表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ABSOLUTEYE  作者: 703
魔神
1/12

起動

「英・断・拳!!」


鬱蒼とした樹海の中に立つ2つの影。

その内の1人が、純白の閃光を輝かせた

拳を振るい相手を叩き伏せた。


「ゴァッ…!」


叩き伏せられた方は、悲鳴を吐き出し

ショートした機械のように火花を散らし

焦げた臭いを散らつかせ倒れる。

背格好は人並みだが、それは人間とは

似つかわしくない異形の姿だ。



「…邪魔が入りましたが

目的地まで到着しました。

…これは、一体なんなんでしょう?」


倒れた謎の敵対者をまじまじと見ながら

手にした特殊な携帯電話で通信を取る女性。

先程の真剣な顔とは打って変わり

興味津々と言った表情を見せている。


『アンタが知ったところで

どうにもならないでしょ

で、辺りの地形はどうなってる?』


通信を受け、大型トレーラー内で

複雑そうな機械類を操る若干

樹海にいる女性よりも歳上そうな女性。

表情は面倒臭いという気持ちを隠そうとは

思っていないと受け取れる。



「そっちからわからないんですか?」


『わかってたらアンタを

無駄にそっちへ行かせないわよ。

理解しなさい万年電波刑事』


「電波って…あ、で

この辺一帯なんですが、なんでしょう

生物がいる感じがしないというか

なんというか…何も生きていない…?

と言うんでしょうか…」


辺りを見回し実直な感想を告げる。

…すると


『なるほど、なら噂は本当らしいわね…』


「え?」


『フライングして調査してみたけど

今回の件は私の手に負えるものじゃないか…

遺憾だけど任せるしかないわね』


「あの〜…あんまり

話について行けないんですが…

あと…私達じゃないんですね、ショック…」


左手を腰に当て肩を落とす。

皺だらけのスーツに更に皺が刻まれた

気がした。


『じゃ、後はABSOLUTEYEに

任せるとして高みの見物ね。アンタも

さっさと帰って来なさい…プッ』


言い切った瞬間に途切れる

自己中心的な通話終了の合図。


「あ、切れた…

え…と、あぶそりゅーてぃー…?

聞いたことがないんだけど…」


携帯電話を懐に戻し

首を捻る。わかることは

面倒事がまた始まったこと…そして



「樹海であっても…

私への迎えは…期待できないですよねぇ…」


未開の地でボッチという事である。

思わず頭を抑える。数字が刻まれた左手で。



-明日AM10:00 笑見市えみし海辺付近の一軒家-


都心にやや近い自然を

人間の開発事業が飲み込みつつある

平凡な市〈笑見市えみし〉。その海がよく見える

一軒家には、反日常的なまでに

警官達が群がっていた。警官達の表情は

案の定曇っており、辺りに広がる血の海に

目を逸らしながら仕事を進めている。


「いつかの一家惨殺事件を思い出すな…」


「ああ。でも、アレは終わったし

世間には知られていない…。

模倣した事件、ってわけでもないだろ…?」


被害に遭ったのは、家族と見られる3人。

いずれも、トラックに衝突したような状態で

目を見開いたまま倒れており、警官達も

あまりに凄惨な状況に不穏な空気を

感じ始めていた。

…その時



「被害者はいずれも何者かによる

圧倒的な力を真正面から受けて即死

攻撃に微塵も容赦が無い状況から見て

犯人と被害者の繋がりは無し」


音も無く突然、高校生くらいの少年が

現場に現れ、遺体を見つめ呟いていた。


「人間以外に傷が見られないことから機械や

凶器など物を使っての犯行でも無いな…

となると、やはり…」


無惨な死体を見ても動揺する素振りは無く

ただ着々と現場を調べ尽くしている。



「何をしている!!」


それに気付いた警官達は不法侵入者に対し

怒りの形相で近付く。しかし…



「ああ、失礼」


「…ッ」


少年と目が合った瞬間、何か

見た事もないものを見たような

得体の知れない緊張感に見舞われ

身体が硬直する。



「調査ご苦労様です。

突然の訪問をお許しください」


少年の方も警官達に気付き

慇懃に礼をする。


「君は、一体何者だ…!?

子供が勝手に入ってはいけないと

知っているだろう!?」


相手の意外なまでの冷静さに焦りながらも

出て行かせようと詰め寄る。


「もっともな意見ですが、今回の件

どうやらオレにも関係がありそうな

事だったので」


意見に反論はせず、受け流すように答える。

真正面から見ると少年は、黒髪の

ミディアムな髪型で表情はどこか儚げ。

所謂、年齢相応の少年といった風貌。

なのだが妙な眼力があり、整った顔が

人形のような印象をを見る者に与えていた。



「君が何者かは知らないが

ここは、我々の持ち場なんだ

さぁ、帰ってくれ!」


「いいんですか?」


「は…!?」


子供の戯言に少々怒り、追い払おうと

声を荒げるが、再び少年の言葉で

言葉に詰まり、声が漏れる。

当の少年は、そんな心境は察せず

遠くを見るような目で警官達の先を

見つめていた。


「オレがこの場からいなくなれば

約1分後、死体の数は3人から

10人に増えます。確実に」


「じゅ、10人…?」


この場にいる警官の数は7人。

つまりは、皆殺しになると少年は

遠回しに説明したのだ。


「はッ…!何を言ってるんだ…?

脅迫のつもりなら止めておけよ…。

これ以上は公務執行妨害に…」


「ぐわぁッ!!」



「なんだ!?」


「…来たか」


警官の最終警告を遮り、真後ろで

悲痛な叫び声が響く。大事には

至っていないが1人が腹部を掻き切られ

血を流し始めた。その様子に硬直する

他の警官達と、冷静に見つめている少年。


「一旦現場から退いて、人が集まると

舞い戻り、更に人を殺める。合理的だ」


少年は状況を述べた後

現れた犯人に向かい一笑する。



「…。」


突然、被害現場に現れた犯人と思われる

黒いコートを纏い、フードを目深に被った

人型の犯人。気配や言葉も皆無のその様子は

不気味であり、不声明である。



「何なんだ…次から次へと…ッ!?」


度重なる人外的存在の出現で

ついに狼狽し始める警官達。


「どうやら人間でないことは確かです。

命が惜しいなら、怪我人を抱えて

逃げる事をお勧めします。

ここはオレが解決しますから」


「君は一体何なんだ!?」


に及んでまだ冷静な少年に

半ば怒りを表しながら問い掛ける。



「あぁ、紹介遅れましたね

オレはABSOLUTEYEアブソリューティーの社員。レクト」


淡々と懐から、貰ったばかりだろう

新品の社員証を出す。



「ABSOLUTEYE…って、まさかあの!?」


現場の数人が顔色を変えて呟いた。

…その時。



「ォアウッ!!」


沈黙を守っていた黒い人型の生命体が

唸り声を上げ警官達に襲い掛かる。

…しかし。



「ギィィッ!?」


突然、跳ね返されたように逆方向へ吹き飛ばされる。

怪人が飛ばされた着地点にあったテーブルが

凄まじい音と共に破壊される。

しかし、誰も動いた様子はない為、警官達も

唖然としてそれを見つめる。


「お前には悪いが、この場でこれ以上

怪我人を増やすわけにはいかない。

それでも、襲い足りないなら、オレが相手だ。」


怪人が吹き飛ばされた後、静かに

警官達と怪人の間に入るレクト。

その表情は相変わらず冷静な顔をしている。



「オイ…君…!」


「早く逃げてください。

死にたいなら…そのままで」


「…ッ」


警官達に対しても先ほどのような

態度ではなく高圧的な眼で訴える。

警官達はその眼光に微かに震えると

言葉を聞き受け、怪我人を抱え

被害現場の裏口から姿を消す。



「ウゥ…!!」


せっかくの獲物を逃がされる。追いたいが

レクトが行く手を塞ぎ前なは出ることができない。

怪人は苦々しく獲物の後ろ姿を目で追う。



「さぁ、邪魔はいなくなった。

もっとも、お前にとっては獲物だったか」


「ギゥアア!!」


レクトの言葉に触発されたのか

勢いよく飛び掛かる怪人。それに呼応し

手に生えた爪は、手を二倍にして

余りある大きさに伸び上がる。



「ガォッ!!」


今まで、獲物にしてきたように無慈悲に

レクトに振り下ろされる強靭な爪。

…しかし。



「悪いがオレには通用しない」


「カッ…!?」


振り下ろされた強靭な爪はその威力を発揮する事無く

手首を掴まれ、動きを封じられる。怪人の力は

凄まじいハズだが、それでも掴んだレクトの手は

揺らがない。



「なるほどな…お前、限界リミッターか」



レクトは怪人の左手の甲を見ると眼を細め呟く。

訝しげに怪人を見つめるレクトの眼。



「グッ…クッ…!!」


対して怪人の方は、レクトの話に

耳を貸すような態度では無く

掴まれた手を振りほどこうと

身を揺さぶっている。しかし、掴んだ手が

緩むことは無い。



「見た所、人工の生命体のようだな…。

システムも欠陥が多い。放っておいても

その内、動かなくなるな…」


怪人が呻く中、独り言のように呟く。

そして一通り解析を終え、レクトはなんと

怪人から手を離し、距離を開ける。



「…ッ!?」


いきなり自由を許された怪人。

想定外の事態に若干、狼狽する。



「ガァァ…!?」


しかし、これを好機と判断し

再び強靭な爪を伸ばし始める。

そして、同時進行で左手の甲の数字も

減少を始め、20を下回る。



「数字を減らすしか出来ないなら

元々、生かすつもりは無かったんだろうな

お前の造り主に会ったら、改めるよう

言っておこう」


レクトはそう言うと、瞳をゆっくり閉じる。

しかし、戦闘態勢を緩めたわけではない。

まるで、力を体内に集めているように呼吸を整える。

…そして。



「悪いがここまでだ。」


レクトの眼が再び開く。しかし、その左眼は

人間のように黒くは無く、翡翠ひすいのように

強い緑色の輝きを放っていた。



「…ガゥオオッ!!」


レクトの眼の色が変わった事がわかっていたのか。

そんなことは意に介さず愚直に飛び掛かる怪人。

風圧で被っていたフードがまくり上がり

まるで生皮を剥がされた獣のような

薄桃色の顔が現れる。



「はぁぁ…!!」


対するレクトは、左脚を前に出し両手を広げ

中腰の姿勢を取る。すると緑の左眼から

身体の神経や血管を通り、美しい緑の輝きが

左脚へ流れ込む。



「ガラゥオオッ!!」


レクトの頭を目掛け、前夜

一家を即死させたように全力で

飛び掛かる人工の欠陥限界である怪人。



「セアッ!!」


しかし、緑の眼で完全に動きを先読みしていた

レクトの身体を捉える事は出来ない。

緑色の輝きを放つ痛烈な左回し蹴りを受ける。

顔面を潰された怪人は濡れた紙の如く、錐揉み状に

跳んだ方向と逆の海へと吹き飛ばされた。




「…。」


レクトの左眼は黒く戻り

小さく、怪人が墜落した海に視線を送る。

そしてそのまま、現場を後にし

自宅まで歩を進め始めた。




-ABSOLUTEYE本社-


人工衛星を通し、レクトが行った

先程までの事柄はチェックされていた。

薄暗い一室では、目付きの鋭い者達が数人

ホログラムだが、集まり

監視カメラの映像を吟味している。


「上々というところだな」


その中の一人、ABSOLUTEYEの

社長が皆に聞こえるように言う。


「確かに、欠陥品とは言え

本気を出していない状態で限界リミッター

瞬殺できるなら即戦力ね。というか

そんな事を見せるために私を呼ぶなんて

自慢が過ぎるわね」


ホログラムの女性が何やら

電子タブレットで仕事をしながら

溜息交じりに言う。


「私も問題は無いと思う

もっとも、全力を出していない

戦いを見せられても力は計れないがね」


更に屈強な男性が付け足し言う。

しかし、本心は先の女性のように

興味が無さそうに見える。


「言う事はもっともだ。

まぁ、私達ABSOLUTEYEは

この中では新参者。これから実績を

伸ばしていくつもりだ。例の案件も

これから取り組んでいこうと思っている」


「ご勝手に、こっちもこっちで忙しいから

加勢は出来ないと思うけど。

じゃ、私は仕事に戻るわ」


社長の言葉に生返事し

一人のホログラムが消えると次々と

他の関係者も消え室内は社長1人となる。



「レクト1人で『魔神』に対抗できるか…」


暗い一室で、一枚の資料を見る。

これから倒さねばならない者の資料だ。




-合仙岳ごうせんだけ ふもとの樹海-



「グッ…クハァァァ…ッ」


岩山を覆い尽くす鬱蒼うっそうとした樹海。

そこに唯一人、レクトと同い年くらいと

見られる、足下まである長い髪を垂らした

裸の少年が白い息を吐く。眼に力は無く

唯々、辺りの景色を見ている。

その景色も少年を中心に数10mほど

荒地の如く枯れ果て、動植物の気配さえ

無くしていた。

彼こそが〝魔神〟害悪をもたらす生命。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ