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ABSOLUTEYE  作者: 703
魔神
2/12

飛蝗

11月8日


-AM6:30 レクト宅-


家といっても雨風を防げる程度のプレハブの小屋。

砂浜に建っているせいで室内にも浜の砂が

散乱している。四畳半の内装は、ベッドとソファが

大きくスペースを狭め、その間に置かれた

テーブルには黒電話とラジオ。更に

本社から送られてきた紙資料が乱雑に並び

良く言えば簡素なレイアウトと言える。



「…こんなところか」


そして、等のレクトは寒い中

Tシャツジーパン姿で浜辺のゴミ拾いを

朝早く開始。普段の活動の他に

地域のボランティアグループに協力して、

慈善活動の見返りに食べ物を恵んで貰っている。

到底、今時の年頃の若者の姿では無い。



-AM7:30 ゴミ回収所-


「今日は少なかったな…。

…まぁ、良いことなのだろうな」


ゴミ用のポリ袋を片手で回収所に置き

手を払いながら、帰り道を進む。

途中、街の高校生達と擦れ違うが

レクトはこの街の高校には通っていないため

軽く朝の挨拶をしただけで関わりは終わる。



-AM7:40 レクト宅-


朝の仕事を終え、玄関前の食料品を受け取り

適当に朝食を作ると一段落しテーブルの上の

紙資料に眼を通す。

…すると。



-ジリリリリン!!ジリリリリン!!-



「はい、笑見町支社です」


古びた黒電話が悲鳴のような音を上げ

電話が来た事をレクトに告げる。

レクトは慣れた手つきで受話器を取ると

その辺にあったボールペンを手に取り

紙資料を裏にして電話が来た時間を書く。

しかし、ペンが擦り切れていたため

一旦、紙の隅の方でペンを擦る。



「レクトか?」


「はい、オレしかいません。

どちら様でしょうか?」


「本社の社長なのだが」


「…!!」


相手の答えに一瞬、手が硬直する。

レクトは会った事が無く、声しか

わからないが、社長と名乗る相手は

二十代後半ぐらいの決して老いたような

声ではなかった。というか、どこかで

聞いた事のある声だった。



「レクト、お前に折り入って指令がある

急がなくて良いが、心して聞いてくれ」


「はい」


とりあえず、紙に〝重要指令〟と書く。


「お前の町から約30km離れた

合仙岳の樹海に魔神という者がいる。

細かい場所は行けばわかると思うが…」


「討伐が目的ですか?」


顔色を変えず、魔神と書いた紙に

×印を書き足す…しかし。



「いや、お前では無理だ

見つけ次第、本社に連絡をしてくれ

その後の事はこちらで対処する」


「こっちも予定が詰まっていますが

なるべく早く対処します」


「ああ、支社の一番の使命は

自分の町を守る事だ。それは

第一に考えて行動してくれ

では、頼むぞ」


「了解」


レクトが返事をすると、互いは通話を終える

日差しが大きな窓から差し込み

ABSOLUTEYE社長は外の景色を見ると

深く溜息を吐く…すると



「レクトが心配か?」


社長室の扉を背もたれにし

漆黒のローブを着た上層部と思われる

一人の女性が社長に冷笑を送る。



「心配はしていない。レクトにしか

これはできないからな」


「そうか、まぁ…次のプロジェクトには

レクトも参加せざるおえない

ここで名を上げてくれれば助かるな」


社員名簿を見ながら女性は呟く。

何人かの社員には色別に付箋が付けられ

レクトのページにも、それは

付けられていた。




-AM10:00 レクト宅-


魔神詮索の指令が入ったレクトだが

合仙岳に行く様子は見せず

資料を2枚テーブルに出し、見比べていた。

どちらも今、笑見町を騒がせている

特殊な事件の資料である。

こういった事件資料は本社や

警察の独自機関から支社に送られる。

仕事をこなせば相応の謝礼が入るため

言わば、平和と賞金稼ぎを

同時に行うようなものである。



人外事件No.36 rankC

夜な夜な、殺人犯や車上荒らし等々

世間的に悪と思われる人間を次々に襲撃する

人間とは思われない謎の犯人!

やっている事は、一概に悪いとは言えないが

相手に対して容赦が無く、

既に死者も何人か出ている。

急に現れ、急に消える事から

一部でも都市伝説になりつつある。


人外事件No.37 rankB

急に空から降る人間や物体!

当初は自殺かと思われたが、後の調査から

その点は否定され、手掛かりも無く

迷宮入りに。



(正体不明の独善的ライダーと

空から人や物が降ってくる怪奇現象…か)


資料を見る限りどちらも

人間業とは思えない事件で

嫌な感じが伝わってくる。

…そして



「楽な方から終わらせるか…」


落下事件の資料をテーブルに置き

独善者の資料をゴミ箱に捨て

ソファで横になり眠りに入る。

警察でも無いレクトが町に出て

聞き込みをするのは逆に目立つし

犯人に警戒される恐れがある。

よって、ABSOLUTEYEは待ち伏せか

現行犯で相手と対峙するのが

常識になりつつある。そんなに

都合良く犯人と遭遇できるかと思われるが

それ相応の自信があっての行動である。




-PM6:30 公園-


冬場は日の光が早く沈み

6時を過ぎた時点で、既に辺りは

街灯の光が目立つようになっていた。

笑見町は比較的温和な人間が多く

そのお陰で新参者にも優しく接してくれる

まさに笑顔が見える町である。

しかし反面、そう言った人々を狙う

やからは後を絶たない。この公園も

普段は親子連れで賑わっているが

夜になれば危険薬物を売り歩く売人が

闊歩しており今現在、押し売りで

男子高校生2人に使用されようとしていた。

…しかし



「トォアッ!!」


「ガカァ…ッ!!」


突如として、暗い公園に赤い眼光が煌き

売人の体勢が悲鳴を上げて揺らいだ。

よく見ると首の後ろの骨が曲がっており

今まさに、何者かに蹴られた事がわかる。

男子高校生2人は状況の判断をせず

売人が倒れると一目散に逃げ出した。



「今日も悪が蔓延はびこっているな…!!

許さん、私が一人残らず叩き潰す!!」


腕を振り上げ決意を表す赤い眼光の男。

見た限り、年齢は20代前半。赤いマフラーを

なびかせ黒緑色のライダースーツを

着た姿は、どことなくヒーローのように

見えなくも無い。彼こそが今、ちまた

賑わせている怪奇な悪の処刑人である。



「悪を潰す事は悪い事じゃないが

…限度があるんじゃないか?」


すると、待ち伏せていたかのように

男の背後の林から現れるレクト。

寝起きのようで欠伸あくびが漏れる。



「…何者だ!?」


視線だけ振り返り、レクトの様子を伺う。



「ABSOLUTEYE支社長レクト

人外事件解決のため、ABSOLUTEYEの

名の元、これよりお前に処罰を下す」


会社で取り決めてある挨拶をすると

左手を前に出し構える。


「ABSOLUTEYE…?

知らんな、だが名乗りを返さぬわけにも

いくまい。覚えておけ、オレの名は

HOPPERホッパー!!悪の処刑人だ!!」



(よくデカイ声で言えるな…)



表情には出さないが、心の底で呟いた。



「貴様も見た限り、人間では無いな?

ならば、〝スキュラ〟同士の戦いとなる

その覚悟はあるか?」


腰を落とし両手を広げ

戦闘態勢に入るHOPPER。更に、左眼は

赤々と燃えるように輝き始めていた。



「ああ。お前みたいな違法スキュラを

取り締まるのがABSOLUTEYEだからな」


HOPPERの気に触発され、レクトの左眼も

昨日のように緑に輝く。

レクト達のように外見は人間と同じ

姿をしているが、左眼に特殊な力を持つ者を

霊長類スキュラ科と呼ぶ。保有する力は

個人により差異があり、一人一人が

開眼した瞬間から常人では有り得ない

眼力を発生させる。



「オレの力に着いて来られるかッ!?」


HOPPERの左眼が更に煌めくと

両脚に掛け、血液の様に赤い眼力が流れる。

…そして


「ハァッ!!」


両脚は人間の脚から逆関節の形へと姿を変え

凄まじい跳躍力で地面に垂直に跳ぶ。

その姿はまさに名の如く…


飛蝗バッタ


「せめて一撃で楽にさせてやろう!」


HOPPERは上空で半回転すると宙を蹴る


「フッ!!」


そして加速を加え落下

錐揉み状に回転するとレクトに向け

飛び蹴りを放つ

…しかし



「…!」


レクトの左眼が輝くと眼前にクリアな

緑色をした八角形の防御壁が出現

HOPPERの飛び蹴りと衝突し火花を散らす。

…そして



「ぐっ…!!」


飛び蹴りの威力が下がっていくと

防御壁の圧力に負け後方へ弾かれる。



「仮に今のが全力なら、お前は

オレには勝てない。大人しく投降しろ

…これまでの考えを悔い改め

スキュラの常識を持って生きると誓えば

罰は軽くなるはずだ」


左眼を元に戻し、諭すように言う。

見た限り、現在レクトに戦う意思は無い。



「正義に降参は無い!!

オレは悪人を滅し平和を創る義務がある!!

貴様の要求は飲まん!!」


レクトの言葉を払いのけ

自身の正義を叫ぶHOPPER。

辺りは日の残光も消え、人の気配も無く

完全に静まり返っていた。



「そうか…」


HOPPERの答えに残念そうに呟き

ゆっくりと眼を閉じる

…そして



「今のがオレからの

最終警告だったんだがな…!!」



語気を強め、再び眼を開くレクト

その眼光はより輝くものとなり

夜の公園が薄っすらと緑に光り出す。



「それがお前の本気ということか…!!

良いだろう!決着を付けるッ!!」


“飛蝗”-飛陽とび-



HOPPERは先程よりも更に勢いを付け

上空へと跳び上がる

…その時



「また同じ技か…?」


「…な!?」


上空で顔をあわせる2人。

レクトも地上からHOPPERの眼前まで

飛び上がって来たのだ。



「貴様…一体…!?」


思わぬ事態に困惑するHOPPER。


「どうする?さっきと同じ技なら

お前と同じ位置のオレには効果が無いぞ」


あくまで冷静に諭すレクト。



「ぐうッ!!」


“飛蝗”-輝蹴きしゅう-


それに業を煮やしたHOPPERは

左脚に眼力を流し、眼の前にいるレクトに

回し蹴りを放つ



「はぁ…!」


レクトも左脚を折り曲げ

一歩遅れて眼力を溜め込む

…だが



「トォアァッ!!」


HOPPERの攻撃の方が速く放たれ

レクトの眼力を溜め込んでいる左脚に

爆発的な威力の蹴りを叩き込む

…しかし



「救いようが無いな…」


「な!?」


的中し生まれた衝撃はレクトでは無く

放ったHOPPERに跳ね返る。

信じられないと言ったHOPPERの表情

それだけを残し、HOPPERは遥か彼方まで

吹き飛ばされて行った。




「やり過ぎたな…」


着地しHOPPERが吹き飛んだ方向を見やる。

仕事上、身柄を確保しなければ

達成では無いのでこういった場合は

失敗という事になる。



「まぁ、あそこまで跳べば

帰ってくるまでに少しは反省するか…」


緑眼で飛び去ったHOPPERは

どうやら周囲に民家も無い湖に落ちたらしく

レクトは追撃をする気も起きなかった。



-PM7:10 帰り道-


「さぁ…明日はもう一件の解決だな

…オレの力で対処できれば良いが」


帰り道の途中、町のガラス窓に

自分の眼を映す。スキュラは

七色の眼色があり色により能力が異なる。

更に個人能力は漢字二字で

表現する事ができる。HOPPERの場合は

『変化系赤眼“飛蝗”』そして

レクトの眼に宿る力は『空間系緑眼“反射”』

対象の動きを逆方向に跳ね返す力を持つ。

壁として攻撃を跳ね返すことや

ジャンプ台として利用する事など

用途は様々である。




「さっさと帰る…か」


“反射”-返壁へんへき-


自分の背後に反射の壁を展開。

ジャンプして左脚で思い切り蹴り

風のような速さで空を駆ける。

先程までは空が曇っていたが

知らぬ間に晴れており、大きな月が

顔を覗かせていた。



「フッ…」


月を見て微かに笑うと、再び反射の壁を

展開して蹴り跳躍。背泳ぎのように

空に顔を見せながら駆ける。

すると、どこかから不自然に重い物が

町に落ちた音がした。


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