表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ABSOLUTEYE  作者: 703
魔神
11/12

不意

-AM8:15 テラスタワー-


「…ッ」


先程の魔神の毒気でショックを受けたのか

タワー内のエレベーターが停止し、む無く

非常用の階段をひた走る。

最上階にいる魔神と対峙するには

かなり時間が掛かるが、今のレクトには

心を落ち着かせる為の貴重な時間となる。



-テラスタワー 地上300m地点-


「ハッ…ハッ…!」


流石に休み無く、階段を駆け上がると

息が荒れ口の中が乾く。更に上に行くに従い

濃度を増す毒気が身体をむしばむ。


(もう少し…ッ)


歯を食い縛りながらレクトは熟考する。

自分の新たな力。《弐眼》とでも言うべき

二つ目のスキルについて。


(移動…出没…、いや違う…!

もっと、別の何かなんだ…!

空間系の瞬間移動…名前が…くッ!)


生まれながらに持っている壱眼すら

眼力の高いスキュラに見定められ

教えてもらう事が無ければ、時間が

経過して自然に名前を知るしかない。

いくら、自分の力であっても自由に使うには

時間が掛かるのだ。まして、こんな

非常事態に新しい強力なスキルが

身に付いたとしても、名前が

見つからない限り、付け焼き刃にも

ならず、使う事は出来ない。


「…ッ!」


しかし、止まる事は出来ない。

止まれば更に魔神に猶予ゆうよを与えてしまう

事に繋がる。レクトは焦りをつのらせ

自ら処刑台に上がるしか無いのだ。



-テラスタワー最上階(530m)地点-



「まさか、最後まで障害が残るとはな…」


外の景色を見ながらも、迫りつつある

レクトの気を察知し、溜息を吐く。


「…いや、障害にもならんか」


しかし、すぐに言葉を訂正し

身体を非常用階段の入口に向ける。


「来るなら来い…不良品よ」


魔神に乗り移った闇が黒く輝き

毒気が一層強まる。



-テラスタワー周辺の国道-


「ようやく始まるか…」


国道からテラスタワーを見つめる

ABSOLUTEYE社長。その周囲には

十体を超える破片となったDOLLの死骸が

撒き散っていた。


「私の手伝い無しで、倒してくれよ」


意味深な微笑を浮かべると

身を翻しその場から静かに歩き出す。

…そして


「テラスタワー周囲にいる生命の

避難は完了したか?」


懐から携帯電話を取り出し本社へ連絡。

避難状況を聞く。


『はい、既に結界を使い仮想空間へ

転送を完了しました。テラスタワー周囲には

社長と支社長レクトのみとなっております』


「よくやった。転送の持続時間は?」


『総動員で行いましたので、結界が

破壊されなければ5時間は確実に』


「十分だな…あとは魔神の対処次第か」


テラスタワーを一度振り返り

また、本社に向け歩き出す。

…そして




-テラスタワー最上階-



「はぁ…はぁ…ッ」


汗がほおを伝い、遂にレクトが最上階に到着。

既に疲労と毒気で体力は擦り減っているが

その眼力と気力は衰えず、温まった身体は

臨戦態勢である。



「まさか、ここまで来れる性能だとは

…少しは、驚かせてくれるな」


「魔神…!?」


しかし、魔神の表情を見ると心が揺らぐ。

自分が初めて魔神と会った時の雰囲気と

そぐわないものを感じたからである。


「お前…魔神じゃないのか?」


「フッ…」


レクトの問いに眼を閉じ一笑する。

…そして


「いや、これが魔神の正式な姿だ」


邪気とも取れる濃い毒気を発し

威圧的な笑みを向ける。



「正式…!?」


「成長し、力が増大した魔神に

私の意識を搭乗させる事で、この力を

私が使う事が出来る」


「お前は魔神を乗っ取っているのか!?」


「そうだ、この世界を破滅させる為にな」


「そんな事の為に

純粋な魔神を利用するのか!?

お前は一体何者だ!!」


「私は魔神の生みの親だ、そして

目的の為に魔神を純粋に生み出した」


「…ッ」


淡々とレクトの問いに答える

魔神の顔をした謎の悪意。

その清々しいまでの邪悪さに

疲労した身体から怒りが込み上げる。



「魔神は命を奪う事が出来てしまう自分を

嫌っていた優しいヤツなんだ…!」


「…そうか」


「それを身勝手な理由で

無理矢理させるようなお前を

オレは許す事が出来無い…!」


左眼を緑に輝かせ、震える拳を握り

魔神の悪意を睨み付ける。


「…よって、身勝手な理由で私を倒すか?」


それに対し両手を広げ

挑発的な笑みを返す。

…すると



「ああ…オレは

正義の味方じゃ、ないからなッ!!」


“反射”-返鎧-


全身を反射の膜でコーティング。

空気の様に溢れる毒気から身を守る。


「愚かしい。その程度の眼力で

いつまで保つものか…!」


-魔砲-


魔神の左手から、レクトに向かい

高圧の黒い邪気が竜巻状に噴き出す。



「ぐッ…うぅ!!」


黒い爆風が身体を切り、反射膜の

コーティングにひびを入れ

更に、レクトを通り抜けテラスタワーの壁に

風穴を開ける。



「うぉあぁッ!!」


しかし、レクトの闘志は折れず

爆風を振り払うと魔神に肉迫。

射程内まで入り込み、拳を握り込む。

…しかし


「ふんッ!」


-魔宮まきゅう-


「ぐぁ…ッ!」


魔神は顔色一つ変えず、左手を振り下ろすと

凄まじい重力がレクトに降り掛かる。



「調子に乗るな…小僧」


「ぐぅッ!」


前のめりになり立ち止まったレクトの首に

魔神の振り上げた脚が直撃。急所に

一撃を見舞われ思考停止したレクトは

仰け反ると悲痛な声を漏らす。

…さらに


「ふッ!」


「カッ…!」


露わになった腹部に左拳の追撃を喰らい

折角詰めた距離を再び離され

テラスタワーの冷たい床を仰向けで滑る。


「今の若きスキュラは

私の世代ほど強くは無い、か…」


半ば残念そうに地を滑るレクトを見下す。



「はッ…はッ…はッ…!」


腹部を押さえ、昏倒したまま天井を見る。

自らが挑んだ敵の強さと、反射膜が

大幅に剥がれた為、再び感じ始めた

魔神の毒気に身体が動かない。



「ABSOLUTEYEが見込んだスキュラが

どれ程のものかと思ったが見当違いか…

…つまらん玩具に用は無い」


「ぁッ…!」


ゆっくりとレクトに近付き

倒れたままの首を右脚で押さえ付ける。


「死後はお前をここに招いた

カムイを憎んで過ごすが良い」


-魔轟-


そして、左掌に黒雲の如き邪気が

出来上がり、レクトの胴に向けると

言葉と共に放つ。



「ッカ…うッ…!」


眼前を覆い尽くす死の色に

踏み締められた喉から嗚咽の様な叫びが

泡と共に漏れ出る。




「小僧…何をした」


「…!?」


レクトを踏みつけていた魔神の脚が床に付き

放たれた邪気は、その床に罅を入れ

撃ち砕く。そしてレクトはそこから

少し離れた所で片膝を付いていた。



「小賢しい…楽に消えていれば良いものを」


ゆっくりとレクトに向き直り悪態を吐く。

…しかし



(また、あの力…!一体何なんだ…!)


死ぬ直前に、また難を逃れるが

魔神以上に混乱し、首を振るレクト。

能力がハッキリしていないものが

勝手に発動する事ほど面倒は無い。


(どうして、無意識下で

反射的に発動する…ッ、え…!?)


「どうした…おかしくなったか?」


歯噛みし考え込むレクトは不意に

何かを閃き、眼を見開く。

…すると


「オレなら有り得ない事じゃない…」


ゆっくりその場に立ち上がり呟く。

…そして



「すぅ…はぁ…」


大きく深呼吸し身体の力を抜き

完全に脱力。眼光も辛うじて

緑になっているという状態である。



「ナメているのか、諦めたか

最後までわからんヤツだ…!」


-魔砲-


レクトの態度に怒り、邪気を集めた

光線を一直線に放つ。

…しかし



“反射”-返壁-


「なっ…」


全く脱力している状態から

不意に眼力を向上させ反射壁を展開。

更に、ストレスを感じていないのか

反射壁もレクトも魔神の毒気に

干渉されていない。



(そうか…、コイツは“反射”的に

私の行動に対処しているのか…!)


レクトのスキルを改めて考慮し

答えを導き出す。物を別方向に

弾く力では無く、考える事を捨て

身体に任せて動く反射をレクトは

用いているのだ。


小癪こしゃくな…!」


毒気で疲弊もせず、邪気による攻撃も

本能的な防御で意味を成さない。

今のレクトは、魔神の力を

確かに押さえ込んでいる。

…しかし



「な…!?」


「…。」


不意にレクトが自身の真横に現れる。

謎の瞬間移動である。まさかの事に

驚きを隠せない魔神。

…しかし


「くッ!」


「ぐわッ!?」


投げやりに放った回し蹴りが

レクトに直撃すると、情けない声が

気が付いたレクトから出る。


「どこまでふざけている!!」


「がッ!!」


頭に来た魔神は顔面に左拳を突き出し

レクトを殴り飛ばす。



「く…ッ」


俯せで倒れるレクトは事の次第が

分かっていない様で、殴られた頬を

押さえて魔神を見ている。



「あまり私を怒らせるな…

子供騙しの技で何とかなると思ったか!

瞬間移動に似た転移など

使いこなせなければ、ただ懐に飛び込む

だけの自殺にしかならんぞ!!」


「…。」


余りの相手の不甲斐無さに

思わず説教する魔神の悪意。レクトも

それを聞くと、頭を下げ身体を震わせる。

…だが、その時



「そうだ…“転移”だ…!」


「…ッ」


レクトの顔が上がり、呼応する様に

右眼の異眼が眼が輝きを始める。

それを見つめる魔神は少し顔を歪めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ