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ABSOLUTEYE  作者: 703
魔神
7/12

奪還

-11月16日 AM7:20 レクト宅-


『総理は新しい政策が必要と述べ

力強い言動を終始崩さず…』


何か情報は流れていないかと

虱潰しらみつぶしに番組を変えるレクト。

しかし結果は案の定、突飛なニュースも無く

ABSOLUTEYEの情報隠蔽力じょうほういんぺいりょくが垣間見える。

今日も国民に人気の総理大臣から言葉があり

不安定な支社長生活が始まるのだ。



(本部からの指令も無い…

あれから一週間が経過したが

魔神は無事だろうか…)


何もする事が無いまま、熟考する。

黒包帯に遭遇してから今まで

事件という事件も無く、ただ

虚無的な時間を過ごす事が

逆に不安の種となっていた。




-時は遡り11月16日 AM7:00

ABSOLUTEYE本社-


「…。」


鉛色の壁に囲われた隔離室。

そこに一人、魔神は身を小さくし

座り込んでいた。見た目は樹海の時より

健康的になり、長い髪も切り揃えられ

年相応の衣服を身にまとっている。

室内も隔離室には違い無いが、日常的な

物資は取り揃えられており、生活に

不自由は無いとわかる。



『調子はどうですか?』


「…!」


テレビモニターが急に切り替わり

中性的な男性社員の一人が

魔神に声を掛ける。

実力者のスキュラであっても

魔神には近付けない為

こうして会わずに健康状態を確かめる。

朝、昼、晩の決まり事だ。


「あ、大丈夫です…」


『了解しました』


やりとりはすぐに終わり、テレビモニターも

消えて、再び室内は沈黙する。



-同時刻 本社屋上-


「終わったか?」


「ええ、変化はありませんでしたね」


「そうか」


先程、魔神に声を掛けていた社員は

科学者の様に白衣を見に纏っており

もう一人、スーツ姿で視線の鋭い社員と

屋上で肩を並べて立っている。

年齢は二人共、レクトより二つ位

年上という感じだ。二人は別に、ここへ

風に当たりに来たわけでも

景色を眺めたかったわけでも無い。



「ゴロゴロゴロ…ッ!」


「ボウウウウ…!」


突如現れた2人の黒包帯の

相手をする為に来たのだ。



「話には聞いていましたが

本当に不気味な感じですよね」


「だが、未来の障害になるのなら

この場でじ伏せなければな」


2人の眼光は緑と黄に輝き始める。

その光はレクト以上。本社でも

上層部を除いてトップの眼力である。



「ゴロゴロゴロッ!!」


“雷”-落合-


「ボウウウウッ!!」


“炎”-蒸弾-



「あの攻撃は私がなんとかしますから

ヴォイドさん、後はお願いします」


「わかった」


視界が塗り潰される程の炎と雷を見ながら

視線は逸らさず短く手順を交わし

更に眼光を強める二人。



-隔離室-


「ぐッ…あ…ッ」


屋上で戦いが始まると同時に、隔離室で

魔神が頭を抑え、苦悶の表情で喘ぐ。

その度に、特殊合金で造られた隔離室が震え

欠片がこぼれ始める。



『帰って…来い…私の…元に…』


「う…何…ッ…何なの…!?」


頭の中に直接、何者かの声が響く。

聞いた事が無いハズなのだが

初めてとは思えない引き合う声。


「…う…っ…」


徐々に意識が遠退き始め、身体が

意思と関係無く動き始める。



-屋上-


「ゴ…ロッ」


「ボ…ゥ」


身体の各所から火花が飛び散り

既に戦闘不能の黒包帯二人組。

…しかし



「シオ、これはどういう事だ…?」


「わかりません、ただ

こちらは囮だったという可能性が高いです」


突然、本社内にアラートが鳴り響き

非常事態、つまり魔神の脱走が告げられる。

屋上の二人も苦虫を噛み潰した顔で

無残に地下から穴が開いた本社を見下ろす。

魔神が隔離室を貫き飛び去ったのだ。



「…社長は?」


「通信が来ています…!」


問いとほぼ同時にシオの携帯電話に

社長からメールが入る。


-from 社長-

魔神の脱走を確認した。

私は表向きの仕事を片付けてから

必要に応じて処理を行う。

魔神は恐らく都心に向かうハズだ

お前達は社員を先導して、都心近くの

人々を避難と支社長レクトに魔神処理の

指示を出してくれ。

お前とヴォイドに無理をさせて悪かった。



「オレ達がいながら…情け無い…」


「落ち込んでも仕方無いです

社長の言う通りしましょう。私達も

まだ出来る事があります。」


「ああ…」


全壊した黒包帯を放置し、二人は急ぎ

司令室まで走る。



-11月16日 AM7:30 レクト宅-


-ジリリリリン!ジリリリリン!-


「!」


不意に鳴り響く古びた黒電話。

支社の電話番号を知っているのは

本社か役場くらいしかないので

どっちにしろ案件だという事を察する。



「…はい…!」


「支社長のレクトですか!?」


「ええ、そうです」


慌てた様子の本社スタッフの声に

いぶかしげな表情のレクト。


「非常事態です!本社で身柄を

捕らえていた魔神が逃亡しました!」


「な!?」


仰天し眼を丸くするレクト。

初めて魔神が本社に渡っていた事と

更に逃げ出したという事態に

二重の衝撃を受ける。


「それで…?オレにどうしろと?」


「社長より、魔神は都心へ向かう可能性が

高いとの意見がありました。

今現在、本社のスタッフ達が都心近くの

市民を避難させています。貴方は

今から魔神を追ってください。」


「了解!」


急ぎ身支度を整えるレクト。

この様な日が来ると薄々は勘付いていた為

気合いが入り、眼力もその分輝く。



-AM8:00 レクト宅→都心-


「ハッ!」


自身の専用オンロードバイク

TRICK・SHOT-Lが誇る跳躍力は凄まじく

レクトの意思に呼応し、最大で約300mの

ジャンプをする事が出来る。更に追加で

レクトが反射壁を展開する事で

更に空へと駆け上がる事も出来る。


「…ッ」


自身が住む町並みを見下ろしながら国道に

着地すると、全速力で都心を目指す。

…その時




「ザクザクザクザクッ!!」


「なッ…!?」


バイクに乗り全速力で駆ける

レクトの後方から新たな黒包帯が

異常な脚力で迫る。ほぼ確実に

自分を妨害に来たのだろう黒包帯は

そのまま、開いた左手を振り上げ

レクトに向かい振り下ろす。


“斬”-鉄断-


「ぐ…ぅ!」


からくも放たれた縦状の刃の如き衝撃波の

軌道から逸れる。だが、スピードが

緩んだ事で黒包帯は更に迫る。その

位置関係は、ほぼ並列で状況は悪化。


「ザクッ!!ザクザクッ!!」


追撃を緩めない黒包帯は刃物の様に

鋭い両手で側面からレクトを

斬り裂こうと迫る。


「ッ…!」


“反射”-弾圧-


「ザククッ…!」


黒包帯の胴体に反射の弾丸が着弾。

全速力で突撃して来た黒包帯に対して

威力は高く直撃を受けた黒包帯は

体勢を崩し、路上を転げ回る。



「はぁ…」


倒せてはいないが、黒包帯との距離をとり

やや安堵した溜息が漏れる。

…しかし



「…まさか…ッ!?」


転げ回り、既に200mは離れた黒包帯

しかし、異眼で確認すると転がった地点から

移動はしていないが、包帯から見える

左眼が薄黒く輝き始め、両掌りょうてのひらを合わせて

思い切り地面に垂直に振り上げる。



「マズいッ!」


レクトはそれを見やると視線を前に戻し

脇眼も振らずに全速力で走る。

…次の瞬間



「ザザザクククッ!!」


“斬”-山割-



「ぐうぅ…ッ!!」


案の定、合わせた両掌を地面に叩き付け

国道が罅割れる。それはコンクリートの

つぶてを噴水の様に吹き上がらせ、レクトの

位置など関係無しに周囲一帯を斬り裂く。



「はぁ…ッ」


何とか地割れが届く寸前に地面から

空へと飛び上がったレクト。

見下ろすと無残な道路が広がり

思わず背筋が凍りつく。


「ザクッザクッ!!」


“斬”-鳥落-


黒包帯は飛び上がったレクトを見ると

撃ち落そうと執拗しつように両手から

連続で刃状の衝撃波を放つ。



「フッ!」


“反射”-返壁-



「ザククッ!?」


しかし、反射壁を展開され

飛ばした衝撃波は全て跳ね返される。

その中には、黒包帯本人の元へ

跳ね返された衝撃波もあった。

…そして


「ゼアッ!!」


そのまま反射壁をジャンプ台にし

飛び上がると黒包帯の地点まで突撃。



「ザ…ク…ッ」


既に返された衝撃波が何発か当たっており

防ぐ術が無かった黒包帯はバイクの重量を

まともに受け仰向けで潰される。



「くッ…」


黒包帯を打倒したレクトだが、表情は

苦々しい。黒包帯を潰す為に空中で

引き返した為、決壊した道路の手前まで

舞い戻ってしまったのだ。



(最短距離を封鎖されたか…)


TRICK・SHOT-Lにはジャンプ機能があるが

助走が無ければ期待はできない。


(仕方が無い…遠回りになるが

引き返して山道を進もう…)


焦燥が胸に溢れ、深い溜息が出るが

背に腹は変えられずバイクをひるがえ

来た道を引き返す。

…しかし




「ヒュー…!」


「ブシュ…」


「フーッ!」


引き返した道の先に、次なる脅威は

確実に近付いていた。

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