第四話 不思議だよね
変態度とエロ度を下げました。
だって、R15ですから!
―case3 チャライ庶務(水田 潮)との出会い――裏庭。
愛夢は、庶務に期待をよせていた。
生徒会長と副会長は、愛夢にとっては、外れも外れ。抜けさく君どもだった。
意地悪してくる事もなく、紳士的な彼ら。
もしかして、愛夢が後輩だからかもしれない。
年下の女の子を苛めるのが、嫌なタイプなのかもしれない。
庶務は同じ学年。
しかも“チャライ”という素晴らしい形容付きだ。
チャライなら女遊びも盛んに違いない。ヤリチンでドSかもしれない。
彼に身体だけ弄ばれて、貢がされて、最終的に夜の街に売られるルートなんて、ゲームでは語られなかった裏BADENDがあるかもしれない。
チャライ=エロ担当を期待して、彼に近づく事にした。
彼の隠れ場である裏庭に足を運びながら、妄想する。
『約束通り、下着をつけずに登校したか?』
『もう……こんなの……嫌』
『ハッ、変態。本当は喜んでいるんだろ?』
『ち、違うのぉ!』
(下着つけるなプレイは定番ね。 玩具的な遠隔操作も定番だし……もっと他に凄い事されるかも)
これから彼にされるだろう――エロい命令の妄想で表情筋がだらしがなく緩んでいるこの世界のヒロイン。
期待を込めて裏庭を覗くと、1人煙草を咥えている庶務の姿が目に入る。
--煙草
愛夢は、無意識に煙草を右手で掴んでいた。
「!!」
熱くない。
そっと掌の中の煙草を確認するが、火は着いていなかった。
タイミングが早すぎたのか。
まだ、火を着ける前だったのか?
何の痛みを感じない掌に、苛立ちを隠せない。
そして、自分の禁断症状について改めて考えていた。
自傷行為ジャンルは真のMとして邪道と思っている。相手があってこそのMなのだ。
しかし、この学園にはいって以来、誰も愛夢を苛めず、ドMと変態の欲求不満指数がMAXな状態でもあった。
煙草をみた瞬間、
『ほら、手を貸せよ』
『いや、やめて!!』
『お前、生意気なんだよ。俺がお灸をすえてやる』
『いや、嫌ぁぁぁぁぁ!!』
ジュ―――――。
と、またもや素敵な妄想が愛夢を支配し、気が付いたら身体が動いていた。
「…………」
煙草をじっと見つめて動かない愛夢に、庶務が腹立たしげに声をかけた。
「俺の煙草でよかったけど、他の奴のだったら火傷で大変な事になってるぞ。馬鹿か! お前は!」
「……馬鹿?」
久しぶりに聞いた、言葉に愛夢は歓喜し、瞳から一筋の涙が頬を伝う。
(……全然物足りないけど……でも、やっと……罵りの言葉を頂いた)
真のMとして、飢餓状態だった愛夢に落とされた一滴の甘露。
その言葉は、愛夢の身体に染み渡る。
それに焦ったのは、庶務だった。
いきなり現れた儚げ(に見える)女子生徒の行動にも焦ってつい、口調が荒くなってしまったが、泣かせるつもりはなかったのだ。
そのまましゃがみ込み、号泣する少女にオロオロとどうする事も出来ない自分の小ささに気付いてしまった。
彼は、元々厳しい親への反発からチャライ振りを続けていた。その証拠に煙草は咥えてみるが火を着けたこともない。噂とは違い、中身は真面目であった。
本当は、きっかけが欲しかったのだ。親への反発という子供じみた自分の行動をやめるきっかけが。
目の前の涙を流している少女が、もしかしてきっかけになるのでは――直感が告げる。
庶務の心に火が着いた瞬間でもあった。
そして、彼は愛夢の方を見ず耳を赤く染めて言う――
「お前の前なら、俺は素直になれるんだ」
―case4 双子の会計(木蔵 漣と聖)との出会い――食堂。
「どっちが、どっち?」
彼らには、愛夢は期待していなかった。
先輩、同学年が、あの体たらくなのだ。
後輩なんて、何も役に立たないと。箸にも棒にも掛からぬ存在だと。
お昼休みの食堂。
愛夢と別グループの女子が、双子会計のクイズをキャーキャーいいながら答えているのを尻目にAランチを食べ終え、トレーを返しに行こうと席を立った。
しかし、本能が愛夢の足を止めたのだ。
「右が兄で、左が弟」
ポロリと出た言葉に、双子会計の笑顔が消える。
そして、ターゲットを愛夢に代え、更にクイズを続けた。
「右が弟で、左が兄」
「右が兄で、左が弟」
「今度も同じ」
「「………」」
クイズは10回続けられたが、愛夢は正解をたたき出す。
しかも、思考時間もなしに瞬時で答えを言うその姿に、双子会計は驚きを隠せない。
「先輩すごい!」
「母さんでも、数秒はかかるのに!」
気が付いたら、食堂内で注目され、拍手まで起こっていた事態。
しかもその視線は好意的なものばかりで、愛夢は内心ウンザリしていた。
「「どうして、見分けられるの?」」
無邪気な笑顔に隠された、愛夢を謀る視線。
「黒色と白色。並べられて、どっち?って聞かれても、一目瞭然でしょ?」
呆れた表情のまま、愛夢はトレーを返しに行った。
(全然違うし。意味がわかんない)
愛夢にとって、双子の区別は簡単についた。
双子弟と自分が同じ匂いを感じたからだ。
そう、弟はMだった。
しかも、無自覚Mで“区別がつけられていない僕って可哀想”と自己陶酔しているタイプのMで、愛夢にとっては幼稚園児の御遊戯。ソフトなMだった。
笑止。
身近な事で快感を得ようとは、Mの風上にもおけない。
しかし、兄の方は軽いS方面みたいなので、もっと地軸がずれて自分好みのSになる事に期待しないわけでもない。
(私が本来のM道とS道を教えてやるべきか?)
その日以来、ちょっかいをかけてくる双子会計に対し、愛夢は兄にはS心を刺激させ、弟には真のMになるように自分が言われて少し嬉しい言葉をかける。「そんなに見分けてもらいたかったら、顔に傷でもつけてあげようか?」と、弟をゾクゾクさせる言葉を耳元で囁いたりと、少しずつ彼の性癖に対して軌道修正を加えていた。
他の学園の生徒たちは、双子の自分2人に対して、同じような態度で接している。
しかし、愛夢は個人として接してくれた。そして、彼ら自身も気付いていない己の性癖を刺激してくれる愛夢と会話するのがとても楽しい。
「愛夢先輩といると、苛めたくなるんだよね」
「僕は、苛められたくなる」
「「!!」」
同じと思っていた自分たちの意見が違った事に、2人は嬉しそうに笑い合った。
「「不思議だよねー」」




