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ABSOLUTEYE  作者: 703
魔神
5/12

交錯

-AM10:00 合仙岳-


「ボクに…何かスルの…?」


「…ッ」


幼い子供の様に屈託のない口調で

レクトに問い掛ける魔神。だが、そんな

邪気の無い態度でも、その身体から吹き出る

毒の様な気配はレクトであっても

恐怖を感じる程の力があった。



「…お前に、何かする気は無い…

…一つ聞きたいんだが、オレの前に

誰か…ここに来なかったか…?」


あくまで今は、教祖の一件を

解決するのが目的。魔神については

発見のみで、本社の要望には

応えられている。



「…あ、来たよ。一人、変なおじさんが」


「そいつは、どこに…?」


「…消えちゃった…」


「…ッ」


ある意味、案の定な答えに

レクトの口の動きが止まる。今の状況下で

教祖が消えた有力な理由は一つしか無い。



「…お前が消したのか?」


「違うよ!!」


「ぐあぁあ…ッ!!」


魔神が声を荒げると、周囲の毒気が

更に高まり、余りの力でレクトの口から

血が漏れ出す。



「あ…ッ、ごめん!…なさい…」


「はぁ…いや、オレが軽率過ぎた…」


「…でも、ボクが原因っていうのは

多分、間違ってないんだ…

わざとじゃ無いよ…!?そう、わざとじゃ

無いけど…ボクの周りの命は消えていくんだ

…キミが初めてだよ。こんなに長く

話ができた人は…」


「…そうか」


魔神が悲しそうに微笑を浮かべ

レクトに語る。レクトもここに来て

魔神は名ばかりで、眼の前にいる者は

本来、無害な存在である事を理解する。



「…ところで、キミの名前はなに?」


「オレは…レクト。スキュラで…

ABSOLUTEYEの…支社長だ」


毒気に苦しみつつも、朗らかに

自身の名を語る。


「ABSOLUTEYEのレクト…か

うん…ありがとう、レクト

初めて誰かと話ができて嬉しかった…」


「お前…」


「さぁ…もう、帰ったほうがいいよ

キミは絶対に、消えて欲しくないから…」


レクトに向かい手を振り、笑顔で

去るように言う。


「魔神、オレは…」



…その時



「ハッケン…」


「な…ッ!」


「レクト!!」


不意にレクトの背中に衝撃が走る。

反射の膜により、油断していたとはいえ

防御はしていたが、前のめりに揺らめく。


(誰だ…!?)


すぐに体勢を整えると、背後を見やる。

…そこには



Xエックス、ハッケン…」


「タイショウガイ、リョクガン、1タイ」


不気味な集団がレクトと魔神を

ゆっくりと見定めている。おそらく

この集団のリーダーであろう手前の2人は

全身が黒尽くめで、顔も左眼以外は全て

黒い包帯の様なもので巻かれ

ミイラを髣髴ほうふつとさせる。後ろに控える

十数名の黒尽くめは口以外が

黒い包帯で巻かれており、現れている口は

獣の様に、鋭い牙を生やしている。



「何なんだ…コイツ等は…!?」


異眼で見ても判断がつかない。

人間でもスキュラでも無い謎の集団と言う他

伝える方法は無かった。

…すると



「リョクガン1タイ、ハイジョ」


「ガオアアッ!!」


リーダー格の合図によって

黒尽くめの獣人がレクトに飛び掛かる。

口以外、全てが包帯で巻かれているハズだが

まるで見えているかの如く、突進する。



「ッ…」


“反射”-返壁-


「ゴガァァッ!?」


しかし、愚直な突進はレクトに通じず

現れた反射壁によって跳ね返され

自分達の背後の、生い茂った木々に

獣人達は身体を打ち付ける。

…だが



「グクゥゥ…!!」


獣人達は、起き上がり唸り声を上げる。

中には、衝撃で腕や足を折った者もいるが

それらも、何事も無かったかの様に

折れた部分を引きり、立ち上がる。



(コイツ等…痛覚が無いのか…!?)


獣人達の行動をいぶかしげに見る。

通常、スキュラは相手の眼を通し

そこから考えや力量を測る事ができる。

しかし、獣人達は口以外が見えない為

考えや力量を探る事ができないのだ。


(それにコイツ等…浜辺に出て来た

人工限界に似ている…。

アイツと同じ人工生物か…)


数日前に現れた謎の人工限界。

よく見れば、口元や爪の凶暴さは

酷似している。



「グガアアァッ!!」


レクトの思考を阻み、再び飛び掛かる。



(今、無駄に時間を

消費するわけにはいかない…!)


“反射”-返檻へんかん-


「グギギガッ!?」


レクトの放った緑光の立方体。

それは獣人達を囲い込み行動を制限する。


「ガカァッ!!」


檻を破壊しようと爪を伸ばす獣人達。

しかし、反射の力を持つ檻は

攻撃を弾き飛ばし、寄せ付けない。



「ッ!!」


獣人達を辛くも行動不能にし

安堵したのも束の間。リーダー格2人は

レクトを無視し、魔神に近付いていた。



(ヤツ等、なぜ

魔神の気配に圧されない…!?)


レクトでさえ最大限に眼力を出さなければ

立っていられなかった魔神の毒気。

しかし、黒尽くめの2人はそんな事を

意に介さず魔神に迫る。



「ハッ!」


“反射”-弾圧-


猛禽の翼をも弾き飛ばす反射の弾丸。

しかし、魔神の毒気に圧され

2人に届く前に煙となり消える。

…しかし



「ぐうぅッ!!」


猛然と2人に向かい走り出すレクト。

その眼光は、森を照らす程に輝いていた。

しかし、いくら眼力を出しても

魔神に近付けば近付く程、毒気が身体をむしば

口や眼から赤い血が流れ出る。



「レクト!!こっちに来ちゃダメだ!!

ボクはいい、早く逃げて!!」


その姿を見て叫ぶ様に呼び掛ける魔神。

自らも、不慣れな足取りで距離を空けようと

もがいている。



「馬鹿な事を言うな!!

お前がどんな存在でも…!こんな所で

独りでいるヤツを…オレは見過ごせない…!

お前を…終わらせたくない!!」



「レクト…」



「どうなっても…何があったとしても…

お前はオレが救ってやる!…だから」


満身創痍の状態で、手を伸ばすレクト。

…だが



「…コウソク」


“捕縛”-蛇呪じゃじゅ-


「…ハイジョ」


“粉砕”-壊壁かいへき-



レクトに絡み付く黒い包帯。そして

その刹那せつなに打ち込まれる無慈悲な拳。



「…ヵ…ぁ…っ…」


冷たくなっていくのがわかる。

鳩尾みぞおちから脊髄せきずいにあった身体のものが

全て貫かれて体内に無い。

眼の輝きも、回線が切れた様に消えていく。

もう、レクトは生きていない。

ただ、ぐったりと仰向けに冷たい地面に

身を委ねる。






-PM0:00 レクト宅-


「は…ッ!!」


頭の中の記憶が整理できない。

見慣れたハズの自分の家が

まるで夢の様に見える。

確かに、レクトは樹海で死んだ。

しかし、今は生きている。



「魔神!魔神はッ!?」


我を忘れ、ベッドから転げ落ち

辺りを必死に見る。しかし

そこは何の変哲も無い自分の家。

合仙岳の樹海に似た要素は無い。

…そして



「11月…7日…!?」


机に乗っている小さいカレンダー。

日の終わりにはいつもバツ印をつけているが

それが6日で終わっている。

…つまり




「オレは…過去に戻ってきた…!?」


運命の歯車は、この瞬間

大きく狂い始めた。

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