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銃口の先に見えた空

作者: 臣将汰

珍しくシリアス系のストーリーです。良ければ暇つぶしに読んで下さい。

 空が青い。雲も少ししかない。この空に思いを馳せたのはいつの頃だっただろう?


 地上には、あらゆる拘束がついて回る。重力、安心、欲望、そして人の心。それら全てを振り切り、断ち切り、空を自由に、縦横無尽に、駆けたい。


そしていつか、永久の空の彼方へ…………。



〓◆〓



〔四歳時〕


 いつからか、空に自由を求めた。俺は物心つき始めてからすぐに父親から色々な事を教えて貰っていた。そして四歳の時、ハイジャックによる事故で、親を亡くした。だが俺は復讐など欠片も考え告がず、空に憧れた。


 親を失ってから、とある《施設》に入れられた、そこは少年傭兵を育成する施設だった。俺は生きるため、いつか空を飛ぶため、足掻き続けた。



〓◆〓



〔六歳時〕


 《施設》のとある戦闘訓練室、設定はジャングル。四方、二百五十メートルの正方形で区切られた部屋に生い茂った木々が揺らめく、そういった設定にしてある。地面は土や泥濘などを完全再現している。《施設》にはこういう《ステージ》と呼ばれる一室が、いくつかあり、傭兵の戦闘訓練が行われる。《ステージ》には、いたる所に武器が隠してあり、それを使って殺すも良し、使わず殺しても良いのだ。《ステージ》に入れられたが最後、最後の一人になるまで出る事は出来ない。


 頭につけた《ヘッドアップディスプレイ》から電子音と情報が送られて来る。


『NO.81、出番だ。目標(ターゲット)はデータにある死刑囚だ。見つけ次第、目標を殺せ』


『了解しました』


 俺は言われるまま、命令されるまま、殺した。斬殺、刺殺、射殺、絞殺、撲殺、殴殺、圧殺、爆殺、虐殺、撲殺、滅殺、毒殺、落殺。あらゆる方法で殺してきた。


 そんな殺し合いの日々が続いたある日の事だった。



〓◆〓



 《ステージ》で、戦闘が終わると、同じ真っ白な部屋に入れられた。そこで俺は銀髪の女の子と出会った。


『あなた、遊ばないの?』


 女の子は、俺にそう語りかけてきた。


『遊べるわけ無いだろ。他の奴が何してるかは知らないが、俺のしてる事は人殺しだ。笑顔で、のうのうと生きる訳には行かないんだ』


 俺は父親の『人を殺すな』という言葉に背いた事を、思い出しながらそう冷たく言った。


『難しい言葉知ってるんだね。よく分からないや?』


『だろうな』


『でねでね。君ここで一番スゴイ子って聞いたよ?』


 話がかみ合ってこない。この子ひょっとして馬鹿だな?


『人殺しの才能を褒められてもうれしい訳ないだろ』


『そうかな? だって結果出したら、ご飯も美味しい物が出る様になるって、〝けんきゅういんさん〟が、言ってたよ?』


『結果なんてどうでもいい。俺は生きるために殺してる。ただそれだけだ』


『それって駄目な事なの?』


『知らん』


『? 分からない事なの?』


『ああ。その答えを俺はまだ知らん』


『君、本当に六歳?』


『六歳だが?』


『…………』


『…………』


 しばしの沈黙の後、銀髪の女の子は、俺に駄々をこねる様に抱きついた。


『もう何でもいいから遊ぼう! 遊ぼう! 遊ぼうよ!!』


『暑苦しい、暑苦しいからくっつくな! っていうか抱きつくな! 離れろ!』


『嫌だ、嫌だ、嫌だぁ――――――!!』


 俺は引っぺがそうとするが、力が強く、全然離れない。


『分かった。遊ぶ、遊ぶから、離れろ!』


『本当?』


『本当だ。だから離れろ』


 折れてため息をつきながらそう言うと、銀髪の女の子はジャンプして喜んだ。


『やった!』


『はぁ』


『ねぇ。私は《フィリィ》。あなたの名前は?』


 名前を聞いた時、俺は違和感を覚えた。なぜならこの施設で、自分の名を知っているのは俺だけの筈なのだから。


『お前に名前なんて無いだろう? お前のナンバーは?』


 この《施設》の子供は、名前の変わりに数字(ナンバー)を与えられている。研究者達は、口を揃えて俺の名前とまるで関係ない数字で、口々に呼んだ。あの感じは吐き気がするほど気持ち悪かった。だが、それを良しとしない限りこの世界では生き残れなかったから、我慢したのを良く覚えている。


『ん? 私のナンバー? 私のナンバーはね《No.50》だよ。でも。名前が欲しかったから自分で名前を考えたの。《フィフティ》の字を崩してフィリィ。いい名前でしょ?』


 そんな哀れな理由を聞いて、俺は更に気が滅入った。やってられないと思った。


しかし、それは俺が思っているだけで、この幼い子はまだ何も知らない。なら、そのままにしてあげよう。せめて幸せな時間を少しでもあげよう、そうまだ小さく幼い六歳の脳みそではそれを考えるのが限界だった。


『フィリィか。いい名前だな』


『でしょう? ねぇ? あなたの名前は?』


 俺は自分の名前を英語で言う事にした。


『俺は《クラウド》だ』



〓◆〓



〔十二歳時〕


 そして六年程、フィリィ達過ごし、《施設》の子供達に情がわくぐらい人間性を取り戻した、ある日の事だった。


『NO.81、今回の目標を表示する』


『…………ふ、フィリィ?』


『…………く、クラウド?』


『さあ、二人で殺し合え。生き残った物だけが生き延びられる。単純明快な此の世の審理さ。分かりやすいだろう? だから生きたいなら、相手を殺せ』


『『うぁぁぁぁぁぁぁああああああああっっっっっっ!!』』


 この日の戦闘を生涯忘れる事は無いだろう。


 俺はこの日、《フィリィ》をためらわず、生きるために殺した。その後、俺は《施設》の子供を、生きるために何人も手にかける事となる。一人、また一人と殺していく度、俺の中の何かが壊れる音が響いていたが、いつの間にかそんな音すら聞こえなくなっていた。



〓◆〓



〔十三歳時〕


 俺は、とうとう《施設》を抜け出し、五日間、飲まず食わずで、彷徨っていた。そんな時、近くを通りがかった六人の兵士達に見つかり、兵士の一人に英語で声をかけられた。


『おい、坊主。どうした? こんな所で、迷子か。親はどうした』


 生まれた頃から英語を聞いて育ったため、英語は自然に分かった。俺の黒髪だから、旅行中に迷子になったとでも思ったのだろう。随分親切な人だと、思った。だが、こんな所で、兵士に見つかったのだ。この兵士達を生かすわけにはいかない。俺が生きるために死んで貰う。


 そう思った瞬間、体は自然に動き、殺意は体のそこから剥き出しになった。俺の中にあった感情は一つ。《施設》にいた頃と同じ。


 殺す。それだけだった。静かな、されど濃い感情だった。


『俺に親はいない』


『はあ? 何を言って……』


そう呟いた後兵士の一人の顔面に、回し蹴りを食らわす。その兵士は虚を突かれたのか、ノーガードで、俺の蹴りを食らった。


『ぐあっ』


 俺の蹴りを食らった兵士は、壁に激突し動かなくなった。それを見た兵士の一人が殴りかかって来る。


『このガキ! マイクに何しやがる!』


 だが、俺はその拳をいなし、投げ飛ばす。投げ飛ばされた兵士は投げ飛ばされた拍子に、地面に頭をぶつけ気絶した。


それを見た残り四人の兵士の内、三人の兵士は機関銃(M16)やコンバットナイフを構える。


『おい、ガキ。その髪、その肌の色、黄色人(イエローモンキー)だな。大人しくしろ。そしてゆっくり手を上げるんだ』


 俺はそんな兵士の言葉に耳を貸さない。俺は兵士達の方に駆け出す。するとコンバットナイフを持った兵士が前に出てきたのでソイツから仕留める事にした。


 ナイフの構えは、兵士特有の構えだったので、弱点も理解している俺は、首を低くして、一気に間合いを詰め、兵士がナイフを構える右手の下に潜り込み、右手首を左手で下から掴み、更に右手で左手も掴み、動きを封じ、そのまま相手の手首を踏み台の様にして、飛び上がり、その両手首を離し、顔面をがっちり掴み、膝蹴りを食らわす。


 兵士は訳も分からず鼻血を、撒き散らしながら倒れた。


 俺はムクッと立ち上がり、駆け始め更に間合いを詰める。


『チッ! コイツは敵だ! ぶっ殺せ!』


 兵士の内、一人が舌打ちをする。舌打ちをした兵士と、もう一人の兵士が機関銃を俺に向かって撃ってくる。だが、弾が当たる前に、横に飛び、その後、飛び上がり、壁を蹴り、兵士の方へ突っ込む。兵士は俺の俊敏さに、付いて来れなかったのか、俺の接近に追い付けず、俺を顔で受け止める。よろけるはするが、倒れない。俺は顔をがっちり掴んだまま、兵士首に手刀を浴びせる。それで兵士は、崩れる様に気絶した。


『何なんだよ? お前は一体何だよ!』


 俺にそんな事を叫び、兵士は俺に向かって、機関銃を撃ってくる。馬鹿の一つ覚えだな。


『俺はただの人でなしだよ』


 俺はその男を一瞥し、跳躍し、兵士の頭に向かって踵落としを決めて、気絶させた。


 その光景を見ていた兵士は、顎に手を当て、フムフムと頷いていた。俺はその態度が気に入らなく、ついつい口を開く。


『あんた。なんで俺に攻撃を仕掛けてこない? 俺から売ったケンカだぞ』


 俺がそんな事を言うのが意外だったのか、兵士は目を大きく見開き、俺に返事をする。


『ああ。悪いかも知れないと思ったが、少し少年、お前の力を見ていた。その幼さで、その運動能力と戦闘能力、少年……《施設》の脱走者だな』


『ッ!!』


 俺は、自分の正体を見破られ動揺を隠せない。やはりこの兵士は俺の捕獲命令を受けて動いていた兵士の様だった。施設の存在は世間に秘匿されている。軍でも知られているのは、上層部の人間だけだ。こんな所に通りすがった一介の兵士が知ってる訳もないのだ。


『しかし、おかしい脱走者は《施設》の研究者は、逃亡時に百十七人殺した極悪人と聞いたのだが、私の部下は一人として殺していない。殺すタイミングはいつでもあったのに……何故だ?』


 それを聞いて俺はため息を一つ吐く。


『殺すつもりだよ。ただ、意識のある時に殺されるのは痛いだろ? あんた達は俺や施設の研究者と違って人間だ。そんな人達を残虐的に殺すのは違うだろ?』


 俺のそんな台詞を聞いてその兵士は、また首を傾げる。


『ん? それなら、少年や《施設》の研究者は人で無いなら、なんだと言うんだ?』


 その兵士の台詞を聞いて、俺はまたため息をつく。


『そんなの決まってるだろ。っていうか、さっきも言っただろ?』


『?』


『人でなし』


 俺のそんな言葉を聴くと、その兵士はニヤリと笑う。


『いいな。少年のその考え、実に私好みだ』


 いつの間にか、間合いに入られ、頬をなでられる。暗闇で分からなかったが、その兵士は女性だった。


『ッ!!』


 突然の事に驚き、飛び退く。


『そんなに驚く事では無いだろう? お前よりも強い人間など、ゴロゴロいるぞ。少年のように人間を捨てなくてもな』


『くっ!』


 女兵士に自分の生き方を否定された気がした。まあ、否定されて当然なのだが、頭では分かっていても、という奴である。そのとき、死んでいった《施設》の子供達やフィリィの顔が蘇り、その瞬間、俺の中の何かが切れる音がした。


気が付くと、俺は無我夢中で、飛び掛かった。


『うぁぁぁぁぁぁぁあああああああああっっっっっ!!』


 まるで死に急ぐかのように。


『ふむ。どうやら見込み違いだったか』


 しかし女兵士はいたく冷静で、俺の死を恐れない攻撃に、全く怯まず、むしろ蔑む様に見て返し回し蹴り(カウンターキック)を、俺の顔に叩き付け吹き飛ばす。まだ八歳の幼く軽い俺の体は、物凄い勢いで、建物のコンクリに体を叩き付けられた。


『がはっ!』


 別格だった。女兵士は俺の何倍も強かった。


 壁に叩き付けられた時、ゴキンッと、嫌な音がした。多分骨が何か所か、折れたのだろう。


『俺の生き方は間違ってる。そんな俺に希望は無い。なら…………死んだ方がマシなのか?』


 まるで自分に言い聞かせる様に、生気もなく呟く。


『おい少年』


 女兵士は俺の襟元を掴み上げる。


『そんなことで悩んでいるなら、殺してやろうか? 死ねば、そんな事に悩む事もなくなるぞ? 生きる苦しみを味わう事も無いぞ?』


 まるで悪魔の様に女兵士は呟いた。


 生きる苦しみが無い? この時の言葉はどれだけ甘美だっただろう? 生きるために俺は何人殺してきた? 一体俺は何の為にフィリィを、《施設》の子供を殺してきた?


 もはや生きる意味すら、いつの間にか見失った俺は自然と呟いていた。


『殺してくれ』


 それを聞いた女兵士は『やはり見込み違いだったか』と呟くと、俺を地面に落とす。


そして腰に持っていた銃を抜き、俺の目に突き付けた。引き金が引かれようとしたその時、銃口の先に、俺が見たことの無い、青空が見えた気がした。俺は生きる意味を思い出した。その瞬間、心の奥から。


《行け!》


 と聞き覚えのある元気な声が聞こえた気がした。


 すると体は勝手に動いていた。俺は銃弾をかわし、信じられない速度で女兵士の顔の横を飛び越え、すれ違い様に女兵士の頬を引っ掻いていた。


『はぁ、はぁ、はぁ、はぁ』


 俺は呼吸を荒げ前傾姿勢をとったまま、女兵士を睨んでいた。


『これは……ほう』


 その女兵士はというと自分の傷ついた頬を見るとニヤリと笑う。その不気味な笑みを見た俺は更に睨む。


『なんだよ』


『ん? ああ。少し私も高ぶってしまってな。ふふ。面白い、面白いぞ。少年。お前はとても面白い。やれば出来るじゃないか。今、お前が何を思ったのかは知らんが、やはり私の目に狂いはなかった』


 女兵士は笑いながら満足したように言う。


 傷ついて喜んでる…………。ひょっとしてこの人ヤバい人なんじゃ…………。ふとそう思った。


『なあ、少年。少年は人間を捨てたというが何を持って人間を捨てた?』


突然女兵士が切り出す。


『そんなの、人間性や理性に決まってるだろ。俺も今は普通に話して入られるが、こんなのは正直どうにでもなる』


 俺は元々余り話をしないタイプの人間だったが、《施設》の研究者に脳に干渉する機械を使われ若干の性格改変を行われていた。


『確かに、人間性や理性も人間の大事な一つの素養だ。だが、私から言わせて貰えば、人間に一番必要なものそれは、《目的》だ』


『《目的》…………』


 俺にそんなものあっただろうか? そう考える。


『そうだ。どんな生き物にだって《目的》がある。それは生きたいという気持ち、言うなれば生存欲だ。植物も動物も赤ん坊でさえ、そういう欲求がある。しかし、今の社会にいる連中や壊された者、心の折れた者、《目的》が無い人類全てが人間でないし、死ぬべきだと私は思っている。特に人間は欲張りな生き物だからな。《目的》があれば、それを達成するために生存欲強くなる。だから人が、人類が、人間であるには《目的》がいるのだ。少年がたとえ人間で無いと言おうと生きる《目的》があるならお前は人間だ。さて、少年、お前の生きる《目的》はなんだ?』


 すると、すっと何かが見えた気がした。

いつしか忘れてしまった、遠いあの日を、自らが生存し、自らの目で見ると決めたあの空を。思い出した。


『俺の生きる《目的》、それは《永久の空の彼方》へ行くことだ』


『あるじゃないか。生きる《目的》にしては充分だ。おめでとう。少年、お前は人間だ』


 女兵士はにっと笑い、俺に手を差し出した。俺はその手を取り、人間として歩み始める。


 この後、この二人が世界を揺るがす大戦争を起こすのだが、それはまた別の話。この話はここで幕を引くとしよう。


 世界の人間と、人間を目指す者に幸があらん事を。


これはあくまでプロローグです。

続きはまあ、気乗りしたら書くかもしれません。

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