優輝の旅路をお見守りいただければ幸いです。

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