異常
-11月8日 AM7:40 レクト宅-
「魔神は合仙岳の麓にある教会から
直線距離で200mの地点にいます。
ですが、生半可なスキュラでは
毒気で致命的なダメージを受けます
注意してください。あと…」
『その口振りだと、未来から
戻って来たというのは本当らしいな』
「…ええ」
社長から電話が掛かり、話すレクト。
変な話だが、現在起きている事でも
体感的には一昨日にあった事である。
『お前の話を信じるなら
魔神は、人間にとって悪意を
持っているわけでは無いという事か…』
「はい、見た限りは…魔神は
強靭な力を確かに持っています。でも…」
『…なるほど
言いたい事はわかった』
レクトの話を聞き終わる前に
意見を理解し、言葉を返す。
「オレは…どうすればいいですか?
また、魔神の場所まで…」
『いや、その必要は無い
場所がわかっているなら
こちらで対処する。お前は自分の町を
精一杯に守ってくれ』
「了解…」
少々、腑に落ちない様子だが
本社の意見を肯定し頷く。
『何か不備があった場合、改めて連絡する』
社長がそう言うと通信が切れた為
レクトは受話器を置き、ソファに深く座る。
(オレに一体何があった…)
いくら思い返そうとしても
手掛かりすら出てこない。
謎の集団のリーダー格に腹部を貫かれてから
それ以降の記憶が一切無いのだ。
「クッ…」
思い出すだけで身体が震える死の体感。
魔神の毒気に圧されていたとはいえ
レクトは、あの2人に瞬殺された。
また、再び謎の集団との戦いになるかと
考える度に不安が頭を駆け巡る。
(死ぬ事を考えては駄目だ…
とにかく、過去に戻ったのなら
また、HOPPERと翼が立ち塞がるハズだ…
ヤツ等の実力はもう把握している
…恐れるには足らない…!!)
-同日 PM6:30 公園-
“反射”-緑蹴-
「ゼアァッ!!」
「ぐわああぁぁ!!」
夕日が照らす公園でHOPPERに
出会った瞬間に強靭な一撃を決める。
謎の集団の影が焦りを生み、冷静さを
欠いたレクトは手加減を知らない。
「悪く思うな…!
遅かれ早かれ、お前はオレには
勝てなかったんだからな…!」
初戦の結末の様に、吹き飛んだHOPPER。
それを背にレクトは呟く。
戦いでは一撃も受けていないが、息は荒い。
-翌日11月9日 AM8:20 レクト宅-
「ぐ…ぁッ」
突然の衝撃に失神する翼。
レクトに相談する為、扉を開いた直後
頭部を殴打され俯せで倒れる。
「…。」
それを当然の様に見つめるレクト。
翼が犯人だとわかっていての行為だが
行動自体が常軌を逸しており
普段の落ち着いた雰囲気は今や
焦りの色に変わっている。
「さぁ、行くか…」
翼を縄で拘束し、浜辺に捨てると
自らのバイクに乗り込み合仙岳を目指す。
教祖の事件を終わらせる為、そして
再び、魔人の元へ行く為に。
-11月9日AM9:20 合仙岳麓の教会-
「フッ!!」
“反射”-弾圧-
「うおぁぁッ!?」
レクトの進撃は止まらない。
既に経験している相手の力など
恐るるに足りない様子で、電光石火の一撃を
気付かれる前に放ち、教祖を打倒。
「よし…」
これで、任務は全てクリア。
ターゲットを根刮ぎ打ち倒した為
自分の予定を捩込む事ができる
という安堵の溜息が漏れ出る。
…だが、その時
「ジィ…」
「ッ!!」
突如、背筋が凍り、戦慄が身体を駆ける。
自分の背後から少し離れた所に
記憶には無いハズの嫌な気配が流れている。
それが呟くような声を出したのだ。
「…ッ」
獣の如く素早く背後を見回すレクト。
…すると
「ジィーーーッ」
「まさか…ッ」
走馬灯の様に頭を流れる記憶の波。
自分の視界が捉えたソレは、今や
悪夢にもなりつつある謎の黒い者。
「ジィー…ッ」
相変わらず、左眼以外は黒い包帯で巻かれ
こちらを、凝視している。
しかし、見た限りレクトを殺した
者では無い。何かソレに似た者だと
誰の眼にも見て取れる。
「クッ…」
見たくもない者の姿にたじろぎ
一歩、後退する。
…その時
「ジィッ!!」
レクトの恐れに感づいたのか、途端に
凄まじい跳躍力でレクトに肉迫する。
「ッ…!」
“反射”-返壁-
「ジィィッ!」
間髪入れずに、レクトは反射壁を展開。
本来のレクトならば、相手の肉迫に合わせ
カウンターの蹴撃を喰らわせるところだが
焦りで弱腰になりつつあるレクトは
保守的は行動を取らざるを得なかった。
「ジィ…」
反射壁により吹き飛ばされつつも
受け身を取り着地する黒包帯。
相変わらず、言葉らしい言葉も発しず
ただ、レクトを凝視している。
(何なんだコイツは…
前に会ったヤツとは違う…だが
何にしても…こんな所で
手間を取らされてる場合じゃない…!)
“反射”-返壁-
「はッ!」
背後に設置した反射壁を蹴り飛ばし
先程とは逆に黒包帯に突撃する。
反射壁を蹴ってのスピードは凄まじく
ただの体当たりであっても時速60kmを
超える激突となる。
…だが
「ジィ…」
“似”-返壁-
「なッ…!?」
突然の展開に我が眼を疑うレクト。
自分が飛び込んだ先に、自らのスキル
反射の壁が現れ、立ち塞がったのだ。
「ぐは…ぁッ!!」
衝突した衝撃と激突を跳ね返された力が
同時に割れる様な痛みで襲い掛かる。
強固な岩壁に自分から
全速力で体当たりした様なものだ。
意識が飛ぶまでには至らなかったが
昏倒し血反吐が山の落ち葉を赤くする。
「ッ…まさ…か…」
地に膝を付き、自分でも判断が付かない
感情が溢れた眼で黒包帯を見やる。
「ジィー…」
黒包帯の方はレクトの気持ちなど
意に介さない様子で、妙な鳴き声を
繰り返し出している。
「ナメや…がって…ッ!」
身体を軋ませつつも何とか立ち上がり
黒包帯を睨み付ける。しかし精神と
身体の消耗は眼力にも支障を出し、今では
緑の眼光も弱々しく点滅を始めている。
「ジィッ!」
「がぁ…ッ」
そんな好機を逃すハズ無く、黒包帯は
走り来るとレクトの腹部に痛烈な
右脚の前蹴りを繰り出す。その威力に
レクトの上体が仰け反り、倒れ込み
山肌を転がって呻く。
(強い…!ここまでとは…ッ)
魔神の毒気というハンデも無い状態で
これ程の差を付けられた事が予想外で
思わず弱音が心に漏れ出す。
「ジ…ッ」
「く…ぁ」
屈辱を感じるレクトの頭を右手で
掴み上げる黒包帯。その握力・腕力共に
凄まじく、レクトと変わらない背丈でも
人間離れした力を持つ事がわかる。
「ジィーーーッ!」
自らの視線まで右手でレクトを上げ
残った左手を握り、顔面に向かい突き出す。
こんな状況になれば誰でもわかる。
トドメを刺すつもりだ。
…だが、その時
「ガッ…ぐぅううああアアッ!!」
“反射”-緑蹴-
「ジッ!?ジガガッ!!」
黒包帯の拳が衝突すると同時にレクトも
両脚で、あらん限りの眼力を注ぎ込み
黒包帯の胴を蹴り続ける。
相手の攻撃にカウンターしたわけでは無い。
ただ、死にたくないという本能のまま
醜く、暴力的な悪足掻きである。
「ジガッ!?ジージガガ…ガッ!!」
レクトの渾身の足掻きにショートした
機械の様に身体から火花が飛ぶ黒包帯は
レクトを離し、両手を前に突き出したまま
数歩、後ろ歩きをし、一時停止する。
「がッ…ぐッ…はぁ…はぁ…ッ…」
レクトの方も殴られた右頬を押さえ
倒れ込んだまま、呻き声を上げる。
「くッ…フぅぅ…ッ」
だが、最後の力を振り絞り
全身に力を入れ立ち上がる。
相手の擬似的な反射で左半身
先程の一撃で右頭部が損傷し、もう
策を考える力も実行する力も無いが
とにかく相手を凝視し身体に力を込める。
「ジッ…ジーッ!!」
黒包帯も火花を散らしたままだが
再び向き直り、唯一包帯から出ている
左眼を輝かせる。
…そして
「ジジィーーッ!!」
“似”-緑蹴-
左脚に薄黒い光を溜め
自身に放たれた技を擬似発動。
反射力が溜まった左脚で地面を蹴り
レクトに飛び蹴りを放つ。
「グッ…オオオッ!!」
“反射”-緑蹴-
レクトもそれに呼応し、左脚に
輝く緑の反射力を集中。黒包帯に向かい
地面を蹴り、飛ぶ。
「ジィーーーッ!!」
「ゼァァァアアッ!!」
左脚を真っ直ぐに伸ばし、胴を狙う
黒包帯に対し、レクトは左脚を曲げると
迫る黒包帯の左脚にワザと当て
そのまま思い切り蹴り飛ばす。
…そして
「ラアアァアッ!!」
相手の攻撃を吸い込んで跳ね返す反射。
レクトの蹴撃は黒包帯の蹴撃を吸収し
自らの力を上乗せした破壊力で返す。
「ジッ…ジジ…ジィーー…」
左脚が無残に捥ぎ取れ
立つ事も困難になった黒包帯は
残った右脚と両手で地面に這い蹲り
眼前に立つレクトに頭を垂れる。
「やっと…終わりだな…」
「ジ…!」
レクトが息も絶え絶えで呟くと
緑光が輝く左脚が、最後まで凝視する
黒包帯の頭を薙ぎ、遂に決着。
「はぁ…はぁ…ッ」
黒包帯の最後を見ると、眼を閉じて
その場に倒れ込むレクト。
身体の各所から出血し瀕死だが
そんな事も意に介さず、徐々に意識が遠退き
知らず識らずの内に眠り始めた。
-AM11:30-
「くッ…!」
眠りから急に現実に引き戻す苦痛。
死闘の記憶が蘇り、レクトの表情が歪む。
「なんだ…コレ…」
朦朧とした意識の中で、自分の身体を見ると
丁寧に白い包帯が身体中の傷口に巻かれ
傷の処置が行われていた。
「誰が…?」
突然の事態に困惑するレクト。
…さらに
「黒包帯がいない…!?」
意識が飛ぶ前まで確かにいた黒包帯が
忽然と姿を消す。しかし、山中には
足跡も無く、行方は知れない。
「くッ…」
疑問は各所に残るが、本来の目的を果たす為
自らに鞭打ち、身体を軋ませながら立つ。
(魔神…今、行く…)
本来の自分は明日、魔神の散策に行く予定で
今、魔神の元に行けば、自分を殺した
謎の黒包帯の集団と会わずに済む。
…だが、しかし
-AM11:35 合仙岳-
「なぜ…!?」
そこに魔神の姿は無い。ただ、罅割れた
荒野が広がっているのみである。
-同時刻 ABSOLUTEYE本社-
「ご苦労だったな」
地下に備えた厳重な部屋で
帰って来た者に対して
労いの言葉をかけるスーツ姿の社長。
「余計な物も拾って来たがな」
両肩に一人づつ人型のモノを掛けた女性が
右肩のモノを地面に落とす。
「ヤツも奪われた我が子を奪い返そうと
必死なのだろうな」
地面に落とされたモノは先程まで
レクトと死闘を繰り広げた黒包帯。
それを冷淡な眼差しで女性は見やる。
「ああ、別々の場所で更に5体が現れた
まぁ…その場に居合わせたスキュラに
全滅されたようだがな」
「そんな離れた所に放って何になる」
「力を把握したいのだろうな…
私達が選んだ子達がどれ程のものか」
微笑を浮かべる社長は
強い力が垣間見える眼で天を見る。
「ヤツの標的にされれば危険だぞ
現に、戦ったスキュラ達も全員が満身創痍
私も1人見て来たが、まだまだ
本人の力は欠けている」
「大丈夫だ。少なくとも今は
魔神を使っての破壊活動が目的。
他に手を出したりはしないだろう
…首を突っ込まなければな」
「…。」
社長の言い分に納得した様で
左肩に担いだモノを丁寧に寝かせる。
「…だから、その子は厳重に守らないとな」
写真の眼に寝かされたモノが映る。
それは紛れも無く、今レクトが探している
魔神であった。
「そうだな…」
女性も優しく意識の無い魔神の
頭を撫でると呟く。
…すると
「副社長、お時間よろしいでしょうか?」
「ああ」
室外から社員の呼ぶ声が聞こえ
女性は立ち上がると扉に向かう。
「こっちは私に任せろ」
社長の声が歩く副社長の背中に当たる。
「頼んだぞ」
それに反応し鋭い視線を社長に返すと
重々しい扉を開け退室する。
「さて…あとはレクトがどうするかだな」
期待半分心配半分で自分が気に掛けた
スキュラを思う社長。
-合仙岳 帰り道-
「…。」
今回は一先ず引き返す。
心の痼り、魔神への思いが残ったまま。