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魔王さんちの再婚事情。  作者: タナカつかさ
薔薇の勇者と百合の聖者。
30/41

聖者は娘に懺悔する。

 正気に返りました。ええ、正気に返りましたとも。

 危うく闇堕ち(ダークサイド)するところでしたけど、ええ、浄化されました。

 ううう、まさか覚えていて下さったなんて、一人前になったつもりが、見守られていたなんて、恥ずかしい……。

 それにしても、悔しい……結局いい所はあの魔王に持っていかれた。まさか許されるなんて……確かに貶められている最中も全然気にしていなかった風だけれども。

 まるで父親に優しく窘められたような気分だ。でも仕方がない……グレーナ様が愛してしまったのも分かる気がする。

 ハッ、そ、そんなんじゃないんだからね!?

 それはともかく。

 いくらお二方がこの家に居ていいと言われても、そういう訳にはいかない。

 今回、蔑ろにしてはいけないものを、私は蔑ろにしてしまった。

 だから私はまず彼女にその許可を貰わなければならない。

 私は戦々恐々と、そこを訪ねる。

 

 とある部屋のドア――

 そこを恐る恐るノックする。

『どうぞー』

 怖い、怖いけど、開ける。

「……こんばんわ、」

「なに、リリー」

 ううう、平素なお返事、平静を装っているようで、それがまた怖い。

 それでも一応背筋を伸ばして、楚々と立ち振る舞い、勉強机に向かっている彼女のうしろ、部屋の外、入口の位置に立つ。

 そこが境界線、まだ、中に(・・)入ってはいけない。

 彼女はちゃんと向き直り、椅子ごとこちらを見つめて来る。

「その……ざくろ?」

「なに?」

「……私、ここにいてもいいの?」

 利発な少女は、

「……それ、なんのいいわけにするの?」

 ううう、手厳しい。

 けど、事実だ。今、罪人たる私が、彼女や、この家の方々に答えを求めるというのは、そういうことだ。

 許しを欲する――それ自体が、犯した罪とは別の、新たな罪だ。

 許されたからここにいる、ここに居ていい、と思うこと――それを求めることは贖罪の道ではない。むしろ、そこからの逃避である。

 罪は、それを償うと決めた瞬間から、決して離さず、背負い続けなければならない。

 でなければ、罪を忘れたことになる、己の過ちをなかったことにしてしまう。

 だが、許されたなら、逆にそれを責めることをしてはいけない――いけなくなる。

 それでも自分を責めたら、罪を裁いた人、罰を与えた人が、必要以上の罰を与えたことになってしまうからだ。

 これが一番恐ろしい――

 傲慢でもある。自分は自分を罰している、だから自分は正しくなっている――

 そういう思い込みだ。それこそ、自分の罪を誤魔化している。

 だから、刑罰などの期間を終えたら、そこからは必ず新しい人生を歩まなければいけないのだ。

 しかし、罪は消えない。

 もはや、どれだけの罪悪感を抱こうとも、他者が許しを許可しようとも、それらを得ることもせず……

 それらを背負い続け、贖罪は許されない、という生き方をしなければならない。

 でなければ、己を省みた、とは言えないのだ。

「……ごめんなさい……貴女のお父様を、私は貶めました。私の親友を、私は裏切りました……」

 利発な少女は、それに違わぬ均衡を保った天秤の様な目を向け、

「……分った、そのことは」

「……」

「……リリーは本当は臆病なんだから、あんまり自分に嘘吐く様な態度は取らない方がいいよ?」

「ううう、」

 齢10歳、自分の半分くらいの女の子に見透かされるってどうなんだろうか。

「あと、そういう方が可愛いから、これからは素直に気弱なオロオロ系の女の子になったら? 自分らしく」

「うぅ……」

 それは、教会暗部に入る前の私そのものだ。

 そこの訓練で強力な心理的矯正マインドセットを施されて変わったのだが。

 それにしても、

「……あとね?」

「なに?」

「……気持ち悪くない?」

 同性愛に対する、子供の見解である。


 今回、私は確かにやっちゃいけないことをした、犯罪者の括りである。同性愛者の範疇を超えた行為をした。

 そのことを、皆許してくれた。

 でも――同性愛者は同性愛者である。

 

思想的な是、肉体的な是、単なる嗜好、本意気ではない、空想上の娯楽、理論上の純愛とあるけれど。

 社会敵倫理、規範に反する、非生産的、不道徳、いろいろ現実的に見れば、『性別』という概念がある上での少数のイレギュラーだ。

 ちなみに私は同性愛と人間愛を兼ねている。ちゃんと欲情して、精神面でもこの人となら一緒になれる、そんな相手の基本が女性になってしまう種類の人間だ。

 でも、そんな人間が、同性の彼女から見て――まして……。

 子供と一緒に居ていいのか。

そういう問題だ。これを子供本人に聞いてしまうのは――

 卑怯だろうか。それとも、正しいのだろうか。

 向き合っていると思いたい。

 そんな私に、

「……んー? ……全然?」

 彼女は彼女の部屋の中から手招きして来る。

「……気を遣わなくていいのよ?」

 再度手招き――

 私はそれに応じ、境界線を越え、中に入る。

 一応ドアを開けておこうとすると、ちゃんと閉めてと言われて恐る恐るそこを閉じた。

 部屋の中央へ行く、一歩、否、彼女から十分に二歩引いた位置で立ち止まる。肩を窄め、両手を心許なく重ねた。

 上から下まで、利発な少女は十全に眺め、

「……別に? お父さんだって言ってたでしょ? リリーは普通で、リアの事を愛しちゃっただけなんでしょ? 普通じゃん?」

 COOL。この子めっちゃCOOL。

 ……嘘を吐いてくれてる……そんな雰囲気ではなさそう。

 その辺は一応、裏社会に居たせいで敏感だ。そして、この娘があの夫婦の子供だということが良く分る。

 並大抵のことで動じていたら気が持たない、そんな生活をしている方々だ。

 ――親の教育って重要!

「え、ええ……そうなんだけど……」

 正直、精神性で10歳の娘に圧倒的に上をいかれると、大人としてどうなのかと思う。 複雑だ。自分はなんて矮小な存在なのかと。

 ぽむっ、と、小さな手のひらが頭を撫でて来る。

「――悪いことしたのも、ちゃんと謝ったでしょ?」

 天使のような笑みがそこにある。ああ、これは間違いなく母親の血だ。

「……ええ。でもね? 悪いことは悪い事ですわよ?」

「でももう悪い事しないって、約束したよね?」

「……叱ってくれませんのね?」

「そういうこと言う子は、逆に叱ると甘えちゃって、叱られないとダメな子になっちゃわない?」

「うっ!」

 ノータイムで子供に説法で負ける聖職者ってどうよ。いや、この子が優秀なだけなんだけど。

「あ、そうだ。下着が欲しかったら私のあげるよ?」

「……うん、――それはダメね?」

「私のこと、嫌い?」

「その二元論は止めましょうね?」

「嫌い?」

「大好きよ? でも」

「嫌い?」

 その二元論は止めようか。

 いや、これどう答えるのが正解なの?

 可愛い? 綺麗? 将来性ならある? あああ、私の恋愛偏差値では正解が導き出せない。これも処女と非処女の差か。

 魔王様なら、大人になったらベッドに裸で来なさい、とか言って淫靡に回避しそう。

 でも私には出来ない。

「……ごめんなさい、私、リアの事がまだ好きなの。一途なの」

「――正解!」

「――よかった!」

 あ、あぶねえ……そうかそういう問題だったのか。

それからご褒美、と言う様にハグされた。

 うっすい胸板に顔が埋まった……あれ、でもあの子よりあるわね! 多分AA……否、AからBの入口? 成長早くない? 母親《爆乳》の血かしら。

 香水をしない、少女のカホリ……浄化されるわあ……。

 そして猫のお腹みたいなほかほかの温かさ、これもグッド。

 咄嗟にこんなことを感じてしまう私自身の薄汚れた魂に、なんか泣きそう――

「……ぐすん」

 ていうか泣いた。

「もう、仕方ないんだから」

 ざくろは私を手放し、机の引き出しを開け、中から一枚の布地を取り出した。

 それは――

「――ちょっと前にリアと交換したのだけど」

 三角の布地。

 パンツ交換だと!? い、いつのまに……あの子が、この子の女児下着を穿いて『こんなの恥かしいよ……(汗)』とか……。

 となると――果たして一度でも穿いたものを交換したのかということが重要だ。

 現役ローティーンと永遠の17歳の御パンツ様のスワッピング(↓交換と言う意味)だ。

 十歳と十七歳で――サイズ合うのかしら。あの子劇的に細いから合いそう、私の鑑定眼スキルであってスキルではないからは可と出ている。

 それとも見た目買いしたら合わなくてプレゼントしたのかしら? この子も仲良しのからの交換で記念品扱い――友達から貰ったから捨てるに捨てられなかったのかしらね。

 でも、購入しただけで穿いていないそれならよくある。可愛い! 絶対欲しい! と思って買ったはいいけどちょっと可愛すぎて――家で冷静になる奴だ。

 ただ、私の場合――あの子に似合いそう、と思って思わず買っては穿かずにプレゼントしてそして恥ずかしがれ無理矢理着せようとして最後に嫌われるまでが一セットだ。

 でも、あの子の下着――

 それが目の前に、ぶら下がっている……。

「……」

「……」

 はっ、いけない、私の中の封印されし獣が舌舐め擦りをしてしまっている。

 私はもう改心したはず、反省したはず、だから、こんなものは欲しくなんか――

「――要る?」

「――頂きます!」

 ないんだからね!?

「……」

「……」

 あ。

「――ねえリリー」

 魔王様のお嬢様が、三日月の様に嗤っている。

 ぞくりと、股間に来た。

 なに、何なのこの圧倒的なオーラは――

「は、はい、何でございましょうか?」

 体が動かない。

 目の前を、三角の布地がゆらゆらと揺らめく。

 頭の中がぼやけて行く。

「……私の言うこと、聞く?」

「あ、あ、あああああ……」

 ダメよリリー、そっち行っちゃだめ。

 くっ、ま、まるで、体が、彼女に従えられたがっているかのように……て、ていこう、できない……。

 甘露を求めるように、私はその舌を突き出し、下からパクパクと口を開けた。彼女は何も言わずに私の顔の上に、三角の布地を落とした。

 はむはむはむ、ムシャムシャムシャ――

 あ、あああああああああああああああああああああああああ!!

 わた、わたしは……。

「……呑んだよね?」

 彼女の条件を、無条件にだ。

「ゆ、ゆるして……おねがい……」

「ううん、だーめ。これからリリーは、私の言うこと、ちゃーんと聞かなちゃ……ね?」

「あ、ま、まって、今のは間違い、何かの間違いなの!」

「じゃあまずはお仕置きからだね?」

「な、なにをするの、ねえなにをするの!」

「――して欲しいんでしょ? だってリリー……すっごい甘えん坊だもんね……」

 私の中に、昨日、最愛の人に甘え切った記憶がよみがえる。

「……ああ、あぁああぁああ」

 自分の醜い部分を全て曝け出して、怒られて、甘えて……優しくされて。

 至福の刻だった。

「――大丈夫、わたし、あのお父さんの娘だよ? ……だから、ね?」

 


 い、いや……いやああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――っ!



……わたしは、ニンゲンヲ辞めました。

 そう、ドレイになったんです。

 この小さなご主人様の、お馬さんに……。

 たくさんお仕置きされました。ええ、たとえソファーでも座り辛い位に……。

 でも、うまかったんです。気付いたら私、ご主人様にもっと、もっと!と仕置きを求めていました。

 ええ、感じました……この方は、間違いなくあの魔王様の血を色濃く継いでいると。

 あの物語は、フィクションではなかったのだと。

 

 そして私は、栄えある次期魔王軍・女王陛下の第一下僕となったのです。

 もう、二度と、悪いことはしません。

 

 ※彼女は普通にお仕置きされました。ただ、変態の主観である為いかがわしく見えているだけです。

  もう一度言います、彼女達は何一ついかがわしいことはしていません。


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