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ABSOLUTEYE  作者: 703
魔神
10/12

開眼

-AM8:02 テラスタワー入口-


「…。」


テラスタワーの入口の左右に仁王像の如く

立つ、二体のDOLLから視線を外さず

TRICK・SHOT-Lから静かに降りるレクト。

社長が眼力をチャージしてくれた事によって

移動による眼力の消費は無い。



「…。」


「…。」


立ち塞がる二体もレクトを左眼に捉えたまま

腕を組み、近付けば命は無いとでも

言いたげな無言の威圧を掛ける。



「スゥ……フゥ…ッ」


一度、深呼吸し鳴り響く心臓を

落ち着かせる。眼と鼻の先に魔神がいる

という焦る気持ちと、眼前に立つ二体に

恐怖する心が入り混じり混乱しているのだ。

感情的になって勝てる相手では無い。

それは他でもない自分がよく知っている。



(だったらどうする…?)


以前に起こった正体不明の時間移動により

相手から見れば自分は初対面。その為

当たり前だがレクトのスキルや

力量は知らない。しかし、DOLLは情報を

共有できる為、ハッキリ言ってレクトと

初対面であってもスキルと力量は間違い無く

把握している。つまり、ハンデは無い

幸いなのは、レクトも二体のスキルを

把握している事である。



(右のDOLLは“捕縛”、左のDOLLは“粉砕”

前回の戦いから考えて、相手を捕縛した後

一撃で粉砕する協力的な戦い方だ。

なら、右のDOLLの方が厄介だな…

…左のDOLLがオレのスキルより強いなら

危険だが…仕方が無い)


考えがまとまり、レクトの左眼が

緑光を放つ。そして、決意が揺らぐ前に

脚を踏み込み全力で駆ける。

…すると


「対象、規定エリア内侵入確認。排除」


それに合わせ左のDOLLが真っ向から迎撃。

左眼を薄黒く輝かせると突撃するレクトに

左腕を突き出す。


“粉砕”-伐骨-


「…ッ!」


“反射”-返壁-


それに対しレクトも掌に反射壁を作り出し

DOLLの拳に向かい突き出す。

…すると



「ぐ…ぁッ!」


「ムン…ッ!」


両者の力は拮抗したまま弾き飛び

上体を仰け反りながら衝撃で後退する。


(同等か…!)


“反射”-返壁-


「フッ…ハァッ!!」


DOLLより先に復帰するレクトは

自身の後方斜め下に反射壁を展開。

衝撃の勢いを利用して、自らを反射させると

DOLLの斜め上まで跳び上がり

側頭部を思い切り蹴り飛ばす。


「ガカ…ッ」


痛覚は無い様に思えるが、意表を突かれ

ノイズめいた雑音が漏れ出る。



「キィー…ン」


蹴り飛ばされたDOLLは受け身を取り

地面を転がると反転し金属音を

出しながら向き直る。


「…前回の分だ」


薄笑いを浮かべるとDOLLに向かい言う。

決着にはまだまだ遠いが、手も足も

出ないまま自分を即死させた相手に

一撃決めたという事で自信が生まれたのだ。

…すると



「対象戦力・高、援護要求」


もう片方のDOLLに眼を合わせると

淡々と救援を求める言葉を発する。


「…援護、受理」


それに答え、沈黙を通してきた

もう片方のDOLLが組んだ腕を解き

数歩、前に進むと左眼を薄黒く輝かせ

遂に臨戦状態に入る。



「ここからが本番だな…」


それを見やると眼を細め、湧き上がった

無駄な力を再び落とす。

…すると



「制限…解除!!」


レクトが気持ちを整えたと同時に

左のDOLLが身体を震わせ叫ぶと

レクトと同じ背丈だった身体が盛り上がり

二倍近い体格へと急上昇。顔は相変わらず

黒包帯で隠れているが、筋骨隆々な上体が

露わになり、更に右胸に刻まれたZの文字が

威圧を掛ける。



(コイツ…ッ、やはり常軌を逸している!)


鎮めたハズの余計な感情が、不条理な現実で

再び湧き上がり、思わず歯噛みする。


「対象、完全、粉砕!!」


「くッ!」


“反射”-返壁-


「粉砕!」


「なッ!?」


肉迫に反射壁で応戦するが

力を増強したDOLL-Zには効果は無く

拳の一発で粉々に砕け散る。


(技無しでこの威力…!

正面から当たるのはマズい!)


“反射”-返壁-


眼前まで迫ったDOLL-Zに対し

反射壁を再び使い、ジャンプ台にすると

真上に飛び上がる。

…しかし



「対象、回避、拒否」


“捕縛”-蛇鋼-



「!?」


もう一方のDOLLが不意に呟くと

まるで、地面が意思を持ったかの様に

ひも状に伸び上がり、飛び上がるレクトの脚に

絡み付くと地面に叩き落す。


「ぐァッ!」


両脚を拘束されたまま、

俯せで倒れ衝撃で呻く。

…さらに


「命中率90%!!」


“粉砕”-伐骨-


「…!」


待ち構えていたDOLL-Zが拳を振り上げると

薄黒い気を溜め、言葉と共に振り下ろす。



“反射”-弾圧-


「ガカ…ッ」


しかし、反射の弾丸が拳に向かい放たれ

弾かれると、機械音を出し中断。

身体が硬直する。



「ふッ…ぐッ…!!」


その隙に、蛇の様に絡み付く地面から

逃れようと両手を地面に着き

緑眼を輝かせ力むレクト。しかし

捕縛は紐の様に柔軟だが硬度は地面の

コンクリートから変わっておらず

足掻いても逃れる事は出来ない為

アシカの様な格好で憎々しげに

脚元を見る事しかできない。

…その時


「命中率95%!!」


DOLL-Zは先程より高い命中率を叫び

再びレクトの胴に向かい拳を振り下ろす。

…だが



「うああッ!!」


レクトは叫ぶと瞬時に

DOLL-Zの両脚の間に滑り込む。

…すると



「対象、回避!」


レクトがDOLL-Zに突っ込んだ為

胴があった場所に脚が来る。

それを粉砕してしまった為、レクトの

捕縛が外されたのだ。


「はァッ!!」


“反射”-緑蹴-


DOLL-Zの股下を抜けたレクトは

眼力を溜めた左脚で相手の左膝の裏を

蹴り飛ばす。


「ギギ…ギ!」


上半身が肥大化しているDOLL-Zは

身体の重心が崩されると地面に左膝と

左手を付きひざまずく。


“反射”-緑蹴-


「フッ…!」


この絶好の機会を逃すハズ無く

再びレクトは眼力を左脚に伝わせ

とどめの一撃を放つ。

…しかし


「Z、予想被害甚大、援護」


“捕縛”-虎鋼-


「ぐッ…」


相手もそんな事を許すハズ無く

今度は、鉄骨の様に強靭な柱を地面から

レクトの左脚を巻き込みながら伸ばし

完全にその場に固定する。

…だが


「ウラァッ!!」


左脚が固定されると、右脚にも眼力を流し

地面を蹴る。そして、地面とほぼ平行に

なりながらも体勢が崩れたDOLL-Zの頭部を

思い切り蹴り飛ばす。


「ゴッ…コァ…!」


利き足での一撃ではなかった為

止めにはならなかったが、重い一撃を受け

頭を先にし吹き飛ぶDOLL-Z

…さらに


「ハッ!」


“反射”-返壁-


間髪入れず、DOLL-Zの

吹き飛んだ方向に反射壁を設置。

…すると



「ガッ…クァ!!」


反射壁に弾かれたDOLL-Zは進行方向を

途轍も無い速度で引き返し、レクトを

拘束する地面の柱に直撃。それにより

捕縛が破壊され解除される。

…さらに


「オォアッ!!」


レクトの連撃は留まる事を知らず

地面に倒れたままの状態で、自由になり

眼力がまだ溜まっていた左脚を

DOLL-Zに叩き付ける。

…すると


「…カ…ッ」


「眼前、Z、回避、不…!!」


待機していたDOLLに蹴り飛ばされた

DOLL-Zが激突。凄まじい勢いで飛んで来た

相方を正面から受け、二体はテラスタワー

まで飛ぶと入口の強化ガラスを粉砕する。




「はぁ…ッ、どうだ…!!」


眼力を酷使した為、流石に息を乱すレクト。

しかし、二体に甚大なダメージを与え

満足そうな笑みが現れている。

…その時



「ッな…これは…ぐぁああッ!!」


突如、苦しみ始めるレクト。二体の

DOLLが原因では無い。身体を圧迫され

吐き気をもよおす様なモノ。魔神の毒気である。


「まさ…かッ…!」


跪いて、テラスタワーの最上階を見やる。




-AM8:15 テラスタワー最上階-


「やっと、完成と言えるところだな…」


超高温の炎の様に魔神の周囲が

発せられる薄黒い陽炎で揺らめく。

魔神はその中心で未だ満足いかなそうに

無表情で呟く。


「守衛のDOLLには少なくとも

あと1分は耐えてもらおう…」


入口を見下ろすと

右手の指先から紫色の細い光線を

倒れるDOLL二体の頭部に放つ。


「壊れても良い…壊せ」




-テラスタワー入口-


「命令…」


「…受信」


主人からの言葉を聞き入れ、火花を

散らしながら身体をきしませ立ち上がる。



「くッ…!」


再び立ち上がる二体に歯噛みするレクト。

先程までならまだ良かったが

魔神の毒気が流れている今は動く事すら

ままならない。この状況下は

一度、死んだ時とよく似ている。



「対象、破壊、許可…!」


“粉砕”-壊形-


「我等、破壊、許可…!!」


“捕縛”-波締-


身体を爆弾の様に膨らませたDOLL-Zと

地面を波の様に噴き上がらせるDOLLは

防御を忘れ、自滅を覚悟で狂った速さで

レクトに迫る。



「カッ…!」


何とかして避けようとしたレクトだが

毒気に煽られ吐血し動きが止まる。

気付いた時にはDOLLに身体を掴まれ

眼前は爆発の赤い閃光に塗り潰される。





「…ッ!?」


レクトは生きていた。爆発から

難を逃れたわけでは無い。また、誰かが

助けてくれたわけでも無い。

気が付いた時レクトは

テラスタワーの内部で、入口の外の

DOLLが爆発したのを見ていたのだ。



「…!?」


本人も動転して何が起きたのか

把握が出来ていない。浮き足立ったまま

入口を出て爆発を調べる。

DOLLは二体共消し飛び、破片が

その辺に散らばっている。つまり、レクトは

何らかの方法で、この爆発から

テラスタワー内部まで逃げ延びたのだ。


「バカな…」


前回と同じ、死ぬ間際の瞬間移動を

再び体験し、狼狽するレクト。


「…。」


だが、そんな時間は無いと

自分に言い聞かせる。まだ、魔神を

対処できたわけでは無い。こんな所で

時間を費やしている場合では無いのだ。


「…ふぅ…」


一度、深呼吸すると身を翻し

テラスタワーの最上階を目指す。

…その時



「なッ!?」


息を整えた瞬間、再び驚愕する。

テラスタワーの強化ガラスに映った自分。

その右眼に、あるハズ無い緑光が

消えそうではあるが、輝いていたのだ。



「もう一つの異眼…!?」


一人のスキュラに一つの異眼。

その常識が崩れ始めたのだ。

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